秋も深まったある日、昼食の席で殿下がアタシ達に向かってこう告げた。
「今度、隣国『ヴェガート獣王国』の『ライオネル王子』が我が国に留学して来ることになった」
それを聞いて思わずアタシはアリシアを凝視した。アリシアも同じ思いだったようで、そっと目配せした。
(あとで二人っきりで話そう)
そう合図してから殿下の話に集中した。
「留学ですか? なんでまたこんな中途半端な時期に?」
エリオットの疑問はもっともだ。年度の途中に留学して来る意味はなにかあるんだろうか?
「それが良く分からんのだ。理由を聞いてもとにかく急いで来たいとの一点張りでな」
「番(つがい)が我が国で見付かったんだという噂がありますわね」
「シャロン様、番というのは?」
シルベスターが尋ねる。
「まぁ、簡単に言えば結婚相手ですわね。獣人には、己の生涯の伴侶となる番を見付け出す能力があるんだそうですわ。匂いで見分けるのかフェロモンのようなモノを感じ取るのか、詳細は知りませんけどね」
「なるほど...その番が我が国に居るかも知れないと?」
「あくまでも噂ですわ。ただ、とにかく急いでいるというところを見ると、案外そうなのかも知れませんわね。誰かに取られる前に、自分のモノにしたいと焦っているのかも知れませんわ」
「それはまた...」
「まぁ、真意はともかく、友好国の王族が留学して来るんだ。くれぐれも粗相の無いように。留学して来たら、俺とシャロンは面倒を見ることになる。お前達も絡むことになるだろうから、留意しておいてくれ」
全員が頷いた。
◇◇◇
その日の放課後、アタシはアリシアの部屋を訪れていた。内緒話をするなら、アタシの部屋よりもアリシアの部屋の方が都合が良い。念のため、遮音結界を張る。
「ライオネル王子って例の隠れキャラで間違いないよね?」
「うん、王子ルートをやり込まないと出て来ない俺様王子」
「俺様なんだ...」
「脳筋でね。腕っぷしでなんでも解決しようとするタイプ」
「うわぁ...それはまたなんとも...」
「でも出て来る時期が違うんだよね。ゲームだと私達が3年になってからだもん」
「早まったのはなにか意味があるのかな?」
「分かんない。そもそもゲームの展開からすっかり外れているからね。なにが起こっても不思議はないかも」
「確かに。ところでさ、ゲームの中にも番の件ってあったの?」
「あぁ、うん、まぁ...」
「アリシア? もしかして?」
「うん...ヒロインが番...」
こ、これは波乱の予感しかしない!
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