◆二〇〇五年 六月十五日 叶市街地 万世通り
足で探すといっても、むやみやたらに歩き回るのはオレの性分じゃない。
神流の事務所を出てまず向かうのは件の爆殺現場だ。
事実に正確に基づくなら殺人と断定することはできないけれど、いちいち「爆殺されたと思しき」なんて表現するのはまどろっこしいし、あの惨状が事件性なく引き起こされたのだとしたらその方が事件だろう。
叶市は中途半端な街だ。
境界の街と言ってもいい。
特別区と市の間に位置しているという点でもそうだし、そのせいか街並みも繁華街とだだっ広い住宅地が混在していて、きっと上空から見ればパッチワークのように見えることだろう。
少し前まではベッドタウンとして栄えたらしいが、都心部の拡大に伴って労働者の居住エリアもより内側へ移った今その勢いは無い。代わりに都心に近い繁華街の辺りは新たな飲食店や娯楽施設が建設されて、休日などは結構盛況している。
オレの住処―神流の事務所はどちらかというと都心寄りの住宅地で、今回の現場がある万世通りという繁華街は電車で五駅離れた場所にある。
所定の運賃を払って切符を買い、各駅停車に一〇分ほど揺られれば目的地はもうすぐだ。
平日の昼間だからか、それほど人通りは多くない。外食や衣類のショップが主だから、日常の買い出しでここを利用する人は少ないだろう。ちらほらと見えるのは明らかに授業をサボってる女子高生か、大学生らしき年代のカップルくらいのものだ。
土日には歩行者天国になる道路を通って途中から裏道に入る。ここは表通りの明るさが嘘のように静かで、空気もじっとりと湿った感じがした。
まるで人間みたいだな、と思う。
外から見える性質と内側にある性質、これらが大抵一致しなくて二面性を持っているところがそっくりだ。
アスレチックみたいに壁のあちこちに貼り付いてる室外機を避けながら、表通りと反対側の道に出る。
こちら側はさっきと打って変わって住居が多い。七、八階建てで同じ形のマンションが道路を挟んで反対側に並んでいて、建物の間には細長い公園のようなスペースがこれまた同じように配置されている。多分、社宅か自治体の建造物なのだろう。
オレはそちら側には渡らずに道に沿って歩く。
確か、現場はこの通り沿いにあったはずだ。
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