アタシは恥ずかしくて自分の部屋に駆け戻った。
うぅ...前世含めて男子に胸見られたことなんて数える程しかないのにぃ~! しかもよりによって男性陣全員に見られるって! どういう罰ゲームなんだよ~! これからどんな顔して会えばいいんだよ~!
おのれ痴女め! みんなアイツのせいじゃ! この屈辱どうしてくれよう!
「ミナ~? 大丈夫~?」
恥辱に震えていると、アリシアとマリーがやって来た。
「大丈夫ばない...もう帰りたい...」
「まあまあ、そんな落ち込まないで。それにさ、せっかく温泉来たんだから入らずに帰るのもったいないじゃん? まずは入りに行こうよ?」
「でも水着の紐切れちゃった...」
そうなのだ。さっきの騒動でブラの紐が切れて着れなくなった。替えの水着を用意してないから温泉にも入れない。あの痴女め!
「水着じゃなくて、普通に全裸で入れる大浴場もあるよ?」
「えっ? そうなの?」
「うんうん、ホラ用意して行こうよ?」
「分かった。マリー、用意するの手伝ってくれる?」
「畏まりました」
アタシ達は入浴セットを用意して大浴場に向かった。
「ふわぁ~! 気持ちいいね~! やっぱ温泉はこうじゃなきゃね~!」
広々とした大浴場を貸し切り状態で泳ぐってのは贅沢だよね~! ついついハシャイじゃって何往復もしちゃったよ~! 全裸で泳ぐって解放感があっていいよね~!
「うん? どした? アリシアもマリーも顔赤いけど、逆上せちゃった?」
「えっ? あぁいやその...」
「ハァハァ...」
ん? なんかアリシアの歯切れ悪いな? マリーは息切らしてるし。
「そろそろ上がろうか?」
アタシが立ち上がるとなぜか二人が両脇を抱える。
「ね、ねぇミナ、体洗いっこしよ? まずは先に洗ってあげるよ?」
「ハァハァ...ミナお嬢様、私はいつも通りにお世話を...」
「いやいやなんで二人とも鼻血出してんの!? それにマリー、いつもそんな息荒くないよね!?」
「温泉で上気した肌のミナたん最高...ハァハァ...」
「ミナお嬢様は至高の存在です...ハァハァ...」
「いゃぁ~!!」
結局、アタシはなぜか興奮した二人に洗いっこと称して散々に弄ばれた。部屋に戻った時はグッタリと疲れ切っていた。おかしい、温泉でのんびりするはずが、どーしてこーなった!
その後、帰る日までアタシが部屋に籠っていたのは言うまでもない。それにしてもなんでアタシの周りは変態ばっかなんだ!?
◇◇◇
温泉から帰ってしばらくは、何事もなく平穏に過ごしている。冒険者活動も少し控えることにした。夏休みもそろそろ終わるので、学生の本分に立ち返るためだ。
「ミナお嬢様、朝です。起きて下さい」
そう、こうやって朝はいつもの時間に起こして貰うようにしてる。リハビリじゃないけど、体を慣らさないとね。だけど...
「マリー...近い...」
「アゥッ!」
起こしてくれるのはいいが近過ぎるわ! ほとんど口付けする距離じゃねぇか! このメイドは全く油断も隙もない! ちなみにマリーの本性を知ってからは、着替えも入浴も自分一人でやるようにしてる。マリーはこの世の終わりみたいな顔してたけど知るもんか!
