「おいおいおいおいおい! どうすんだよこれ!」
「私に聞かないでよ! こんなものを吐いたアンタが悪いんでしょ!?」
……という感じで、現在俺とメイナは路地裏にて言い争いをしていた。
俺たちの足元には……未だ眠り続けるおっさんと……その顔面に堂々と乗っかってる……ゲロ。
―――――――マジでやっちまった!
異世界に来て1秒でゲロ吐くって我ながらなんなんだよ!
「と、と、と、と、と、とととりあえずこのおっさんごとゲロを凍らせて、証拠隠滅しましょう! アル・スティール!」
「待て待て待て! このすばとリゼロが被ってる! 第一お前アルレベルを使えるほど強くねぇだろ多分! って、そうじゃなくて!!」
あまりの緊急事態に慌てまくる俺たち。
――――――ダメだ。もうマトモに考えられなくなってきた。
……………てか。
「割りとマジでこのおっさんをなんとかしねぇと! こんな所を誰かにでも見られたら……序盤のナオフミみたいにややこしいことに……
「あの~……そこのお2人。一体そんなに慌ててどうしたのですか?」
瞬間。路地裏の入り口の方から、とある声が聞こえてきた。
「「――――――――――――」」
俺とメイナは無言になり、声がした後ろを振り向くと……そこには、見知らぬ少女がこちらを凝視して突っ立っていた。
――――――そして。
「……………………」
少女はしばらく無言になったと思ったら。
「衛兵さん連れてきます」
そう言って、路地裏を出ようとしたので。
「「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!」」
俺とメイナは肩を掴んで必死に止めた。
――――――見知らぬ少女。
恐らく背丈的に俺より年下だろう。
桃色の髪を肩まで伸ばし、身長相応の胸があり、全身黒い服を着た―――見知らぬ少女。
「…………本当に、これは一体……どういう状況なんですか?」
少女はその青色の瞳を細め、腕を組みながら俺たちに聞いてくる。
……ちなみに。俺とメイナは今、ゲロおっさんの横で正座をして、少女に見下ろされてるといった形だ。
「あの~……いや、これはですね……」
俺はなにか良い言葉を探そうと頑張るが……なにを言っていいのか分からない。
神界から『ワープ』をしてきてその『ワープ』で酔ってゲロを吐きました。……なんて言っても信用されそうにないし。
――――――これは一体どうすれば。
「とりあえず…………お聞きします。このお方に吐瀉物を吐いたのは……どちらですか?」
そう思っていると、少女はゲロおっさんを指差し、質問してきた。
「あ、それはこの男よ! このバカスグルが勝手に吐いただけで、私は無関係よ!?」
メイナが手を上げて勢いよくそう言う。
くっそ! たしかにそうだけど! なんの弁解の余地もないけど! だからってんな正直に言わなくても良いじゃん! ちょっとは庇ってくれよ!!
「…………………」
メイナの発言を聞いた少女は俺の方を向き。
「本当なんですか?」
と聞いてきたので。
「…………はい。本当です………」
俺は正直に答えた。
「―――――そう……ですか。……なんというか……本当にヤバいですね。―――えーと……バカスグルさん……でしたっけ?」
「いやバカは余計! スグルだから! 普通に五十嵐 傑だから!」
「イガラシ・スグルさんですか……」
「そうそう! ………ちなみに、君の名前は?」
「私……ですか? 私はペルシです。ペルシ・ミリア」
「ペルシ……ちゃんか……」
名前が判明した少女―――ペルシちゃんに対して俺はそう呟き。
「で、この惨状のことなんだけど……」
「はい。スグルさん。ちゃんと説明してください。どうして国王様にこんな汚物を吐きかけることになったのかを」
「そうだよね。……分かった。ちゃんと話すよ」
「正直に言ってくださいね。……場合によっては罪に問われる可能性もありますよ」
「まぁ……だよな。国王にゲロを吐いたってなると…………―――――――――。――――――――――――――――――。―――――――――。――――うん?」
「…………? どうしたんですか?」
「え、いやペルシちゃん今……なんて言った?」
「え? ……いやですから、罪に問われる可能性もあると」
「そうじゃなくて! その1個前! 1個前に……このおっさんのことをなんて……」
「? ……だから、あなたたちもご存知の通り、顔に吐瀉物をかけられて、今もなおここで眠っていらっしゃる方は、このメラキアの国王様ですけど……って」
「―――――――――――」
「―――――――――――」
そこで一度俺とメイナは顔を見合わせ。
大きな深呼吸をしてから。
「――――――――もう一度……」
「言ってくれるかしら―――――?」
人生でかいたことのない量の冷や汗をかきながら、ペルシちゃんにそう言った。
――――――どうやら俺は。
異世界に来て1秒でこの国の王様にゲロを吐いた………らしい――――――。
【つづく】
読み終わったら、ポイントを付けましょう!