ノーゲーム・ノーライフ in SAO

たゆな
たゆな

── ニ話 ──

公開日時: 2022年6月26日(日) 08:44
文字数:4,505

「んん! さて、どんな世界観なのかねっと……ひぃいいい」


 無事ゲームにログインした空が、ゆっくりと目を開けるとそこには……


「アアアァァッ! 目がぁぁ! こりゃソーラービーム1ターンで撃てるレベルの日差しの強さッ!」


 引きこもりにはキツイ現実が広がっていた……。


「ひ、人が多い!! 日差しが強い!! 白がいないッ!! ん……白がいない!?」


 どうやら、初回ログイン時は《はじまりの街》の広場内にランダムスポーンするらしい。それにより、現実世界でしっかり手を繋いでいる二人であったが、事前情報も無く集合場所も決めていない為、再会するのが困難を極める事になる。


「くっ! よく考えろ空ッ! ここは仮想空間だッ! ここに居る人間は全員誰かが操作しているアバターに過ぎない! 太陽の光も思ったより強くはないはずだ!」


 少し冷静になった空は、同じ事を考えたであろう白が次にどこに行くだろうかと予測する。


「日差しと人混みのデメリットさえ緩和されれば、広場で一番分かりやすい所に行くはず!」


 そう考えた空は、広場の中心にある時計塔の方へと走り出した。





「お〜い、白さんや〜! 出てきておくれ〜!」


 時計塔に着いた空は、声を掛けながらその周辺を歩いていた。もう既に一周はしたのだが、一向に白らしき人物が見当たらない。仕方なく、もう一周しようとした空の背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「にぃッ!」


「ハッ! 白ッ!」


 自分の事を『にぃ』と呼ぶその声に咄嗟に振り向く空だが、そこには……


「白ッ!! ……白?」


「にぃッ!! ……にぃ?」


 ボンッキュッボンッで色気ムンムンのお姉さんが立っていた……。


「んんん? おかしいな、俺の妹はこんなにも発育が良くはなかったはずだが……」


「白のにぃも、こんなスタイル良くて、イケメンじゃない……」


 試しにパーティー申請をしてみると、空の方は『「   」』そして白の方には『「   SUB01」』という名前が表示されていた。


「にぃ……盛りすぎ!」


「はっはっは、地球くらいデカいブーメランが頭を粉々にしようとしているのが見えるぞ妹よ!」


 神霊種オールドデウス戦で十八歳になった自分の身体を見て絶望した白は、兄が無事ロリコンであった事により、心で血涙を流している自分に気付かぬフリをしてまで、生涯ロリ体型で問題ないと……そう判断したはずであったが、やはり本能的にはどうしても認められなかったようで……しっかりモリモリに容姿アバターをイジっていた。


「にぃ……白以外に、モテる必要、ない……イケメンにする必要、ないッッ!」


「ぐっ……」


 心ある機械エクスマキナとの対面時、『愛しい人シュピーラーはもっと男前であった』やら『時の流れがいかに残酷とも』やらと言われた事を引きずっている空もまた、自身の容姿アバターを男前と言われるであろうモノに改変していた。


「白……これ以上続けてもお互いが傷つくだけだ……もうやめにしないか……?」


「ん……にぃ、ごめんね? ……一緒にゲーム、しよ?」


 低レベルな争いにより傷ついた二人は、こんな事に貴重な時間を浪費するのは無駄だと悟り、大人しく情報収集に徹するのであった。


 



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「なかなか気持ちいいな、このソードスキルってのは」


「ん……ステータスが、あるから……東部連合の時、みたいに……疲れも、ない」


 ある程度の情報を集め終わった二人は戦闘の感覚を掴む為、圏外に出てモンスターを討伐していた。


「……何かレベルが上がり難いな。オンラインゲームで放置ゲーでもないのに……こんなに上がり難くする意味あるか?」


「このまま、なら……白達みたいな、ニートか、学生しか残らない……」


「あぁ、社会人やちょっとゲーム好きな程度じゃキツイぞ? それこそニートやらネトゲ廃人レベルのヤツ向けだよな?」


 そう、ログインしてから割と早めに狩りを始めていた空と白は、既に数時間はモンスターを狩り続けているのだ。それにもかかわらず、二人のレベルはあまりレベルが上がっていない。


「ナーヴギアもこのソードアートオンラインも同じ茅場晶彦が手掛けたんだろ? そんな凄いヤツがそんな事すら想定してないわけないよな?」


「元々、長時間やり続けるのが、前提のゲーム……?」


 二人は狩りを一旦中断して、この違和感について考える。


「もう五時二十五分か、メシを食いに一旦落ちた方がいいな。くっ!! 食いながらゲームが出来ないなんて、仮想世界はやはり不便だ!!」 


 そしてふと、


「なぁ、白……今ログアウトってできるか? ちょっと確認してみてくれ」


 空に言われた通り、白はメインメニューを開いてログアウトの項目を探す。しかし、、、


「……ログアウト、できない」


「だよな、俺もだ


 そして空は同じように狩りをしていた他のプレイヤーも騒ぎ始めているのを見て、『はは……マジかよ』とこれから自分達に起こり得るであろう悲劇を一足先に予測し、やらなければならない事の優先順位を決めて行く。


