菊原さんは何を考えているのかよくわからない。

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公開日時: 2021年1月10日(日) 21:00
文字数:1,603

8月に入った。


勉強会は問題なく進み、クラス全体の成績が上がるんじゃないだろうかと思うほどだ。

「風間君教えるの上手いねー」

「普通にいい奴じゃん。いっつも本読んでたから話しかけなかったけど」

などなど、他の人からのイメージが変わりつつあるらしい。


7月には、僕、菊原さん、佐藤さん、鈴木君、村田君、木村君、近藤君の7人だけだったはずの勉強会は、いつのまにか人が増え、現在ではクラスの半分程度が集まっている。

というか、別のクラスの人も混じっている。


噂をききつけた先生が訪問してきたときには驚いた。村田君にだけ連絡しておいて、皆を驚かせようとしたらしい。本当に驚いた。


そして、それだけの人数が入っても問題ない村田君の家は、本当に豪邸といって差し支えなく、無駄に広い。

「普段はこの家に4人暮らしなの?」

「うん。まあ、お手伝いさんとかがいるけどね」

嫌味?

「空調設備が完璧で、成績上位者がいる勉強会。塾に行っていなくて勉強をしたいと思っている人にとっては絶好の場所だろうね」

「そうだね」


この日は少し帰るのが遅くなり、もう外は暗かった。

「菊原さん、送っていくよ」

「ありがとう」


「風間君」

「ん?」

「教えるのって、楽しいね」

「そう、だね。今まではそんなこと思わなかったけど。去年とは世界が違うように見える、っていうかさ」

「うん、私も。友達って、いいものだよ」

友達か。

「9月の定期テスト、やっぱりクラスの成績上がるかな?」

「これで上がらなかったらもう一生勉強しない」

「はは、そうだね。・・・・・・一生、か」

「ん?」

「ううん、何でもない」

言いかけてやめられると続きが気になる。

「風間君はさ、モテるの?」

「え、僕が?」

「うん」

「モテるわけないじゃん。ずっとクラスの隅っこで本を読んでるような男に」

「そう?風間君、モテそうだけど。明るいし、面白いし、格好いいし」

「3つとも自覚ないな・・・・・・」

格好いい、のところで少し顔が熱くなった気がする。

「彼女、いないの?」

「いないいない。いるわけない。菊原さんこそ、モテそうだけど。優しいし、可愛いし」

「ふふ、ありがと。でも、今まで恋愛とかできなかったからなぁ・・・・・・。死ぬまでに付き合いたいな」

菊原さんの顔が少し火照っているように見えたのは、きっと気のせいだろう。

「結婚願望はあるの?」

「んー、ない。できる気もしない。風間君は?」

「結婚したいと思える相手がいれば、したいかな」

「結婚する予定はあるの?」

「今のところ、残念ながらないよ」

「そっか」


並んで歩く。


「着いちゃった。じゃあね、風間君」

「ああ、うん、また明日」



8月後半になると、海に行くという話が再び出てきて、結局行くことになった。

勉強会のメンバーは30人を超えていたけれど、そのうち約20人が参加するらしい。


当日。

菊原さんからメールが来た。

体調不良で来れなくなったらしい。

村田君に、僕と菊原さんが今日行かないことを伝えてから、菊原さんの家に向かう。

勿論、お見舞い。

何を持っていけばいいのだろうか。

やっぱり果物の類かな。


果物の詰め合わせを持って菊原さんの家に行く。


ピンポーン


「あ、風間君。ごめんね、今、晴良病院に行っていて、いないの」

「そうですか。・・・・・・じゃあ、これを」

「あら、わざわざありがとう。晴良に渡しとくわ。まあ皮むいたりするのは結局私なんだけどね」

そう言って菊原さんのお母さんは笑う。

「じゃあね」

「失礼します」



8月も最終日となった。

つまり、夏休みの最終日でもある。

宿題は勿論終わっているけれど、勉強会にはいつにも増して人が多く集まっていた。

つまり・・・・・・

「宿題が終わっていない人が集まっているんだよ」

やっぱりそうか。

「じゃあ僕は今日帰るよ」

「え、ちょ」

村田君の制止の声を無視して帰ることにした。宿題の手伝いなんてしない。

菊原さんにも勉強会が宿題の手伝いになりそうなことをメールで伝えておく。

さ、明日の準備でもしよう。

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