ノーゲーム・ノーライフ in SAO

たゆな
たゆな

アインクラッド編

── プロローグ ──

公開日時: 2022年6月26日(日) 08:40
文字数:2,360

 都内、とある病院にて──


「んぅッ」


 いつもの様に、隣に眠っているはずの兄へ向けて手を伸ばす、白を基調としたオーロラのような髪色の少女……白。

 だが、その手は兄を掴むことなく宙を切る。


「……にぃ? ……にぃ、何処ぉ!!」


 兄が居なくなってしまったことで、以前行った『存在を奪い合うゲーム』のことを思い出した。

 お互いの存在を奪い合うことにより、兄である空のことを一番信用出来ない存在と見ていたクラミーが、信頼足り得ると考えを逆転させるに至ったゲームだ。前回同様、前後の記憶が残っていないか思考を巡らせる白。しかし……


「……何、も……思い、出せない……?」


 今回は、その記憶すら思い出すことが出来ないで居た。


「っ……」


 空白に敗北はない。ということは、前回とは違った内容のゲームなのかもしれない……そう考えた白は、その差異を探す為にスマホを手に取る。


「……よかっ、た……にぃ、存在してる……」


 スマホに登録されている連絡先を確認すると、兄の連絡先が登録されたままになっていた。どうやら、前回のような『存在を奪い合うゲーム』の可能性は低いようだ。しかしそうなると、今度は一体どのようなゲームを……? いや問題はそれだけではない。そもそも──


「ここ……何処?」


 王城でも、黄金立地の寝床でも、盤上の世界ディスボードですらないここは、一体何処なのだ……? と。






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 そこは紛れもなく病院であった。それも、空白が盤上の世界ディスボードに行く前に生きて居た世界。地球の……日本の病院である。


「……戻って、きた……?」


 もしここがあちらの世界ではなく空白の元居た世界であるならば、空がここに居ないのはゲームによって引き起こされたことではなくなる。

 そんな考えが思いついたところで、嫌な想像が脳裏をよぎる。


「戻った、の……しろ、だけ……?」


 『嫌だ!』、もう最愛の兄に会うことが出来ないという最悪の事態を想定してしまった白は、今にも泣いて叫んでしまいそうな表情で、必死に辺りを見渡す。


「にぃ! ……にぃ! 何処ぉ……」


 病室を出て院内を探しに行こうとしたその時、


「ん……しろ? ……ひっ! しししししろ! どどどどこだ!? お願いだからお兄ちゃんを独りにしないでくれ!」


 白が起きたベッドの二つ隣、仕切りのカーテンで見えはしないが、窓際のベッドから白のよく知る男の取り乱した声が聞こえてきた。


「にぃっ!!」


 その情けない声に勢いよく振り向いた白は、一目散に声の元へ走り出し、その主に抱き着いた。


「しししろ!? 何処に行ってたん……うおおっ!」


「……にぃ! に゛ぃ~!」


「ど、どうしたんだ妹よ……慌て方が尋常じゃないぞ! そんなに寝相が悪かっ……何処だここ?」


 明らかに見覚えがない……いや、見覚えがあり過ぎるその場所に居ることを理解して、空は怪訝な顔をする。軽く周囲を見渡すと、壁などに日本語で書かれているポスター等が貼ってあり、二人の他にも寝ている患者が居た。

 どうみ見ても日本の病院だ。


「これは……ゲームか?」


 (これがゲームだとして、どんなゲーム内容だ!? まったく予想が着かない!

第一、この空白が元の世界そのものを題材にしたゲームを始めた? そうだとして、その記憶がないのはおかしい! こんな大掛かりなゲームを始めるなら、かなり前から計画しているはずだ! 記憶を消去するにしても、計画したゲームに関わる記憶を全てだって?) 


「にぃ……こんなゲーム、……やるなら必ずゲームを仕掛けられた側っ……ルール、に……ゲームに関わる記憶を全て消したまま、なん、て! 設定しないッ!」


 そう本来空白がゲームを設定した場合、不利な状況に陥る記憶削除をわざわざルールに追加なんてしないだろう。したとしても自分達だけではなく全員、そして完全消去というのなら、何かしらの回収手段も設定してるはず。だが……


「もしゲームに負けたのなら、こんなとこに居んのは意味不明だ。まだゲーム中だとして、仕掛けたのは誰だ? じいさん達か? いや、今回は獣人種ワービーストのSFステージって線は薄いな、ポスターに書かれている文字が明らかに日本語だし違うな。ならクラミー? 俺の記憶を持っているとしても、俺自身知識としてはあるだけで入院したことなんて無ェから! 一応再現可能ではあるが……俺の実体験には存在しない以上、俺か白の知識を元に作ったんだろうが……」


「……しろ……こん、な病院、知ら、ない」


 完全記憶能力を持つ妹でさえ知らない病院、元の世界には存在しない病院である以上、知識を元にして作ったオリジナルの病院ということになる。


「こん、な……不利なゲーム……飲まない」


「あぁ、相手はゲームを仕掛けざるを得ない状況のはずで、更には不利なルールでのゲームなら必ず気付いて変更を要求する……はずだ」


「ゲームを飲んだ、なら……空白が有利になるように仕組む……」


 (そうだ! こんな訳分からん病院を一からデザインなんて……病院……ん?)


「なぁ白、ゲームに関わる記憶を完全消去なら……なんで俺達はここが病院だって知ってるんだ?」


「ッ……!」


「そしてッ! 俺らの知識を元にでもしない限り! この場所を作り出すのは不可能! だが、ゲームに関わるものであるはずの病院という知識を覚えている。つまり! ……ここはゲームによって作り出された場所じゃない事になるな」


 ゲームでしか再現不可能、しかしゲームに関わる記憶を持っているということは、元々記憶消去はされていないということになる。それが意味することは……


「しろ、ちょっくら外見てこようぜ」


「……ん……わかっ、た」


 空がヨッコラショイと声を出しながら起き上がり、白は自分に差し出される手をしっかりと掴んで、二人は病室を後にした。








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