着替えて朝食を食べ終わった頃、騒がしいのがやって来る。
「ミナ~! おっはよ~!」
「暑苦しいわっ! 抱き着いてくんなっ!」
「アゥッ!」
アリシアはこうやって毎日やって来る。暇なのか? ちなみにアタシの土壁はレベルが上がったのかバージョンアップした。なんと透明な膜を体の周りに張ることが出来るようになったのだ。便利なのでこうした変態対策に役立ってる。
「アリシア、あんた毎日遊びに来てるけど、夏休みの宿題終わってるんでしょうね?」
「うぐっ!」
「ア・リ・シ・ア」
「すいません...全然終わっていません...」
「はぁ~...そんなことだと思った...ホラ、手伝ってあげるから宿題持ってきな? 図書室行くよ?」
「うぅ...ありがと...」
アタシ達が図書室に向かうと先客が居た。
「シルベスター? まさかあんたも?」
「うぅ...申し訳ない...」
すっかりワンコキャラに戻ったシルベスターは頭の耳と尻尾が垂れて見える。
「そう言うミナは?」
「私はアリシアの付き添い。エリオットも?」
「うん、殿下達に頼まれてね」
エリオットが苦笑している。
「殿下曰く『俺達は公務まで熟しているのに情けない。ビシッと鍛えろ』と。シャロン嬢曰く『鞭が必要ならお貸ししましてよ?』と」
「「 ヒィィィッ! 」」
二人の悲鳴が重なった。
「それじゃあビシッといきますかね!」
アタシは不適に微笑んだ。
◇◇◇
「シルベスター、ここの計算間違ってる」
「あ、ホントだ...」
「アリシアっ! 寝るなっ!」
バシィッ! シャロン様の鞭が唸るよ~!
「ヒィィィッ! す、すいませんっ!」
「み、ミナ、読書感想文のお題、本当にこれでいいのかい?」
エリオットが本を持って来てくれた。
「お~! ありがとー! そうそうこれこれ。やっぱ名作っていつの時代でも不朽だよね~」
『平和と戦争』『風と共に去った』いずれも2000ページ越えの大作でーす!
「「 ヒィィィッ! 」」
またもや二人の悲鳴が重なった。仲良いね。
「これ明日までに読んで感想文書いてね?」
アタシは悪魔のように微笑んだ。
「「 か、勘弁して下さい~! 」」
二人の泣きが入った。まぁイジるのはこの辺りで勘弁してやろう。
~~ 次の日 ~~
「シルベスター、これただ小説の粗筋書いただけで感想じゃないよ。書き直し!」
「はいっ! すいませんっ!」
「アリシアっ! あんたこれ巻末の後書きを写しただけじゃん! 舐めとんのかっ!」
バシィッ! 今日もシャロン様の鞭が唸るよ~!
「も、申し訳ございませんっ!」
結局、バカ二人の補習は夏休みの最後まで続いたとさ。
◇◇◇
「それで何とか間に合ったと。全く情けねぇな」
「本当ですわ。自覚が足りませんことよ?」
「「 も、申し訳ございません... 」」
今日は久し振りに冒険者ギルドに来ている。明日が夏休み最後の日だ。全員が集まった所でバカ二人にお説教している。サボッたんだから当然の罰だ。
「二人共ご苦労だったな。面倒見るの大変だったろ?」
「えぇ、大変でした」
アタシとエリオットは苦笑し合う。
「それで今日はギルドから指名依頼があったと聞きましたが?」
エリオットが仕切り直す。Bランク以上になるとギルドから指名依頼が入ったりするらしい。
「あぁ、なんでも冒険者達が行方不明になってるそうでな。それの調査及び救出の依頼だと聞いてる。詳しいことはヒルダ嬢から説明があるとのことだ」
「行方不明...穏やかじゃありませんね...」
そこへヒルダさんがやって来た。
「お待たせしてごめんなさい。指名依頼の件、説明するわね。ここから馬車で3時間程掛かる場所に『夜霧の森』と呼ばれる森があってね。そこに入った冒険者の何組かが戻って来ないのよ」
『夜霧の森』なんだろう、『今夜もありがとう』っていう謎のフレーズが頭に浮かんだんだけど何故?
「夜霧ねぇ...一体どんな森なんだ?」
「昼なお暗い霧が立ち込める見通しの悪い森でね。良く迷子になっちゃう人もいるみたいなのよ。でも出没する魔獣の質はそれ程高くないし、今まで戻って来れないっていうのはあまり無かったのよね。それがこの所立て続けに起きてるからもしかしてと思ってあなた達に依頼したって訳」
「なるほど...それで行方不明になっている人数と期間は?」
「パーティーが3組で12名。一番長い者で行方不明になってから今日で一週間になるわ」
「早目に手を打たないと手遅れになるな...みんな、受けていいか?」
アタシ達は全員頷いた。
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