「ふむふむ、なるほどなるほど。んじゃ、隠蔽スキルはネペントには効かないんだな」
「あぁ、アイツらも視覚がない部類のモンスターだからな」
(索敵スキルは優先して上げるべきだな、プレイヤーの隠蔽が見抜けないと面倒だし)
「これで一通りは……というか教えるつもりも無かった事まで言った記憶があるな……」
そう肩を落としながら呟いたキリトに、笑顔を向ける二人。
「キリトって……凄く優しいんだな♪ ありがとう♪」
「色々……教えて、くれて、ありがと♪ キリトってば、ちょー頼りにな、る♪」
「……バカにしてるのか?」
空と白は、清々しい笑顔で煽りを……否、お礼を言ったはずなのだが、キリトのお気に召さなかったようだ。
「よし、粗方知りたい事は知れたな。ほいこれ」
ポイッと、アイテムストレージから取り出した『アニールブレード』を、キリトへ向かって放り投げる空。
「うおっ! ……絶対に嘘だと思ってたけど、ホントにくれるのか」
「ん? まぁ、別にそこまで必要ないのは本当だしな。それに、キリトとはこれからも会う事になりそうだしぃ?」
「ん……今後とも、ご贔屓に♪」
「ははは……」
そうあっけらかんと口にする二人を見て、苦笑するキリト。
「んじゃ、俺達はこれから買った装備を強化して迷宮区でレベリングをするつもりだけど……お前はどうするんだ? キリト」
「あぁ、俺はもうここでやる事はないからな。もうちょっと先へ進んだ所でレベリングをするつもり……って、は!? 迷宮区!?」
「……西の森、今はまぁまぁ、効率良い。でも、そろそろ、人が増え始めて……効率悪くなる」
「それに比べて迷宮区は、ガラガラで人も居ない、経験値もアイテムも美味い、そしてジャンジャン敵が湧いてくる! あぁ、最高の狩場ではないかッ!」
「だ、ダメだ! まだステータスが圧倒的に足りない! 一瞬でも気を抜いたら確実に死ぬぞ!」
「ん、まぁ……火力に関しては、ポイントを『筋力』と『敏捷性』だけにしか振って無いし、武器の強化もするから大して問題じゃないな」
「……防御力に、関しても……食らわなければ、どうということはないっ! キリッ! ……それに」
「この空白が敵を前にして気を抜く事などあり得ない! って事だからまぁ、大丈夫だ」
コイツ等はさっきから何を言っているんだと、困惑し続けるキリトを無視して、メインメニューを弄る二人。
「ま、そんなに心配なら、フレンドにでもなっておくか?」
「……それとも、パーティ……組む?」
無言で二人からのフレンド申請を承認するキリト。リア友も含め、友達が居ないキリトは……無意識の内に身体が動いてしまっていた。
「……コホンッ! それでも心配だから、一応俺もついて行く! いいか、危なくなったら直ぐに逃げるって約束してくれ」
「はぁ、心配症だな……いや、実は寂しがりやなのか?」
「……ぼっちが、心細くなるのは、仕方ない事……しろ達は気にしない」
「ぼぼぼぼっちちゃうわっ!」
「……童貞」
「ぐっ」
「……コミュ症」
「ぐぅっ!」
白によって、本人にとっては途轍もない鋭さの口撃を貰い、激しく狼狽えながら否定するキリト。その横で、静かに同じく致命傷を受けている男がいる事に、他二人はまだ気付かない。
「ハァハァ……め、迷宮区に行く前に武器を強化するんだよな、空!」
「ぐふ……あ、あぁ、まずは次の街で鍛冶屋の所へ行かないとな」
「……トールバーナへ、レッツらごー!」
同じ死線を乗り越えたキリトと空は、まるで気にする様子がないまま歩みを進める白を見て、密かに絆を深めるのであった。
※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎
トールバーナへ到着した三人は、綺麗な作りの街に感動! する訳もなく……一刻も早く装備を強化する為、一目散に鍛冶屋NPCの元へと向かった。
「お? あぁ、いたいた」
「……鍛冶屋、みっけ」
「鍛冶屋を見つけたのは良いけど、素材はあるのか?」
「あぁ、+3までの強化素材ならあるな」
「……それ以上は、迷宮区に……行ったあと」
「なら後は強化が成功するかどうかだけだな!」
手始めに、強化成功率が比較的高いままで強化する事ができる+2までスモール・ソードを強化する空。
「それじゃ白、よろしく」
「……ん」