「ま、こんなデスゲームなんか……帆楼の時の双六と比べたら、まだマシだわ。馬鹿さ加減ならこっちも同じみたいだけどなッ!」


「テトの、創った世界の……あてつけ、みたいな、ゲーム……空白にケンカ売った事ッ、後悔させて、やるのッ!!」


 誰かの犠牲の上で成り立つ勝利、敗北にすら劣るそれでは意味がない。向かってくる全てを薙ぎ倒す、完全勝利で終わらせてやる……と。


「ん? 鐘……?」


「……五時はもう、だいぶ過ぎてる、のに?」


 不可解な事に、突如どこからか鳴り響く鐘の音。


「……っ! にぃ!」


「っ! しろッ!」


 お互いの身体が輝きに包まれ、絶対に離れまいと手を伸ばす二人。そして、あまりの眩しさに目を瞑る。


「くっ!」


「ひっ!」


 目を開けると……ログイン時に来た、はじまりの街の時計台のある広場へ転移していた。


「……ひ、ひひひ人おぉッ! ……お?」


「……にぃ、助けて……え?」


 あまりの人混みに、ガクガクと震えだした二人だが……鐘の音が止み、空中に表示された『WARNING』という文字に気付き、震えが止まる。そして、その間から血のような液体が現れ、人の姿を形作ってゆく。


「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」


「私の世界……だって? コイツが……」


「……茅場晶彦?」


 支配者であるかのようなその人型は、集められた全プレイヤーに向けて話し始めた。


「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ」


「ほんものかよ!」


「随分手の込んだ演出だなぁ」


 その言葉に、周囲はざわつき始める。


「プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない」


「……」


「……」


 二人は、無言で茅場晶彦を見つめる。


「繰り返す、不具合ではなく……ソード・アート・オンライン本来の仕様である。諸君は自発的にログアウトする事は出来ない。また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、または解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる」


 生命活動を停止させるというその言葉で、プレイヤー達は更に騒ぎ始める。


「……何言ってんだアイツ、頭おかしいんじゃね? なぁ、キリト」


「信号阻止のマイクロウェーブは確かに電子レンジと同じだ。リミッターさえ外せば、脳を焼く事も……」


 空と白は、聞こえて来る会話の方へ視線を向けた。


「っじゃあよぉ、電源を切れば……」


「ナーヴギアには、内臓バッテリーがある」


「……で、でも無茶苦茶だろぉ! 何なんだよ!」


 茅場晶彦が説明を再開する。


「残念ながら現時点でプレイヤーの家族、友人等が警告を無視しナーヴギアを強制的に解除しようと試みた例が少なからずあり……その結果213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している」


「……213人も!?」


「信じねぇ、信じねぇぞ俺は!」


 すると、茅場晶彦は巨大なアバターの周囲に複数のウインドウを表示した。


「ご覧の通り多数の死者が出た事を含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう。諸君等は安心してゲーム攻略に励んで欲しい。しかし十分に留意して貰いたい、今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった瞬間、諸君等のアバターは永久に消滅し、同時に諸君等の脳はナーヴギアによって破壊される」


「白、今から兄ちゃんが白を肩車して広場を周るから、ここに居る全プレイヤーの顔を覚えてくれ」


「……よゆー、でーすッ!」


 二人は広場を周りながら、茅場晶彦の話を聞き続ける。


「諸君等が解放される条件は唯一つ、このゲームをクリアすればよい。現在君達がいるのはアインクラッドの最下層、第一層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階へ進める。第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」


「クリア……第百層だと? 出来るわけねぇだろうが……ベータテストじゃロクに上がれなかったんだろ!?」


「それでは最後に、諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある、確認してくれたまえ」


 広場周回を終えた空と白は、自身のアイテムストレージを開く。


「……ん?」


「……てかがみ?」


 瞬間、二人の身体を光が包み込む。


「うおああぁ……あ?」


「……にぃ! ……へ?」


 光が収まり、再び現れた二人の姿は……現実世界の空白と全く同じモノであった。


「な……なんだと……」


「しろの……おっぱい……消滅した」


 周囲が二人と同じ様に、おそらく現実と同じ姿に変わった事で声を上げている中……この二人は、全く持って別の内容で声を荒げていた。


「なんて事をしてくれたんだ茅場晶彦ッ!」


「しろの、おっぱい、返してッッ!!」


 突如二人の怒声が響く。流石にその反応は想定していなかったのか、茅場晶彦が心なしかたじろいだ様に見えたが気のせいだろう。


「しょ、諸君は今なぜと思っているだろう。なぜソード・アート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのかと。私の目的は既に達せられている。この世界を創り出し、観賞する為にのみ……私はソード・アート・オンラインを創った。そして今、全ては達成せしめられた」


 茅場晶彦のその発言に、空は口元をニヤつかせる。


「……なぁ白、今後……この広場に居なかったプレイヤーが現れたら教えてくれ。……ハッ、観賞する為にのみだって? 嘘をつくのが下手にも程があるだろ」


「ん……どんなに、面白い、ゲーム実況でも……見てるだけ、で、いいゲーマーは……いない」


「以上で、ソード・アート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の検討を祈る」


 その言葉を最後に、空中に浮かぶ人型アバターは消滅した。


「……い、いやぁぁ!」


 泣き叫ぶ少女の声を皮切りに、広場のプレイヤー達が次々と声を荒げ始める。


「さてと、んじゃ白」


「……ん、行こ」


 ほとんどのプレイヤーが、茅場晶彦が消えた方へと怒号を浴びせているのを尻目に、二人は次の村に向けて歩みを進めた。













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