王都から馬車で三日掛けてアタシ達は目的地を目指した。
ようやく到着した『ティターン』の町は、まさに温泉街といった風情を醸し出していた。街のあちこちから温泉の湯煙が上がり、硫黄の匂いが仄かに漂っている。
もうそれを見ただけでアタシのテンションは爆上がりで、今すぐにでも踊り出したい気分だった。
「あ~っ! やっぱりいつ来ても温泉街っていいよね~!」
「えっ? ミナは前にも来たことあるのかい?」
しまった! テンション上がり過ぎてつい前世の記憶を! エリオットは普通に突っ込んで来るし、シルベスターとマリーも疑問符を浮かべて、アリシアは...お前、やっちまったなぁって顔してるぅ! ヤバいよヤバいよ! どうやって誤魔化そう!
「え、え~とぉ、ウチの両親が温泉好きでぇ~ 子供の頃に連れて来て貰ったみたいなぁ~」
「そうなんだ、家族想いの優しいご両親なんだね」
「そ、そうなの~」
良し、なんとか誤魔化せた! 危ない危ない! セ~フセ~フ! そりゃ確かにウチの両親はアタシに甘いけどさ。この世界は前世と違って誰でも気軽にバカンスへ行けるような世界観じゃないからね。だからアリシア、生暖かい目で見るのヤメロ。バカっぽい喋り方になったのは仕方無いんだ。
しばらく歩くとアタシ達の泊まるホテルが見えてきた。5階建てのおしゃれな南国風のホテルは、リゾート気分を否が応にも盛り上げてくれた。
「素敵なホテルね~! 三日掛けて来た甲斐があったわ~!」
「ミナミナっ! 見て見て! 隣がプールになってるよ!」
「ホントだぁ! チェックインしたらすぐ泳ぎに行こう!」
「行こう行こう!」
アタシ達は大ハシャギしながらロビーに入って、すぐ違和感を覚えた。
「あれ? 人が居ない?」
「ホントだ。変ね、リゾートシーズンなのに」
すると奥の方から笑い声と共に現れたのは、
「「 遅かったな(わね)」」
「殿下にシャロン様!? えっ? なんで?」
「ハハハッ! サプライズってヤツさ!」
「あなた達より一足早く着いて貸し切りにしたのよ~」
「貸し切りって...あ、だから他に誰も人が...でもなんでまた?」
「言ったろ! サプライズだって。ビックリさせたかったんだよ」
「確かに驚きましたけど...」
その為だけに貸し切りまでする? 貴族の金銭感覚やっぱおかしいって! だからアタシ達の予定を必ず報告しろって言ったのか。
「ここは我が一族で経営してるホテルだから貸し切るなんて簡単よ~」
すげぇな公爵家! リゾートにまで手ぇ出してんのかよ!
「頑張ってるお前達を労いたかったんだ。受け取ってくれや」
「私達も一緒に楽しみたかっただけなんだけどね」
「あ、ありがとうございます...」
まぁ、確かに。殿下とシャロン様が一緒だと貸し切りにするしかないのか。それとサプライズ演出とかそういう派手なこと、如何にもこの二人好きそうだもんなぁ。
「まずはチェックインして部屋に荷物を置いてこい」
「早速プールで泳ぎましょ」
「「「「「 は~い! 」」」」」
◇◇◇
アタシ達はそれぞれに割り当てられた部屋に荷物を置き、水着に着替えてプールに集合した。プールは驚いたことに前世でお馴染みの、所謂『流れるプール』だった。
水魔法と風魔法の魔石を使っての応用だそうで。改めてこの世界の魔法技術の高さを伺えた。そう言えば、今まであまり気にしたことなかったけど、上下水道も完備されてるもんね。
「いやぁ、凄いね~! 流れるプールだよ!」
アリシアも同じ思いだったようだ。前世でも流れるプールで遊んだ経験があるんだろう。
「アリシア! あれってウォータースライダーじゃない!?」
「ホントだ~! しかもショボいもんじゃなくて結構本格的じゃない!?」
これも流れるプールならでは、前世でもお馴染みのウォータースライダーは、高さ20mくらいある。右に左にクルクルと螺旋を描いている様は遊び心を擽るに十分だった。
早く昇って遊びたいと思っていた所に、着替えを終えた他のメンバー達も集まって来た。
「お待たせ!?...」
「遅くなってゴメン!?...」
エリオットとシルベスターがアタシ達を見て固まった。顔赤くして内股でモジモジし始めた。ハハ~ン、さてはアリシアとマリーの水着姿にやられちゃったな?
