「それじゃ、早速メラキアへレッツゴーしましょう!」
「はぁ…はぁ……はぁ………」
ツッコミすぎて疲れてる俺を他所に、メイナは意気揚々とそう言う。
「……てか、メラキア……人間界って、どうやって行くんだよ」
「ふっふ~ん。良い質問ね! しょうがないから教えてあげるわ!」
「あ、じゃあ結構です」
「聞きなさいよ!」
メイナがつっこむ。
………こいつ。ツッコミも出来るんだな。
「……ゴホン! まあ良いわ。それじゃ説明するわね!」
一度咳払いをして、メイナは喋りだす。
「メラキアへは、『ワープ』を使って行くのよ!」
「――――――『ワープ』?」
なにやら急に異世界っぽい単語が出てきた。
「そう! 『ワープ』よ! ……えーと、まず。私たち女神には女神熟練度というのがあるのよ!」
「女神……熟練度」
「女神を1~10の数字でランク付けすることね!」
ほう―――――。
1~5までで数字を付ける学校の成績表と似たようなもんか。
――――ちなみに、俺は3年間ずっと1~2を行き来してたが、親にはずっと3だと嘘をつき続けてきた。
―――――あぁ………もう二度と会えないくらいなら、ちゃんとした真実を伝えとくべきだったなぁ。
「………っと! ちょっと! どうしたのよ?」
そんなことを考えてボーッとしてる俺にメイナが顔を覗かせて聞いてくる。
「っうぇ!? いやなんでもねぇよ。……で、その女神熟練度がなんだって?」
「うん。でね。その制度があって、ランクが1~3の女神は人間界へ『ワープ』が出来ないの!」
「―――――――――――で?」
「で? じゃないわよ! 私は人間界へアンタを連れて『ワープ』が出来るのよ!」
「………………いや、それさっきも聞いた……」
「―――――――――――――」
「え?―――――――――――」
何故か空気が悪くなり気まずくなる。
―――――――――――――。
―――――――――あっ!
「お前! 自分が女神熟練度が4以上あるってのを自慢したいの!?」
「そう! その通りよ! なんで気付かないのよ!」
「いや分かりずれぇ自慢の仕方すんな! ……じゃあ一応聞いてやるが、お前の熟練度はなんなの?」
「6よ!」
「いや微妙!!」
その後、またも少しメイナと言い合った後に。
「それじゃあそろそろ『ワープ』始めましょうかね!」
と、駄女神は言い出した。
―――――次の瞬間。メイナの手はキラキラと光り輝きだす。
「おぉすげぇ! なんかやってること女神っぽい!」
「いや女神だから! 純然たる女神ですから!」
そう喋ってる間も、メイナの手は光り続け。
「うぉっ!? なんだ!?」
途端に、その『ワープ』とやらが始まった。
「こ、これが……『ワープ』!?」
一瞬にして真っ白な虚無空間から、謎の空間へと移動する。
辺りを見回すと、そこは先ほどまでの虚無な背景とは違い、様々な色……レインボーが辺り一面に広がっている。
――――――――そして。
「な、なんだこの浮遊感……」
そう。俺はそのレインボー空間で浮いていたのだ。
「これが『ワープ』……ってやつか。……てかメイナは?」
この空間に入ってから、メイナの姿が見当たらない。
いなくなったらなったで静かだから良いのだが……流石にこんな未知の場所となると話しは別だ。
「あいつマジでどこに……」
こう呟いてる間も、俺はレインボー空間で浮いてる……というより、下に向かって沈んでいる。
「真下に……なんか光りがあるな」
なんとなくだが、あの光りの場所に落ちれば良い気がして、俺は身を任せひたすらに落ち続ける。
――――――――――――――。
―――――――――ん?
――――――――なんか……変だぞ。
この感覚―――――――どこかで。
思い出せ……これは…………そうだ。小学生の頃、遠足のバスで吐いた思い出。
――――――――――あぁそういえば。
俺って酔いやすい体質だったな。
―――――――――――――っ!?
瞬間。俺は落ちてゆく浮遊感に耐えられず、口を塞ぐ。
―――――そう。来たのだ。吐き気が。
やっべ。この『ワープ』空間……超気持ち悪ぃ! 吐きそう!
俺はそう思いながら必死に耐える――が。
ヤバいもう限界だ。
ブツが……アレが、もう喉まで上がってきる!
もう…………ヤバいヤバいヤバい!
あ、……………ぁ、ァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!
「―――――――――――――ぁ」
瞬間。唐突に『ワープ』が終わり、俺はレインボー空間から外に出た。
………………そして。
「おぼっぼろろぼっっおおぼっぼぼぼ」
俺はここがどこかも分からないまま、吐いてみせた。
「ハァ……ハァ………ハァ………」
口から汚物を完全に出しきり、場所を確かめるべく周りを見渡す。
「………ここは……路地裏?」
そう。その文字通り、今俺がいる場所。今俺が吐いた場所は、路地裏だった。
「メイナが言ってた……第2宇宙のメラキアが……ここ……か。そして、そのメラキアの路地裏に俺は『ワープ』をしたと。……なんで異世界のリスポーン地点が路地裏なのかは謎だが……」
好都合だ。
ちょうど路地裏だったお陰で、俺が汚物……ならぬゲロを吐いた瞬間は誰にも見られてない。
「ふ~、良かったぁ。ここが大通りとかだったら社会的に死んでたな………」
そう言った瞬間。ゲロを挟んだ反対側の何もない空間が突如として光りだし。
「よっと! よし、無事に着けたわ!」
その光りの中からメイナが出てきた。
「メイナ!」
「あら、アンタの方が先に着いてたのね。まぁ、『ワープ』には個人差があるし、しょうがな…………い…………か……―――」
途中までいつも通りに喋ってたメイナだが、突如言葉が詰まった。
その原因は………間違いなく。俺のゲロが落ちてるのを見つけたからだ。
「………バカスグル。アンタこれ……なにやったの?」
「すまん。あの『ワープ』空間が気持ち悪すぎて吐いちゃった。………ま、特に誰にも見られてないし、迷惑もかけてないから大丈夫っしょ!」
「―――――――え?」
「―――――――え?」
「―――アンタこれ……見えてないの?」
「見える? なにが?」
「いや、アンタが吐いた場所を……じっくり見てみなさいよ」
「いやいくら自分のだからってあんまじっくり見たくはないけど……なに? 一体なにがかるん……だ…………――――よ」
―――――――そう。
俺がゲロを吐いた場所……地面に、いたのだ。
「嘘………だろ………?」
――――――おっさんが……中年太りしたおっさんが……いたのだ。
俺の―――――ゲロを顔面に浴びて、何故かぐーすか寝てる―――――おっさんが。
「――――――――――」
「――――――――――」
俺とメイナはお互い無言で顔を見合わせ。
「――――事後処理はよろ…ブルッキゥ!」
そう言って逃げ出そうとした俺をメイナがぶん殴った。
【つづく】
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