アタシ達が頭を悩ませていると、不意に水竜が首を上げた。
「キュイ!」
そして短く鋭く鳴くと、ある一点の方角に赤い瞳を向けた。
「どうしたの? 何かあった?」
水竜は何も答えずただ同じ方角を向いている。すると、
「ねぇ、人の叫び声がする! 助けを求めてるみたい!」
聴力強化したアリシアが、目を閉じて集中力を高めながらそう告げた。アタシ達は顔を見合わせる。この状況で助けを求める人が居るとすればそれは...
「助けに行こう! アリシア、先導して!」
「分かった! こっち!」
それは水竜が見ていた方角だった。アタシ達はアリシアを先頭に駆け出した。
「水竜! ゴメン、ここで待ってて!」
水竜に一声掛け、返事を聞かずに先を急ぐ。
しばらく行くと、湿原には珍しく高い草が生い茂っている場所に着いた。人の背丈の倍以上伸びた草で前が見えない。
「アリシア! この先?」
「うん、この藪を抜けた辺り!」
早く駆け付けたいが、視界の利かない場所に飛び込むのはリスクが高い。どうしようかと思っていると、
「任せろ!『ファイアーロード!』」
殿下が焼き払ってくれた。
「急ごう!」
やがて藪を抜けたアタシ達の目に、衝撃的な光景が飛び込んで来た。大きな檻の中に四人の人間が閉じ込められている。彼らは揃って悲鳴を上げている。その悲鳴の先には...
「アナコンダ...」
シルベスターがポツリと呟いた。そう、檻の中の人間に向かって鎌首を擡げているのは巨大なアナコンダ。ただ、前世のパニック映画で見たアナコンダとはスケールが違う。20mはあるんじゃなかろうか。ここまでデカイと、ほとんど怪獣と変わらないレベルだ。
思わずアタシ達が立ち尽くしていると、
「キュイ~!」
頭上から水竜の鳴き声がした。連いて来てたのか? 見上げた先で水竜の口から白い息が吐かれた。
「ブレス!?」
すると、今にも檻の中の人間達に襲い掛からんとするアナコンダの巨体が、その格好のまま瞬時に凍り付いた。まるで巨大なオブジェのように時を止めた。
「凄い...」
これが水竜のブレス...アタシ達はしばし呆然と見蕩れていた。
◇◇◇
「おい、ハイド」
「ヒィィッ!」
やっと我に返ったアタシ達は、檻に囚われた人達の元へ向かった。今にもアナコンダに呑み込まれるところだっただけに、四人共まだパニック状態から抜け出せないようだ。まぁ無理もないが。
落ち着いて来て、凍り付いたアナコンダを見てまたビックリしていた。やっと話が出来る状態になったので聞いてみると、どうやらザハギンの群れに襲われて捕まったらしい。そして檻に入れられアナコンダの生贄になる一歩手前だったと。
あのペンダントは、武器を取り上げられた時に一緒に盗られたらしい。それが何故セイレーンの手に渡ったのか? シルベスター曰く「キレイなペンダントだからプレゼントしたんじゃないかな?」とのこと。魚人族の関係性を垣間見た気がした。
「これだけの大騒ぎを引き起こしたんだ。さすがに叔父貴も庇い切れないと思え」
殿下に叱責され、然しものおバカさんもシュンとしている。だったらやらなきゃ良かったのに。付き合わされた冒険者達が気の毒だ。取り敢えず、アリシアに全員ヒールを掛けて貰って体力は戻ったので、さぁ帰ろうってことになった。
「キュイ~♪」
「えっ? まさか全員乗せてくれるの?」
おバカさんも達含めて10人も居るよ?
「キュイキュイ~♪」
結局、おバカさん達は一人ずつ大きなヒレに掴まって行くことにした。水竜の大きさに最初かなりビビッていたが、飛び上がった後は「凄い」を連発していた。
マリー達が待っている場所に飛んで貰う。いきなりこんな大きな竜が飛んで来たらビックリさせちゃうと思ったアタシは、マリーの姿が見えるようになった辺りで空中から呼び掛けた。
「マリー~! ただいま~! これ敵じゃないから! 大丈夫だからね! 心配しないで!」
ありゃ、ダメだったか。腰抜かしちゃったみたいだ。
まぁしょうがない。無理も無いかな。
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