オレが人狼にストーキングされる理由と対策

さまよえる金狼
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第15話(最終話)

公開日時: 2021年5月14日(金) 21:09
文字数:1,929

「おい、ジャスティン! そろそろリハーサルの準備だ」

三度目はノックもなしに、いきなりドアが開け放たれた。


控え室にいたオレとコナー、カミラとオズワルドは、ハッといっせいに無作法な侵入者を見た。

それから、オレ以外の3人は、ルディを初めて見た誰もがそうなるのと同じように、一瞬タマシイを抜かれたように彼の美貌に見惚れてから、我に返った。


「ああ、失礼。お客さんがみえているとは知らなかったもので」

ふわふわのアッシュブロンドに映える天使のような顔に極上の微笑みをふるまいながら、ルディは、しらじらしく言った。


「いいえ、わたしたちも、そろそろ失礼しなければと思っていたところなの」

言いながら、カミラはソソクサと立ち上がった。

「もしかして、あなたがジャスティンの才能を見込んでくださったというレーベルの社長かしら? ジャスティンからうかがって想像していた以上に、ずいぶんお若いわ」


「まあ、社長といっても名ばかりですから、ボクは。投資家からある程度の自由な裁量を一任されている手先みたいなものです」


「投資家の手先?」

カミラは、小首をかしげたが、

「ビジネスの話はわたしにはよく分からないけど、とにかく、弟をよろしくね」


「では、あなたが、ジャスティンのお姉さんのカミラですね? ボクはルディです。以後、お見知りおきを」

と、ルディは、優雅に胸に手を当てて軽く腰をかがめた。

いまどき、こんな芝居がかったシグサがサマになるヤツも、なかなかいないだろう。


「すると、キミがジャスティンの甥っコのコナーだな? ジャスティンから聞いているよ。とてもアタマのいい少年だって」


ルディが言うと、コナーは、ピョコンとソファから飛び降りて、カミラの後ろにサッと隠れた。

誰に似たのか、意外と人見知りなところがある。


ルディは、華やかな笑い声をあげてから、次にオズワルドを見て言った。

「なるほど、さすが親子だ。よく似ていらっしゃる」


「どういうことかな?」


「あなたとコナー、よく似ていますね。一目ひとめであなたがお父さんだと分かった」


「え…っ!? い、いや、違う。私は、コナーの父親ではない。まあ、後見人のつもりではいるが」


「本当に? それは失礼しました。けど、その漆黒の髪と思慮深い暗灰色の目が、まるでソックリなんだけどなぁ」

と、ルディは、さも無邪気に首をかしげた。


「いや、しかし、キミのカンチガイだ、それは……」

ブシツケな追及に戸惑ったのか、オズワルドは、ひどく動揺していた。


オレもまた、そんなオズワルドを見て、いささか胸の奥がザワついていた。

――まさか、コナーの本当の父親は、ニックではなく、オズワルド……?


だが、それを信じることは、姉のカミラの不貞を認めることになる。


鉄の処女アイアンメイデンと名高かったカミラだぞ? ありえない。バカバカしい邪推だ。


オレの憂慮もおかまいなしに、カミラが、急にカシマしい声をあげた。

「あら、大変、もうこんな時間! 開演に間に合わなくなってしまうわ」


オレは、キョトンとなった。

「開演時間って、……まだリハーサルもこれからなんだぜ、カミラ?」


「何を言ってるのよ、ジャスティン。わたしたちは、これから、ブロードウェイでアラジンを観るのよ」


「は? オレのステージを見にきてくれたんじゃないのかよ!? とっておきのVIP席だって用意したのに」


「ロックミュージックなんて、何がいいのか分からないもの。コナーにもまだ聴かせたくないわ」


「なんだよ、それ! ひどい偏見だぞ、カミラ」


だが、オレの抗議もむなしく、カミラは、オズワルドとコナーをせかして、挨拶もそこそこにサッサとドアの外に消えた。


ポカンと立ち尽くすオレの元に、コナーが1人でかけ戻ってきて、小さな白い手のひらをオレの前に突き出して、言った。

「歯の妖精に、コインをもらわなきゃ」


「ああ、そうか! そうだよな」

オレは、あわてて、ジーンズの尻ポケットに突っ込んでいたコナーの乳歯を、かわいらしい手に乗せた。


コナーは、それをギュッと大事に握りしめてから、「イーッ」と歯をむき出して、新しく生えたばかりのピカピカの犬歯をオレに見せつけてから、ふたたびパタパタと部屋を飛び出して行った。



「そのシャツ、着替えを用意しなきゃな。スソに血がついてるぞ、まったく!」

2人きりになると、とたんにルディは、ゾンザイな口調になってボヤいた。

「指のケガは、大丈夫なのか? 演奏に影響は?」


「どうってことないさ。子供に噛みつかれただけのタダのカスリ傷だし」


「まあ、『タダの子供』でなによりだったな」

と、どことなく意味深なタメ息をもらしてから、ルディは、不意にふわりとした柔らかな微笑を浮かべて、オレの背中をポンと叩いた。

「さあ、ひとまずステージに行こう。夢のはじまりだ、ジャスティン……」




――END-―




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