万華ノイシ

――奇病を咲かすはよろずの乙女。華を散らすは誰が為に。
篶杜守
篶杜守

対峙-communion-その6

公開日時: 2021年4月16日(金) 21:00
文字数:701

 痛い。

 喰らえ、気持ちいい。

 痛い、痛い、喰え、もっと、痛い、治す、痛い、食べたい。


 断線しかけのコードに電気を流したみたいに、バチバチとスパークが脳内を駆け巡る。

 外からの受信と内からの発信が入り乱れて、宙に浮いているみたいに意識がフワフワする。

 何も見えない、聞こえない。皮膚を境に外部との感覚的な接点を一切無くしたとしたら、こんな感じなのだろうか。

 しばらくその浮遊感に身を任せていると、混然一体となったその信号群が秩序を取り戻していく。


 痛い。身体の欠損発生。

 治す。捕食済のリソース解放。

 喰え。リソースの補充要求。


 徐々に思い出す。

 そうだ、オレはしくじって城崎の攻撃を受けてしまった。

 触れただけで何でも消し飛ばすトンデモ能力だ。つまりオレは死んだのだろう。

 しかしそうなると、今なお感じるこの痛みは何だ。

 意識が明滅していたさっき程じゃないけれど、右肩の辺りがジンジンと焼けるように痛い。

 痛むということは生きているということ。

 オレは、まだ死んでいないのか。

 ならこの暗闇は何だ。

 すぐ近くにいるはずの城崎はどこにいる。

 そう意識したとき、前方に光の塊が滲み出てきた。

 光が生まれたことで、この暗闇に距離と位置が定義された。

 「捕食」で抜き取った病魔の力のようなソレに、オレは惹きつけられる。

 どういう仕組みか、光の源には手を伸ばすだけですぅっと近づけた。

 その光は触れると暖かく、また何とも言えぬ良い香りがして、食べたら美味いに違いないと感じた。

 バレーボール大の光球を両手で掴んでかぶりつこうとしたところで、オレははたと気付く。

 その手が黒い炎に包まれていることに。

 そして、掴んでいる光球がずぶ濡れの子猫のように震えていることに。

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