万華ノイシ

――奇病を咲かすはよろずの乙女。華を散らすは誰が為に。
篶杜守
篶杜守

別谷境-delinquent-その3

公開日時: 2021年7月24日(土) 09:00
文字数:1,108

◆二〇〇三年 四月十一日 珠川駅東口改札



 誰もが浮かれる金曜日の放課後。

 私は昨日と同じ駅に、昨日と同じように降り立った。

 違う点があるとしたら、昨日は私の日課で来たのに対して、今日は私でない人の依頼でこの駅に降りたというところだ。

 その依頼とは、

「っと、いけない。見失わないようにしなきゃ」

 私の二〇メートルくらい先を歩く、別谷境の尾行だった。

 いや、尾行は大げさかもしれない。刑事さんがするような悪事を暴くためのものじゃなくて、ただ彼が放課後に何をしているのか観察するだけなのだし。

 私がこんなことをお願いされるのは勿論初めてだし、驚きだけど。

 依頼主があの藤堂委員長だということが一番の驚きだった。


 今日の昼休み。

 いつものように食堂で一人お昼を食べていると、対面に委員長が座ってきてこう言った。「別谷を罷免しないと言ったが、彼に強く反感を持つ生徒がいることも分かる。委員長として事実に基づいた判断をするため、放課後の彼の動向について知りたい。もし立花の言う通り口より先に手が出て、誰かを害するようなことがあれば私は判断の誤りを認め二年B組の委員再選を要請することになる」と。


 つまり、帰宅部で時間が余っている別谷くんが、放課後のタイミングで誰かと殴り合いの喧嘩になったり誰かに危害を加えていないかを確認する、ということだ。

 その役に何故私が選ばれたかといえば、「別谷以外に帰宅部で時間がありそうな委員だったから」だそうだ。

 そうこうしている間にも別谷くんは駅前の小さな商店街を抜け、マンション並び建つ住宅地に向かっていた。

「このまま真っ直ぐ帰宅するのかな……」

 そう呟いた私は、この先予想される事態にはたと気付く。

 あれ?このままだと私、別谷くんの家まで特定してしまうのでは?

 あれあれ?委員長にお願いされてそのまま実行に移してしまったけど、もしかしてこれストーキングなのでは?

 いけない事実から意識を逸らすべく、彼の後を追うのに集中する。


◇◇◇◇

 

 様子がおかしい。

 そう感じたのは駅を降りてから三〇分ほど経った頃だった。

 別谷くんは迷路のような住宅地の角を何度も曲がって進み、時にはぐるりと一周して同じ道に戻ることもあった。

 明らかに、目的地に向かうための曲がり方ではなかった。

 かといって私の日課のような、ぶらぶらと歩き回るにしては足取りが迷い無く早い。

 これは…。

「もしかして、尾行に気付かれてる?」

 だとしたら、むしろここで振り切られるわけにはいかない。

 尾行に気付いて撒こうとする、ということは見られては困る場所・ものがあるということだ。(単にストーカーと思われている可能性については黙殺)

 日ごろの散策で鍛えた私の足から逃げられると思わないことね――!

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