異世界きんたま転生

~駄女神と共にきんたまを集めて世界を救う宇宙一くだらない物語~
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第一部1章『異世界だめがみ放置』

第1話 テンプレ転生を味わいたい人生でした

公開日時: 2021年6月10日(木) 22:02
文字数:2,279

 簡単に言おう。

 俺は今――――異世界転生をした。


「あ~……日本に帰りてぇ……」


 それが、俺が転生して一言目に発した言葉だった。






 俺は今、椅子に座らされている。

 真っ白でなんの特徴もないただの椅子。


 そして、今いる場所も椅子と同様、真っ白な風景が広がった虚無空間。


「これはあれか――女神がお迎えにくるまでの待機時間的なやつか」


 そうボソッと呟く。


「………………………てか」


 俺、なんで死んだんだ?


「気づいたらここに来てた。……マジ死因が分からねぇとか一生の恥だぜ?」


 椅子に猫背で座りながら呟き続ける。


 俺の名前は五十嵐いがらし すぐる

 日本に住む……いや、住んでいた。どこにでもいる普通の男子高校三年生。


 ―――異世界に呼ばれるようなやつって、なんだかんだ普通じゃなかったりするが……俺は……自分で言うのも変だが、マジで普通の人間だ。


 引きこもりでもない。不登校でもない。普通に学校に通い、そこそこ楽しい日常を送ってた高校生。


 ――今だって、この真っ白な虚無空間にて俺は学校の制服であるブレザーを着て椅子に座ってる。


「制服……ってことは……授業中。……いや、登下校の最中に事故に会って死んだとか?」


 ――――――――ダメだ!

 なんも思い出せん!


「……………………――――――」


 と、そんな時……俺はふと思った。


「これ夢なんじゃね?」


 あまりにも唐突な異世界転生。

 ――――――うん。これは夢だ。


「そーだ。夢だ夢だ。こんな死因不明の異世界転生をしたのも、全部夢だ」


 ――――あれ? ――てことは。


「もしかして……今日の小テストで100点満点中11点取ったのも……夢? 一週間前、バイトの全給料が入った財布をどっかに失くしたのも夢? 好きな女子の目の前で授業中に盛大に椅子から転げ落ちちゃったのも夢? その女子に2年前告白して未だに返事が帰ってきてないのも――――全部――夢なのか!?」


『いやそんな訳ないでしょ! ちょっとアンタ、なに自分に都合の悪いことを異世界のせいにしようとしてるのよ!』


 瞬間。頭の上からそんなツッコミが降り注いできた。


「――――ッ!? だ、誰だ!?」


『誰って……アンタが散々待ち望んだ人物よ』


「待ち望んだ? ……女神ってことか!?」


『そうよ。女神様よ。ほら、崇めなさい』


 その女神と思わしき人物の声は、虚無空間の上空から降り注いでいるだけで、本人の姿とかは一切見えない。


「いや崇めるとかは置いといてさ……なに。女神様。俺の所に来ないの?」


 俺は頭を上に向け、そう喋る。


『あー……行きたいのはやまやま……というか、本来はアンタが転生したらすぐにそこに行って色々教えたりしなきゃダメなんだけどね』


「――――ダメなんだけど?」


『私、今自分の部屋でリゼロ見てるのよ』


「―――――――――――――は?」


 俺は女神の唐突な報告に一瞬なにを言われたのか分からなくなる。


『今、リゼロのアニメの……えーと…7話を見てるの。最新話まで追い付きたいから、それまでその空間で座って大人しく待ってて』


「はぁぁぁぁ!?!? 7話って……それ2期の?」


『いいえ? まだ1期だけど?』


「いやめちゃくちゃ前のやつじゃねぇか! なに? もしかしてそこから2期の最終回を見終わるまでこんな何もない空間で一人で待てってか?」


『そゆことー。それじゃ、私は一気見に集中したいから、後よろしくー』


「えっ? いや、ちょ、おい! おまっ、」


 瞬間。上空から『ブツッ』という音が聞こえてきた。それはまるで……通話を切るときのような音。


「あいつマジで……通話切りやがったのか」


 厳密に言うと通話とかではないんだろうが、今はそんなことどうでもいい。

 あいつ……1期の8話から2期の最終回までを今から一気に見るって言ったよな。


「…………リゼロって、OPとEDがあまり無くて、ほぼ30分フル尺で放送することが有名だし、どんだけ早いスピードで見ても―――」


 ――――……1日はかかる。


「まじかよ! こんな何もない場所で1日ボーッとしとけって!? どんな拷問!?」


 ―――――――。

 ―――――――――――。

 ――――――――――――――。


 俺の言葉が虚無空間に響き渡る。


「……………………」


 虚しい。ただただ虚しい。


「……てか、あの駄女神。俺に向かって『転生した』って言ってたよな」


 ――――――分かってはいた。

 分かってはいたけど―――――。


「俺、マジで死んだのか………」


 死因も知らないせいで、実感が薄いが……まあここまで来たら認めるしかない。


「はぁ………なんも……出来なかったなぁ」


 それなりに日本での日常は楽しんでいたが、かと言ってもう二度と味わえないとなると……そりゃ……まぁ。


「――っぐ、ひぐ…っ、ぐ……ぐす、ひっ」


 俺はみっともなく泣き崩れる。


「卒業式。楽しい大学ライフ。童貞卒業。彼女作り。デート。童貞卒業。親孝行。童貞卒業」


 ―――――――まだなにも出来てない。


 ……今、無意識の内に童貞卒業の間に親を挟んでしまった気がしたが、そんなことよりも。


「こんなことなら……もっと堪能しとけば良かったなぁ」


 ひたすらにそう思う。


 我ながら未練タラタラだ。


「――――――――あの駄女神が来るまで暇だし……日本で俺がしたかったことでも振り返って、暇でも潰すか」


 まず、第1位がさっきも言ったが童貞卒業。

 そして次に童貞卒業。

 さらに次は童貞卒業。

 んで、次は童貞卒―――――――








 ―――――――そして。




 俺がこの虚無空間に転生してきてから。





 ―――――――あくまで、時計とかも無いため体感なのだが。




 ―――――――――――――。









 ………………2日が経った。





「あいつマジでなにしてんの!? シャマクくらわせてやろうか!?!?!!」


【つづく】

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