うんうん、お姉さん良く分かるよ~ 二人とも美少女だしスタイル抜群だもんね~ お年頃の男の子にとっちゃ眩しいよね~ いやぁ、青春やのぅ~
それにしてもエリオット、脱ぐと結構いいガタイしてるんだね。鍛えてるんだ。もっとヒョロっとしたイメージだったからちょっと意外。それとプールでもメガネは外さないんだね。
シルベスターはイメージ通りかな。色白でちょっとだけポッチャリしてる。それがいい! いやむしろそれでいい! ちなみに二人ともトランクスタイプの水着だね。
「おう、待たせたな!?...グハッ!」
「お待たせして申し訳ありません!?...ハゥッ!」
殿下とシャロン様、なんでいきなり鼻血噴いてんの!? 殿下はともかくとして、シャロン様は何故!? それはともかく、殿下はさすがに鍛えられた体してるね~ ちょっと日焼けした肌が眩しいよ。競泳用みたいな体にピッタリとフィットした水着も良く似合ってる。
シャロン様はもう圧巻の一言。殿下の瞳の色に合わせたコバルトブルーのビキニがはち切れんばかりの我が儘ボディーは、女のアタシから見ても生唾ものだ。こっちが鼻血出しそうなくらいだよ。
「あ、あの、私達ウォータースライダーで早速遊ぼうかと思ってるんですが、皆さんも如何?」
「いいわね~ 参りましょうか~」
シャロン様は乗ってきたが男性陣はと言うと、
「い、いや、俺達は後でいいわ。なぁ?」
「え、えぇ、まずは泳ぎましょう」
「そ、そうだね。楽しんできなよ」
全員が内股になってるね。うんうん、皆まで言うまい。青少年達よ、青春やのぅ~(二回目) ウォータースライダーの天辺まで螺旋階段を昇る。シャロン様に何故かガッチリとホールドされたまま。
「あの、シャロン様? そんなにくっ付かれると昇り難いんですけど...」
「あら、ゴメンなさ~い。私、高所恐怖症なんで高い所が苦手で~」
「だったら無理して昇らなくても…」
「ミナさんと一緒なら怖くないの~」
「あ、そうなんですか…」
絶対ウソだろ…この人に怖い物なんか無さそうだもん。後ろを着いて来るアリシアとマリーの顔が引き攣ってるよ。
「ふわぁ~! 絶景だね~!」
ウォータースライダーの天辺は壮観だった。温泉街の全てを見渡せる。遠くには煙を上げてる火山が見える。更に遠くには海だろうか湖だろうか水面が光っている。この景色を見られるなら、ここまで昇って来た甲斐があるってもんだよ。
「そろそろ滑りますか! 私、一番乗り!」
ワクワクしながらアタシが最初に滑ろうとウォータースライダーの台に手を掛けた時だった。
「私、怖いから、ミナさんと一緒に行きたいですわ~」
シャロン様が後ろから抱き着いて来た。
「えっ? ちょっと待っ!」
アタシはシャロン様に抱き締められた態勢のままウォータースライダーを滑り落ちて行く。
「ヒィィィッ! 怖い怖い怖い~!」
後頭部がシャロン様の胸に埋もれて視界がままならない。フワフワと安定しないから怖くて仕方無い。しかもドサクサに紛れてアタシの胸を触ってきやがる!
「ふにゃ~♪ 柔らかいですわ~♪」
この痴女っ! それが狙いか! アタシはグルグル回る視界に酔いそうになりながら毒突く。
ザバーン!
ウォータースライダーの出口にアタシとシャロン様が縺れるように転がり出た。
「プハァッ!」
水面に浮き上がったアタシの目の前に青い布がプカプカと。こ、これはまさか! 見るとシャロン様は鼻血を流しながら、恍惚の表情を浮かべたままプカプカ浮いてる。そのお胸には...
「ミナ~ 楽しかった~?」
男性陣が近付いて来る。マズい! これは見せる訳にはいかない!
「お前らっ! 見るなっ!」
アタシはシャロン様の前に両手を広げて立ち塞がる。
「「「 ブッホォォォッ! 」」」
ん? なんで男性陣が鼻血噴いてんの? 訝しむアタシの目の前に何やら白い布がプカプカと。慌てて胸元に目を落としたアタシは...
「ミギャャャァッ!」
見られた! 見られた! 見られた~! もうお嫁に行けない~!
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