万華ノイシ

――奇病を咲かすはよろずの乙女。華を散らすは誰が為に。
篶杜守
篶杜守

始動-ordinaries-その3

公開日時: 2020年9月12日(土) 15:16
文字数:526

 私は今回の案件について、心配していることがある。

 心配…、警戒と言うべきかもしれない。

 これは私の中でも、わたしから見た私が抱く警戒心だ。

 ある人からすれば私は警察官で、またある人から見ると私は害虫駆除員で、さらには近所のお姉さんなときだってあるかもしれない。

 私を説明する単語は観測する者によって変わるものだから。

 そして、わたし自身が定義する私とは科学者だ。

 病魔という語で定着した、超常を引き起こす現象に関する研究の第一人者として、私は警戒している。


 別谷境の病魔について。


 等々力が来るようになってからは安定していたし、最近は依頼の中身も比較的穏便なものだったから心配していなかったが、ここにきて荒事が入った。

 病魔とは本能の発露だ。

 本能は本来顕現せず、けれど当人の意思決定には確実に影響する、個には認識不可能な最奥の核。

 病魔はその核を引きずり出して、現実世界をも侵食する。

 当然、個の意識は引きずり出された本能に埋没してしまう。

 事態解決のためには、どこかで別谷境の病魔の力を借りねばならない。

 今の境は自らの理性によって本能の暴走を抑えつけているが、場合によっては一〇〇パーセントを引き出さざるを得ないかもしれない。

 そのときに蒸発した理性が戻ってくる保証は、無い。

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