時は少し遡り、生贄の儀が明日だと知らされた日の夜。
「フウッ...マリー、私もういいや...食欲無いんで...」
ミナは最後の晩餐だと言われて出されたご馳走を前に、辟易した顔をしていた、
「ミナお嬢様...お気持ちは良く分かりますが、無理にでも食べて下さい。助けが来た時に動けないと困ります...」
マリーが心痛を堪えるようにしてそう言った。
「キュイキュイ...」
ナギもそれに続く。
「あぁうん、そうだね...精霊王様、ちゃんと伝わっているんですよね? そろそろ来てくれる頃でしょうか?」
ミナが精霊王に尋ねる。
「そのはずなんじゃが...確かにちと遅いの...」
精霊王が訝しむ。
「まさかメッセージが伝わって無いってことは...」
「それは...無いはずじゃ...ちゃんとレムに送ったからの。見ておるはずじゃ...」
「えっ!? 今なんて!?」
ミナは聞き捨てならないことを聞いたような気がした。
「じゃからレムに」
「寝てるんじゃないですか!?」
ミナが食い気味に畳み掛ける。
「...いやまさかそんな...」
「言い切れます?」
「......」
「ハァッ...」
ミナは大きなため息を吐いた。
「なんで他の精霊にメッセージを飛ばさなかったんですか...」
「いやそれがその...まずは高位精霊に送ってから、その内容次第で低位精霊には高位精霊の方から伝達することになっておって...」
「なんですかその役に立たない連絡網は! 伝言ゲームじゃないんだから、高位も低位もなく一斉配信すれば良かったでしょうよ!」
ミナは強く抗議した。命が掛かっているんだから当然だ。
「...申し訳ない...今後は見直す方向で善処することもやぶさかではないと思ってたり思ってなかったり」
「国会答弁か!」
ミナはついにぶち切れた。
◇◇◇
結局、一睡も出来ずに朝を迎えた。
「待たせたな。結界の修復に手間取ってな」
エルフの戦士ルークが現れた。
「結界!?」
「あぁ、お前らが破った結界の一部を修復しないと儀式が出来ないんでな。さぁ出ろ!」
ルークはミナを手を取り無理矢理立たせる。
「ミナお嬢様!」「キュイキュイ!」
マリーとナギが叫ぶ。
「お前らには特等席で儀式を見せてやる。ありがたく思え」
ルークが酷薄な笑みを浮かべて見下ろす。
「貴様ぁ!」
マリーが激昂してルークに掴み掛かろうとするが、手枷足枷が邪魔して立ち上がれない。
「フンッ! 無礼者め!」
ルークがマリーを足蹴にする。
「ぐうっ!」
マリーが痛みに顔を歪める。
「マリー! お願い! 止めて!」
ミナがルークに懇願する。
「フンッ! だったらさっさと来い!」
マリーはルークに無理矢理連れ去られて行くミナを、歯噛みしながら見送るしかなかった。
「ミナお嬢様~!」
マリーの慟哭が響き渡った。
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