♢♦︎♢♦︎
「おや、ギルドの方かい? わざわざこんな辺鄙な所までありがとね。
これはほんの気持ちさ、受け取ってちょうだい」
「あっ、ありがとうございます……!!」
お婆さんはシワが深く刻まれた手で巾着袋を俺に手渡してくれた。頭を軽く下げながら袋を受けってその袋の中身を確認する。袋の中には数枚の銀貨と袋の中詰められた色鮮やかな金平糖が入っていた。
「えっ!? こんな高価なものを頂いていいんですか!?」
「あいにく、私のような年寄りには使い道がないからねぇ……。
貴方と猫ちゃんで仲良く分け合って食べてね」
「ありがとにゃ、お婆ちゃん!!
是非ともそうさせていただくのにゃ」
「……本当にありがとうございます!!」
嬉しさとその申し訳なさの半分、再びお婆さんに向かって頭を下げる。お婆さんはそんな俺の初々しい反応がよほど気に入ったのか、シワが深く刻まれた顔でそっと俺達に微笑んでくれた。
お婆さんが俺達にくれた”金平糖”は世間一般的に、滅多に手に入れられることのできない食べ物として知られている。その見た目こそは角ばったお菓子をしているが、実をいうと、この”金平糖”という食べ物はポーションの一種なのだ。
遡ること数百年前。まだ人々に契約獣という概念が生まれたばかりの時代。人々はより生活に豊かさを求めて契約獣を手に入れようと世界各地を旅していた。
契約獣は魔物と人間が何らかの契約を結ぶことによって手に入れられる存在。魔物の姿は種類ごとに異なっていて全身が植物でできていたり、炎で包まれているものでさえ存在している。魔物というものは草原、海原、火山帯と様々な場所に存在しているため、それらに伴って彼らが遠出をする機会も増えていった。
しかし危険が伴ってこその遠出。人々は魔物に襲われたり、道中で発生する不幸で怪我をすることも多かった。そんな彼らにとって旅の必須品として瓶に入った傷を回復することのできるポーションは唯一のもので、旅人の必須品として常に持ち歩くのが当たり前だったのである。ところが瓶に入ったポーションはとても重く、道中で割れることもあったため、持ち運びが不便だった。
そこでコンペーン伯爵 (72)はあるアイデアを思いつく。ポーションを小さい固形状に固めることができれば、持ち運びが楽になるのではないかと。
たちまち彼は遠出をする人々の支持を得て巨万の富を得ることができたものの、そのレシピは彼しか知らなかった。
現存している”金平糖”はそんな彼が作ったものに複製魔法を掛けることによって作られたものだ。そもそもが複製魔法を使える人がほんのひと握りの数しかいないので、市場にはほとんど流通していない。
値段が高いのもそれがあってこそだ。
♢♦︎♢♦︎
「やっぱり、ドルドルの勘は正しかったのにゃ」
カドルサムは舌の上で金平糖をコロコロ転がしながら言う。腕を組んで胸を張る彼女の様子はえらく得意げだ。
「その……お前のこと疑って悪かったな、カドルサム」
「そんなに気にすることなんかじゃないにゃ!!
代わりっていったらアレだけど”カドルサムさま天才”っていったら許してやるのにゃ」
「……カドルサムさま天才 (棒読み)」
「そうにゃ、そうにゃ!!
今日からドルドルのことを迷い日を導く存在……、名付けて"ニャーナビ"って呼んでくれていいのにゃ!!」
「ーー絶対に呼びたくない」
何かと物足りないような表情かつ上目使いで俺のことのじっと見つめてくるカドルサム。
いや、そんなに見つめられても呼ぶ気なんてこれっぽちもないからな!?
「っにしても喉が乾いてきたのにゃ……、
ひたすらに歩き続けて疲れたのもあってなんだかにゃー」
「(俺の足や頭に引っついていた感じがするのは俺の気のせいなのか)」
「おっ、あんなところにお茶屋さんがあるのにゃ!!
せっかくだから休憩も兼ねてカナタのおごりってことで寄って行くのにゃ」
「え……? 俺のおごり……?」
♢♦︎♢♦︎
読み終わったら、ポイントを付けましょう!