よろしくって何だ? どういう事だ? と頭にクエスチョンマークを浮かべているキリトを他所に、しろは黙々と乱数調整の為の解析を始める。
「にぃ、その場で、3回ジャンプ、した後……時計回りで二回まわって」
その白の指示の下、不可解な動きを始める空を見て、キリトはますます困惑の表情を見せる。
「……そのまま、強化メニューを開いて……一度キャンセルして、また強化メニューを開いて……強化!」
「ほいっ! よし、+3っと!」
「はぁ!? 何それッ!」
「ん? 乱数調整」
「い、いや、出来るのか? このソードアート・オンラインで!」
「あぁ、出来るさ。ウチの白ならな」
「……キリトも、やる?」
(ぐっ、強化成功するか否かの楽しみを味わいたい気持ちもあるが、命が掛かっているこのゲームでそんなにも悠長にしていて良いのか? いや、ここは早めにステータスを上げておくべきか……)
「……お願いします」
そして、先程と同じように白の指示の下……乱数調整を行い全員分の装備の強化を終わらせ、その後迷宮区に篭る為……大量のポーションを買い込んだ。
「さて、皆さ〜ん! もう忘れ物はないかなぁ〜?」
「……準備、お〜け〜♪」
「……」
元気モリモリの空白と比べると、キリトはかなりゲッソリとしている様だが……大して問題にはならないだろう。
「迷宮区へ、あレッツゴォォウ!」
「おー♪」
「……おー」
二人は既に精神的疲労がMAXのキリトをガン無視して、迷宮区へと歩みを進めた。
※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎※✳︎
「オラオラオラオラオラ! オラァッ!」
「……てめーは、俺を、怒らせたッ!」
「なぁ、いつまで狩り続けるつもりなんだ?」
迷宮区に到着してから、既に六時間ほど狩り続けている空白に、キリトが問いかける。
「あぁ、俺達は空腹感にも睡眠欲にも耐性があるからなぁ。最低でも五徹はいけるな!」
「ご、五徹ッ!? さすがにキツくないか!?」
「……疲れた、なら……キリトだけ、でも、帰っていい、よ?」
その言葉に、火がついてしまったキリトは……ギリギリ保っていた理性を手放し、廃人ゲーマーの道へと踏み外し始める。
「いや、全然行けるッ! 全部俺が倒す!」
「い、いや、全部倒されると狩り効率が……」
「うおおぉぉあ!!!」
「……聞いてねぇ」
「……キリトが、壊れた」
やっちまったと思いながらも、その神がかり的な呼吸の合わせ方で、黙々とレベリングを続ける。
── 一徹目 ──
「やっぱここ、効率良いな」
「……素材もコルも、集め放題」
「うおおぁぁぁぁあ!!」
── ニ徹目 ──
「良い感じにレベルが上がって来たな」
「……ん、でも、流石魔王カヤバーン……レベルの、上がり方……激遅」
「はあぁぁぁぁあっ!!」
── 三徹目 ──
「火力も上がってきて、一体を狩るまでのスピードが速くなったな」
「……レベルアップ、までの、必要経験値は、増えたけど……狩り効率も上がった、から、問題ない」
「ぜいやあああぁぁぁっ!」
── 四徹目 ──
「………」
「………」
「せやぁぁぁぁっっ!!!」
── 五徹目 ──
「……そろそろ一旦街に戻るか」
「……ん、キリトが、ヤバイ」
「おらぁぁぁあっ!」
「おーい! キリト〜!」
「どりゃあああっ!」
「キリト〜!!」
「せいy……」
「キリトッッ!!」
「はっ!? 俺は一体何を……?」
やっと正気に戻ったキリトに、既に五徹している事と、今から一旦トールバーナへ戻る事を伝える。
「……遂に帰れるのか」
「あぁ、帰れるぞ。お疲れ、キリト!」
「……付き合ってくれて、ありがと♪」
空白は、バカになってまでレベリングに付き合ってくれたキリトにお礼を言い、迷宮区の入り口へと向かった。すると、
「ん? ……あれはプレイヤーか?」
「……片手用細剣、使ってる……それに、凄く攻撃が……速い」
「……まるで流星だな」
三人の視線の先に、モンスターに囲まれながらも……類稀なる技術で圧倒しているプレイヤーが見えた。
「はっ! まずい、押されてるッ! 助けに行くぞッ! 空、白」
「おう!」
「……いえっさーっ!」
今にもやられてしまいそうなそのプレイヤーを救う為、三人は全速力で駆け出した。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!