王都から馬車に揺られること約3時間、アタシ達は大湿原『アルデバラン』に到着した。
目に前に広がる大湿原は圧巻のひと言だ。どこまでも続く沼地と湿地帯は果てが見えない。行った事は無いが前世の釧路湿原もこんな感じなんだろうか。大自然に圧倒されていたアタシだが、ふと思い立って殿下に尋ねてみた。
「あの、素朴な疑問なんですけど...この広大な土地の中から、たった一人を探し出すなんて無理だと思うんですが...」
「あぁ、実はな、この湿地帯を進むルートは確立されているんだよ。そのルート通りに進めば、少なくとも底無し沼や毒沼のような危険地帯を避けて通ることが出来るんだ。それに一人じゃないぞ? あのバカは何人か用心棒として冒険者を雇ったみたいだからな」
「なるほど、私達もルート通りに進めば、もしかしたら遭遇するかも知れないと?」
「途中で魔獣にやられてなきゃな。やられてるといいなぁ...」
うん、最後の所は聞かなかったことにする。用心棒役に選ばれた冒険者達が気の毒だから、そういうことは思ってても言っちゃダメだぞ?
「地図とかあります?」
「あぁ、あるぞ。これだ」
殿下が懐から地図を取り出す。一見すると観光地の案内図みたいだ。
「ありがとうございます。隊列はいつも通りで。では出発しましょう」
こうして大湿原、人探しの旅が始まった。
◇◇◇
「エリオット、アリシア、次の沼地を右ね」
「「 了解 」」」
ちなみに地図はアタシが持って歩いている。先頭の二人はいきなり戦闘になったりするからね。地図を見ながらだと危ない。ちなみにノームの加護のお陰で、足元は湿地帯を歩いているとはとても思えない程に快適だ。疲れもあまり感じない。
『へへ~♪ どんなもんだい♪』
ここぞとばかりに得意気なノームに感謝する。とても助かる、ありがとう!
「何か出たぞ」
「何かしら、蟹? それにしては大きいような...」
しばらく歩くと、エリオットとアリシアが止まった。前方を見ると、確かに蟹の形をしている何かが居る。ただバカデカイ。甲羅の部分だけで約1m、両方の鋏まで入れると約3m、しかもこの鋏がまたデカイ。甲羅と同じくらいある。
「あれは『マッドクラブ』気を付けて。あの鋏にやられると、人の手足なんか簡単に切られちゃうから」
シルベスターの言う通り、確かに凶悪そうな鋏だ。甲羅も硬そう。アリシアに注意するよう言おうとしたら、
「ウリャ!」
瞬殺していた。うん、要らぬ心配だったね。
「ねぇねぇ、これって食べたら美味しいのかな!?」
しかも完全に食糧扱いしてるし。
「止めといた方がいいよ。泥臭くてとても食えたもんじゃないって話だから」
「そうなんだ、残念...」
アリシアが落ち込んでる。そんなに蟹好きか? まぁ前世のアタシも嫌いではなかったけど。
「また何か出たぞ」
「うげぇっ! 何あれ!? 巨大蛞蝓!?」
またしばらく歩いていくと、今度は...なんだあれ? 黒い蛞蝓? みたいなモノが横たわってる。しかもまたバカデカイ。約1mはありそうだ。なんだ? この湿原には生物を巨大化させる何かがあるのか?
「あぁ、あれは『ブラッドリーチ』吸血蛭だね。血を飲めば飲む程大きくなるから、どこかで大量の血を吸ったんだろうね」
蛭かぁ。懐かしいなぁ。子供の頃、じいちゃんの田んぼの田植えを手伝った時に血を吸われたなぁ。
あ、前世の話ね。その時、気持ち悪くてすぐに剥がそうとしたら、じいちゃんに止められたっけ。無理に剥がすと蛭の口が体の中に残っちゃって化膿したりするから、タバコの火を蛭に押し付けて、蛭が自ら離れるようにして剥がしてくれたんだよね。今となっては良い思い出だなぁ。
「うぅ...あれはちょっと...」
「うん、分かってる。僕がやるよ」
アリシアが躊躇ったのでエリオットがフォローした。これはアタシも同じくらい気持ち悪かったので、アリシアを責めたりしないよ。
蛭を蹴散らしてまたしばらく進むと、前方に沼が現れた。
「あれ? 地図にはここに沼があるなんて載ってないけど?」
「ひょっとしたらあれかな? ほら、こないだ大雨が降っただろ? その影響で沼が出来たのかも知れん」
「どうします? ルートはここを直進するってなってますけど?」
『ここからは私の出番ね!』
シルフが得意気にしゃしゃり出て来たけど、大丈夫か?
なんか不安になるんだけど...
読み終わったら、ポイントを付けましょう!