ミナが連れられて来た所は、例の儀式が行われた場所だった。
あの時と違う点は、魔法陣の真ん中になにやら十字架のような木の人形が立っていることだった。
「お前はあそこに磔にされ、邪竜様の生贄となるのだ。光栄に思うと良い」
どうやらまんま十字架だったようだ...
ルークが愉悦を浮かべた表情のまま熱っぽく語る。周りを見渡すと長老や族長含め、里の者達は老若男女合わせてほとんどの者が集まって来ているようだ。子供の姿もチラホラ見える。
ミナの怒りは頂点に達した。生贄を捧げるって事自体が度しがたいことだというのに、それを子供達に見せるだと!? なに考えてんだ!
「ふっざけんな! 誰が光栄になんて思うか! お前ら全員狂ってる! いい加減目を覚ませぇ~!」
ミナは力の限り抵抗した。めっちゃ暴れた。
「こ、この! 大人しくしろ!」
だが結局は屈強な男達に押さえ付けられ、十字架に括り付けられてしまった。
「こんな蛮行が行われていいはずがない! 止めるんだ! 今ならまだ間に合う! 人の心を取り戻せ!」
「黙らんか! あれを見ろ!」
ルークが指差す先には、両手足を鎖付きの手枷足枷で拘束されたマリーが、ナギを抱えたままの格好で剣を突き付けられていた。
「マリー! ナギ!」
「ミナお嬢様ぁ~!」「キュイキュイ~!」
「貴様より先にあいつらを始末してやってもいいんだぞ!」
ルークが嘲笑いながらそう告げる。ミナはギリリと音がするほど歯を噛み締めながら、
「くそぉっ! これがエルフのやり方か! お前らに人としての誇りはないのか! 呪ってやる! 末代まで呪ってやるからなぁ~! 覚悟しろぉ~! エルフの里に災いあれぇ~!」
血を吐くような呪詛を声の限りに叫んだ。これにはさすがにエルフ達も動揺したようで、
「な、なにをやっておる! さ、さっさと生贄を捧げんか!」
長老が焦ったように指示を下す。すると我に返ったのか、エルフの戦士達がミナを取り囲んで槍の穂先をミナに向けた。
今まさにミナが、生贄に捧げられそうになった時だった。
ズシイン...そんな音と共にエルフの里全体が震えた。
「な、なんだ!? なにが起こった!?」
全員が辺りを見回す。すると...
ピキッピキッピキッ...パリ~ン!
そんな音と共にエルフの里を覆っていた結界が砕け散った。そして...
「ミナぁぁぁっ!」
叫びながら現れたのは、
「アリシアぁぁぁっ!」
結界の欠片がキラキラ舞い落ちる中、アリシアが降って来た。そのアリシアが地上に激突する寸前、ミナが「危ない!」と叫んだ所を、なにやら青い影が現れてアリシアを救った。
「えっ!? なに!?」
ミナは自分の置かれた状況をしばし忘れて首を捻った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!