人外のバケモノになるのは死んでもゴメンだと思っていたが、いざ実際に殺されるとなると、やっぱり、
「死にたくねぇーっ!」
ひとりでにナキゴトが口をついて出た。これがオレの断末魔か、情けねぇ。
地下鉄で永遠の別れを告げた相棒のレスポールは、陽気なコードを口ずさんで粋に砕け散ってったのに。
それにしても、銃弾はとっくに狙いを貫通したはずだったが、不思議と、どこにも痛みや衝撃を感じない。
代わりに背後で、
「うぐががあああーっ!!」
と、おぞましい獣の咆哮が響いた。
反射的に振り返ると、そこにはニックが、ガックリと床に片膝を落として身もだえていた。
左の鎖骨のド真ん中から鮮血があふれ出し、白いシャツを真っ赤に濡らしている。
それでも、一面琥珀色に染め変えられた両目に憤怒をたぎらせ長い牙をギリギリときしませながら、血まみれの腕を執念深くこちらに伸ばしてきた。
間髪入れず再び銃声が鳴り響き、今度は左の肩の付け根あたりから血が噴き出すと、ニックの上体は後ろにのけ反った。
続けざまに銃声がたたみかけるより早く、手負いの魔獣は、床に膝をついた体勢からヒトイキに後ろに高々と跳躍して銃撃から逃れると、そのまま背中ごしにウィンドウを突き破り、屋外プールに落水した。
さらに、次の瞬間には、激しい水シブキをあげながら水面から飛び上がり、プールの向こう側の塀の上にひらりと立ち上がっていた。
なめらかな白いシャツも上等の絹のパンツも、塩素入りの水と血に汚れて惨憺たるアリサマだったが、水もしたたるナントヤラで、ペントハウスのテラスから臨む大都会の夜景をバックに、濡れそぼったおかげで自然とタイトにまとまったトビ色の髪と、追いつめられて開き直ったスゴ味のある不遜な微笑が、持ち前のフェロモンを飽和状態にまで放出して見えた。
まあ、なんというか、……半人半妖と化しても、ニックはニックで。
どこまで窮地に陥ろうとも、少しイタズラっぽいシニカルな笑顔をしっかりたたえたままユラリと後ろに頭を倒しつつ、背面飛びの格好で、夜の闇に落っこちていった。
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