最初にリーダーとして提言したいのは...
「まず隊列を変えます」
前衛 : アリシア、エリオット、
中衛 : ミナ、シルベスター
後衛 : シャロン、アルベルト
「このように変更したいと思います」
アタシの提案に対し、殿下が代表して質問する。
「その理由は?」
「まず前衛ですが第一に、アリシアの戦闘力を全面に出したいこと。この中で物理攻撃ならNo1ですから。第二にエリオットの得物が射程の長いハルバードであること。先制攻撃に有利です。そして第三に二人とも回復能力を持っていること。これが一番重要です」
アタシは一旦言葉を切って前衛の二人に目を向ける。
「戦ってる最中にポーションを飲んでる暇なんかありませんからね。一番怪我し易いポジションなんで、戦いながらでも回復出来る二人が適任だと思います。ここまで良いですか?」
全員が頷いたのを見て次に進む。
「次に中衛ですが、私とスライはどちらも防御が得意です。今回のように挟撃されたとしても、両方を常にカバー出来る位置を取ることにより、迅速な対処が可能になると思います」
また全員が頷く。
「最後に後衛ですが、殿下、シャロン様、私はお二人が血塗れで倒れているのを見た時、心臓が止まる思いでした」
殿下とシャロン様が俯く。
「お二人が大事な御身であることは、ここに居る全員が理解しています。だからこそ後衛に下げました。ただそれは、決してアリシアとエリオットなら危険に晒しても良いなんて意味じゃありませんよ。その点もちゃんと全員が理解していると思います。要は適材適所ってことです」
全員を見回す。殿下とシャロン様以外みんな頷いてくれた。
「その...良く分かった...心遣いに感謝する...」
「えぇ...私も...感謝致しますわ...」
アタシは更に続ける。隊列の次は装備だ。
「それと装備ですが、みんなバラバラですよね? これも出来るだけ統一したいと思ってます」
殿下とエリオットは高位貴族らしく凛々しい軍服姿。アタシとシャロン様とスライは色違いのローブ姿。そしてアリシアは迷彩服の上下に黒のブーツ姿だ。この世界にもあったのね。
「恐らくですが、これからはダンジョンだけじゃなく、森の中や平原とかで戦う機会も増えると思われます。なので、今アリシアが着てるような迷彩服をみんなで着るというのはどうでしょうか? 保護色になりますし動き易くもなります」
みんなの反応を伺うと「あぁ、確かに」「いいかも知れない」と好意的な意見が多かったので、アリシアに尋ねてみた。
「ねえアリシア、その迷彩服どこで買ったの?」
「これは冒険者SHOPっていう店で買ったよ。冒険者向けの便利グッズを売ってる所」
「サイズは取り揃えてあった?」
「うん、男向け女向け各種取り揃えてあったよ。子供向けも...あっ!」
をいっ! そこで絶句すんなや! 悲しくなるわ! 分かってんだよ、子供サイズしか着れないってことは!...だ、だから泣いてないってば!
この国では15歳で成人と認められる。ただ、働きに出るのは10歳から可能になる。確か冒険者ギルドでも10歳から登録が可能だったはず。だから子供サイズが売っていてもおかしくはないんだが...アタシはこれでも15歳で立派な大人なんだからね! プンプン!
「あ、ありがと。では迷彩服に決めていいですか?」
全員からOKが出たので次に進む。
「次に鎧ですが、これは強制したいと思います」
殿下を見ながら話すと、決まり悪そうな顔をした。
「レザーアーマーや鎖帷子といった動き易さを重視したもので構いませんから、必ず着けて下さいね」
全員が真摯に頷く。
「最後に兜ですが、これは強制はしません。視界が狭くなるのが嫌だとか、動く難くなるのが嫌だとか、個人の好みもあるでしょうから。ただエリオット、あなただけは強制ね。この意味分かるよね?」
「あ、あぁ、もちろん...了解した...」
あの時のエリオットが血塗れになった顔は夢に出そうだからね。二度と見たくない。
「ねぇ、兜ってフルフェイス?」
「いや、顎の所で紐を結ぶタイプ。こないだ一緒に行った武器屋にあったんだよ」
まぁ、だから実際の所は武器・防具屋って呼んだ方が正しいんだろうね。面倒だから武器屋ってこれからも呼ぶけどさ。
「あ~ 確かにあったかも」
「出来ればアリシアには被って欲しいんだけどね。私は被るけど」
「う~ん...でもなぁ...ヘルメットまでみんなお揃いになったら、ますます戦隊モノ感が...」
うん、最後の所は聞かなかったことにする。
「ボクも被るよ」「俺も被るぞ」「私は...はぁ...被りますわ...」
シャロン様だけ嫌々って感じだ。自慢の縦ロールが崩れるの嫌なんだろね。
「だってさ、どうするアリシア?」
「うぅ、分かったよ。被ればいいんでしょ!」
アリシアに半ギレされた。そんなに嫌か?
