必要なのは、情報と、葉と、構成だ。
ほどなくして術が展開される。
小さなパンくずをばらまいたかのようにひとつ、ふたつと光が灯って、点線を描いた。それは、満足のいくものだった。
しゃらり、金の輪が存在を高らかに音として伝える。
「うん、やっぱりここだな」
シビルは、光の示した先、墓石に手を添えた。
アスレイにはこの件は伝えて、もう自分の手からは離れている。
好きに使ったらいいと言ったものの、モヤモヤとした気持ちが沸き起こってしまった。
いてもたってもいられなくなってしまったのだ。
じっとしていられなかった。
たった二日行動を共にしただけなのに。
「別に、気にしてないけれど」
――用心棒として使っていたんだろう。
淡々とアスレイが切り出したのを、反芻する。
アスレイは結構薄情なところがあって、さっさと関係を切ってきた。
淡白というか、確かにあのまま二人で行動する利益は薄かったけれど。
それに、シビルに分かっているのは、アスレイが探し物をしていることだけだ。
それはサガンでも知っている。
アスレイが協力を断ってきたのは、計算外だったけれど意外だった訳ではない。
それに、シビルだってずっと一緒に居ようと思ったわけではない。
遅かれ早かれ別れた。
それがちょっと早かっただけのこと。
利用するだけしたらいいと思っていた。
でも、あの方向音痴具合を見て考え直した。
誰だって、あれを目撃したら、放っておけなくなると思う。
シビルは薄情な方ではない、と思う。
アスレイのことが解決するまでは道案内するつもりだったのだ。
しようと思っていたことを取り上げられた気がした。
喪失感から、取るもの手につかず、現在に至る。
(どっちにしろ馴れ合う気はないから、下手に関わらずにすんで良かったんだよ。うん。それに、十分すぎる手土産もあげたわけだし。禍根になることなんて何一つないんだから、むしろスッキリ?)
アスレイは上手に情報を使っている。
聖所にはダン商会が入り浸っていると聞く。
もし敵――仮想するなら――の邪魔になるようなら、そのうち動きがあるだろう。
(その時はいないかもしれないな)
この数日は、ダン商会から報酬をうけとるため、ノクスで大人しくしていたが、今日、その用事も済んでしまった。
ノクスにいる理由もない。
寧ろダン商会との騒動もあって、ほとぼりを冷ますためにも、別の街で稼いだ方がいいだろう。
「ここもはずれだったしね。随分長いこと居ついちゃった」
誰に言うでもなく、独り言ちる。
吐いた息は空気に同化する。
湿気の匂いがそれに混ざっていく。
微かに、ごとり、音がした。
音源は遠い。
低い音だった。
音の方向すら特定しにくいが、何となく、シビルは右側に視線を走らせた。
靄に墓石が聳えていて、特に変わりはないように思う。
靄の先に、動くものがあった気がして、更に目を凝らす。
銀の髪が揺らめいた。
「アスレイ?」
幻視か。
夢幻か。
考えてばっかりだったから見えてしまったのか、シビルは自嘲する。
なにかを叫んでいるようだが、雑音が混じっている。
「シビル、走れ」
幻聴も聞こえ、いよいよかとシビルは思う。
病んできたかな、まずいな、凡そそんなことを頭の中で巡らせていて、違和感に蓋をする。
随分焦っているようで、隣に生意気な酒場の女がいる。
青い顔をして息をきらせている。
だんだん近づくとその姿をはっきり認識し、やがて顔を突き合わせるような距離になる。
「仕方ない」
通り過ぎ様、耳元にそう残った。
シビルは腕が、身体が、重力とか慣性とかそういうものを無視して平行移動するのを体験した。
アスレイに抱えられている。
そう脳に意識が上がった時には、後方を意識する余裕もできた。
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