11月に入った。
っていうか、寒すぎ。
地獄。
高校までの道のりがありえないくらいに寒い。
僕は自転車で学校まで向かっている。
11月の時点でこんなに寒かったら、来月や再来月はどれだけ寒くなることか・・・・・・。
寒いの、苦手なんだけどな。
生徒会の仕事は滞りなく終わらせることができていたが、菊原さんは欠席が多く、少しカバーしないといけないことも多かった。
そしてついに・・・・・・菊原さんは、入院した。
菊原さんが入院したという知らせを聞いた僕は、その日の放課後に急いで病院へと向かった。
「菊原さん」
「あ、風間君。ごめん、学校休んじゃって。生徒会、大変だよね」
「そんなこと、今はどうでもいいから。どうしたの?」
「えっとねー、そんなにひどいわけじゃないよ。ごめん、先生が何て言っていたか忘れちゃったけど。入院は、1週間ぐらいだって」
1週間、か。
入院についてあまり詳しくないから、それが長いのか短いのか僕には判断できない。
「気を遣わなくて良いんだよ。きついならちゃんと休んで。入院してもらったほうが困るんだから」
「うん、ごめん」
「林檎、食べる?」
「むいてくれるの?」
「うん」
「食べる」
持ってきた林檎の皮をむきながら尋ねる。
「大丈夫?」
「・・・・・・何が?」
「身体」
「うん、大丈夫だって。1週間しか入院しないんだよ?」
1週間しか。しか、ってことは、1週間っていうのは短い、って捉えていいんだろうか。
翌日。
病院で菊原さんのお母さんと偶然出会った。
「あら、風間君。お見舞いにきてくれたの?」
「あ、はい」
「ありがとね。あ、そうだ。晴良、明日誕生日なんだけど、知ってた?」
「え!?そうなんですか!?」
「うん」
知らなかった・・・・・・。
「あ、プレゼント買いにいかないと」
「やっぱり晴良、伝えてなかったんだね」
プレゼント、何がいいんだろう。
「あの、菊原さん・・・・・・晴良さんって、何か好きなものとかありますか?」
「んー、何だろう。何でも喜びそうだけど。あ、晴良の知らないもの、とか」
「知らないもの?」
「知らないものを知ることが面白いと感じるみたいよ」
そうなんだ。
でも、知らないもの、っていってもな・・・・・・。
「知らないもの、って、どんなものがありますか?」
「さぁ?それは自分で考えるべきなんじゃない?」
それはそうだ。プレゼントだし。
知らないもの、か。
知らないもの・・・・・・。
何だろう。
いや、普通に本人に聞いた方がいいか。
ドアを開く。
「あ、今日も来てくれたんだ」
「うん。さっきお母さんに聞いたんだけど、菊原さん、明日、誕生日なんだって?」
「うん、そうなんだ」
「何か欲しいものとか、ある?」
「んー、愛情?」
いや、そんなこと言われても。
「冗談冗談。欲しいもの。お金とか、希望とか」
「希望?」
「生きる希望」
「重たいな・・・・・・。というか、生きる希望、ないの?」
「いや、あるけどさ。誕生日に病院って、嫌じゃん?」
「まあ、そうだろうね」
誕生日を病院で過ごすって嫌だな・・・・・・。まあ、僕も誕生日に祝われるわけでもないから、家にいるだけだけど。
「慣れたっていえば、慣れたんだけど」
慣れた・・・・・・?
「あ、そうだ、あれがほしい!」
「あれ?」
「あれだよ、ほら。シャーペン」
「シャーペン?」
「うん。私、鉛筆使ってるんだけどさ、世の中にはシャーペンっていうものがあるんでしょ?」
菊原さんの筆箱を見てみる。開いてる。中は・・・・・・本当に鉛筆だ。
シャーペンを知らないのか?
シャーペンって結構前からあると思うんだけど。
「色とかの希望は?」
「何でも良いよ。強いていうなら、金箔で覆われてるやつがいい」
「ごめん、それは無理」
金箔で覆われてるシャーペンって何?そんなのあるの?
それから数分話して、僕はシャーペンを買いに行った。
翌日。
菊原さんに金色のシャーペンを渡したら喜んで貰えた。
金箔は無理です、ごめんなさい。
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