「さてと、こんなもんかな? あ、そうだ。エリオット、盾は要らないよね?」
「あぁ、両手が塞がってると魔法放つ時に不便だな」
「だよね。私なんか全力で魔法放つ時、両手使うから杖が邪魔で手放すもん」
みんな覚えがあるのか苦笑してる。基本、ウチらって魔法がメインだからね。
「他に何かご質問、ご要望は?」
「はいっ!」
「アリシアさん、どうぞ」
「装備を調える為のお金はどうするの? 各自負担?」
「良い質問です。そこで今回獲得した魔石の出番となります。これをギルドに売ってお金に」
「いや、その必要はないぞ?」
「へ?」
アタシの言葉を遮って殿下が言った。
「遅くなったが、俺達『精霊の愛し子隊』に対する活動資金の予算が下りた。カードもこの通り、昨日出来立てのホヤホヤだ」
そう言って殿下が懐から黄金に輝くカードを取り出した。
「それじゃ今、私が提案した装備の費用もそこから?」
「それだけじゃないぞ。今後の活動費についてはもちろんだが、今回掛かった各々の装備に関しても遡って請求してくれて構わん」
アタシは自分の現装備に目をやる。確かにこの杖とローブは自腹で買った。みんなも同じだろう。お小遣いが少ない身の上としてはとてもありがたい。
「これは本来、俺達が冒険者活動を始めるに当たって、必要となる経費のための予算だからな。お前達に1ペイルだって負担させるつもりは無いよ。安心してくれ。それと請求された金額は現金でそのまま渡すのも良し、これから作る冒険者カードに振り込むも良し、好きな方を選んでくれ」
ペイルとはこの国の通貨単位だ。1ペイル=1円と思って間違いない。流通しているのは貨幣のみで紙幣は流通していない。活版技術は普及していて、まだ高価ではあるが本もそれなりに流通している。だがその技術は紙幣の製造という文化方向には向かなかったようだ。
その代わり台頭して来たのが先程のカード文化である。紙幣文化を飛び越えていきなりカード文化がやって来た背景にあるのはそう、魔力の存在である。さすがはファンタジーというべきか、時代考証がおかしなことになってる気がしないでもないが。
魔力の質には個人差がある。例え親兄弟であっても二つとして同じものは存在しない。つまり指紋認証や声帯認証と同じように、魔力の質によって絶対に偽造出来ないカードを作ることが可能になる。
そのカードを利用して「カードに現金を振り込む」「カードでお買い物する」といった現代日本と同じような使い方が可能になり、瞬く間に世間一般にも浸透していった。
今では王都に店を構えている店舗のほとんどで使用可能になっている。さすがに露店や屋台までには普及してないが、地方でもちょっとした町や村の店では使用可能だ。
まぁ、この辺りは全てゲームで培った知識なんだけどね。
冒険者として活動していく上でもカードは必須となる。依頼を受ける時、依頼達成時の報酬を受け取る時、魔石やドロップアイテムを売却する時、全てカードで取引する。
身分証にも成り得るこのカードは、破損したり紛失したりすると、再発行までに時間もお金も相当掛かってしまうので、取り扱いには注意が必要だ。
これもゲームで培った知識なんだけどね。
ちなみに貨幣は、高い方から順に、緋緋色金、白金、金、銀、銅、鉄、となっている。それぞれが10単位で上に繰り上げる。鉄10枚→銅1枚、銅10枚→銀1枚 といった具合だ。
鉄貨1枚が1ペイルとなる。一般庶民の平均月給が約15万ペイルとして、その場合は白金貨15枚と数枚の貨幣になると言えば分かり易いだろうか。
これもゲームで...同上
なんにしても費用の心配をしなくていいのは心強い。
「では明日は、冒険者ギルドへ行く前に、各自の装備を調えることにしましょうか」
全員が頷いたので明日の方針が決まった。
殿下の言う通り忙しくなりそうだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!