菊原さんは何を考えているのかよくわからない。

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Another story 11~12

公開日時: 2021年3月28日(日) 04:00
文字数:1,443

8月に入り、夏休みの勉強会が上手くいくと、風間君の評判も上がっていった。

私が死んでも、風間君はうまくやっていける。そう考えると安心してきた。

私がいなくても、ちゃんと人付き合いもうまくやっていけるはず。

色んないい人達に囲まれて、幸せに生きていけるはず。


そんなことを考えている中、ある日、帰りが遅くなった。

「菊原さん、送っていくよ」

「ありがとう」


「風間君」

「ん?」

「教えるのって、楽しいね」

「そう、だね。今まではそんなこと思わなかったけど。去年とは世界が違うように見える、っていうかさ」

「うん、私も。友達って、いいものだよ」

もっと友達を作って、幸せに生きて欲しい。

「9月の定期テスト、やっぱりクラスの成績上がるかな?」

「これで上がらなかったらもう一生勉強しない」

「はは、そうだね。・・・・・・一生、か」

「ん?」

「ううん、何でもない」

一生、という言葉。それに反応してしまう自分が嫌だった。私にとって、一生とは、あとどれくらいなのか。

あと2年半くらい、もつといいんだけど。

「風間君はさ、モテるの?」

「え、僕が?」

「うん」

「モテるわけないじゃん。ずっとクラスの隅っこで本を読んでるような男に」

「そう?風間君、モテそうだけど。明るいし、面白いし、格好いいし」

「3つとも自覚ないな・・・・・・」

風間君は自分に自信がないみたい。モテそうだけど。

「彼女、いないの?」

「いないいない。いるわけない。菊原さんこそ、モテそうだけど。優しいし、可愛いし」

「ふふ、ありがと。でも、今まで恋愛とかできなかったからなぁ・・・・・・。死ぬまでに付き合いたいな」

顔が熱い。誰を意識したんだろう、私は。誰を、意識してしまったんだろう。私が先に死んでしまうというのに。

「結婚願望はあるの?」

「んー、ない。できる気もしない。風間君は?」

「結婚したいと思える相手がいれば、したいかな」

「結婚する予定はあるの?」

「今のところ、残念ながらないよ」

「そっか」


並んで歩く。


「着いちゃった。じゃあね、風間君」

「ああ、うん、また明日」



夏休みの後半に、皆で海に行くという話が出た。

でも、私はその少し前から体調が悪くなって、病院に行かなければならなくなった。

帰ってから、風間君がお見舞いにきてくれていたことを知って、複雑な気持ちになった。



9月に入り、学校が始まり、テストがあった。

「菊原さん」

「ん?」

「テスト、どうだった?」

「んーっとね、9割ぐらいとれてたよ。風間君は?」

「9割5分くらい。追い越されそうで不安だよ」

「まったまたー。追い越される気ないくせに」

「いやいや。菊原さんなら僕なんてすぐに追い越せそうだけど」

「そうかな」

「そうでしょ」

「ふーん。まあいいや。それよりさ、面白い本見つけたんだよ」

私は南総里見八犬伝を風間君に見せる。

「それ、僕も読んだことあるよ」

「あ、そうなの?面白いよね」

「そうだね」

風間君が変な顔してる。どうしたんだろう。

「そういえばさ、さっき宮部先生に選挙に立候補したらどうか、って言われたんだけど」

「すればいいじゃん。風間君ならできるよ」

「いや、でもさ」

「生徒会長になったらさ、私を執行部に指名してね」

「いや、だからさ。生徒会長なんて無理なんだって。立候補するにしても、来年かな」

来年・・・・・・。来年か。

私はそのときまで生きていられるかな。

生きているうちに、思い出を作りたい。

「そっか。まあ、そのときでもいいからさ。私を指名して」

「うん、わかった」

「あ、もう時間だ。ごめんなさい、じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

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