(12)
桜が舞い散る中を僕は娘と歩いている。今日は亡くなった優君のお墓を参るために、歩いているのだが、僕の心はどこか切ない。
事件は明るみになり、世間を騒がせた。唾棄すべき不倫の果ての保険金殺人。世間ではそう言われている。
しかしながら僕には縊死した優君の姿が離れない。
彼はその手に小さな折り紙を握っていた。聞けば大好きな藤田先生と過ごすための彼なりのやり方だったようだ。
亡くなった優君は寂しい心を持っていたようだ。時折そうした微笑を浮かべていたという。
そんな中、唯一、藤田先生と折り紙をするのが楽しみだったようで、おそらくあの日先生の後姿を見つけて優君は手にしたポケットに仕舞い込んだ折り紙を出して先生と楽しく過ごそうと思ったに違いない。
人間は性というカルマの定めに従い死を導き、生を生む。
何のために、生きようとするのか。
僕は今、娘の手を握りながらそれを考えると切なくなった。
「パパ」
娘の言葉に振り向く。
「桜が散ってるね。綺麗」
僕は娘と立ち止まる。
「ねぇ。優君、ヒーローになれたかなぁ?」
「えっ?どうしてそう思うの?」
娘に言う。
「だってね。私に言ったんだ。大きくなったらヒーローになるんだ。そしてお父さんとお母さんを守るんだって、それが夢だって言ってたもん」
桜が一片舞い落ちて来た。
それを掌でそっと受ける。
「そうだね。きっとなれたと思うよ。だって彼は沢山、鬼を退治したんだからさ」
「鬼を?」
そうさ、とだけ僕は言った。
「変なのぉ。鬼何て、ヒーローじゃないみたい。ヒーローは悪を退治するのに」
僕はそういう娘を突如肩車した。それに娘が驚く。
「どうしたのさぁ、パパぁ!!」
娘の小さな手が僕の頬を鷲掴みする。 僕は鷲掴みされた優しい手を頬に感じながら進んでいく。
名探偵は娘、
そしてヒーローは優君。
もう出会うことのない二人だ。
切ない事件に僕は思う。
誰が幼子の苦しみを救えるのだろうかと。
僕はそんな思いを噛みしめながら、桜の舞い散る中、娘を肩に担ぎながら歩いて行った。
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