【完結】慰霊の旅路~対峙編~

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笠置観光ホテル(京都・相楽郡笠置町)

公開日時: 2021年12月18日(土) 01:15
更新日時: 2021年12月19日(日) 23:17
文字数:10,856

10月11日から13日 三日間の連休の申請をし終えた侑斗は、引き続き番組プロデューサーの放浪中ちっちさんと収録の打ち合わせを日程が決まってからほぼ毎日念入りにメールでやり取りを行うようになっていた。


「放浪中ちっちさんって凄いな。俺はまだ行ったことがないけど、北海道の心霊スポットにも関西に住んでいらっしゃるのに足げなく通っていらっしゃるというのも凄いなあ。北海道に行くだけでも交通費がかかるのに、それだけでなく沖縄や海外に至るまで、さぞ色んな所へ飛行機へ行ったりしたりして、Twitterとか改めて見てみると改めて凄いな。流石に俺には遠くてもわざわざ足を運びたいなんて思えない。そっかだから放浪中ってわけか。」


侑斗が昼休みの合間に休憩室まで一人黙々と牛丼を食べていた時にふと呟き始めると、星弥の言っていたことがふと頭をよぎった。


「正式に引き受けるのは良いけど、でも兄ちゃんが言っていたあの”悪魔に近い”というのが気がかりだ。出来る限り応援の霊能者を呼ぶことが可能化も含めて今後さらに放浪中ちっちさんに聞かなければいけないことはあるな。」


侑斗はそう考えると、放浪中ちっちさんに自分なりのお願いを頼むことにした。


「今回の笠置観光ホテルの除霊対象となる女性の御霊はかなり手強いです。僕一人では手に負えないことは確実です。そこで僕のプロジェクトに賛同していただける女性の霊能者を同伴するような形で収録を行いたいのですが宜しいですか?」


侑斗が放浪中ちっちさんに返事を送ると、「あっ、そういえば応援を呼ぶ呼ぶと言いながら結局誰一人にも声をかけていない。急ピッチで手伝ってくれる人を探さなくては!」ということになり、LINEの友達一覧から知っているボランティアの女性霊能力者の一人一人ダメもとで声をかけてみることにした。


その間に放浪中ちっちさんから連絡が入ってきた。


「良いですよ。ただし番組の予算の都合上としては侑斗さんを含む霊能者の数は2人までに抑えてください。あと、関西ローカルで放映されているオカルト系番組の”怖い話で夜更かし”で8夜連続で実在する心霊スポットにてやらせ要素無しのガチで心霊特集を行うことになっていて、侑斗さんに笠置観光ホテル以外の場所にも同伴をして頂きたいです。収録を行うまでに今のところ番組ディレクターとの打ち合わせで是非とも侑斗さんに検証してほしいスポットとして正式に決まっているのが奈良県の天理ダム、和歌山県の三段壁、三重県の白山大橋、愛知県の伊世賀美隧道(旧伊勢神トンネル)、静岡県の錦ヶ浦、神奈川県の打越橋、東京都の旧小峰トンネルになります。勿論3日間にかけて収録を行いますので宿泊代や交通費の負担はこちらでさせて頂きたいと思っていますので前向きなご返事を宜しくお願いします。」


それを見た侑斗は思わず頭を抱えた。


「休みの申請が通ったのにそのスケジュールじゃ3日間みっちり仕事じゃないか。」


思わず頭を抱え込むと同時に「はあ~。ああ~。仕方ない。引き受けたから最後まで霊能者としての仕事をやり通すしかない。」とため息をつきながら天を仰ぐと、仕方なく放浪中ちっちさんへの返事には「了解しました。同伴します。」と答えると同時に以前お世話になったある女性霊能者と都合が合わないか連絡を取ることにした。


LINEのメッセージで侑斗は今抱えている仕事の内容の案件を赤裸々に相談する内容を送信したところ、返事を見ると同時に侑斗にすぐに電話がかかってきた。「あっ、ご無沙汰しています。侑斗です。芦原さんお元気ですか。あっ、はいこちらは忙しいながら霊能者としての活動を引き続き行っています。」と芦原に対して一通りの挨拶を終えたところで、今回の依頼について芦原に説明をし始めた。


「まあいいわ。前日の金曜日は里帰りする人達でいっぱいになって早帰りが出来るだろうから関西に来ようと思ったら行ける。予定も入っていなかったからちょうど心霊検証の依頼が入った心霊スポット巡りをしようと計画していたけど、侑斗君がわたしに協力を求めているのなら、力になってあげる。」


芦原の思いがけない言葉に侑斗は申し訳ない気持ちでつい小声になって「遠いのにわざわざ。何だか申し訳ないです。僕だけじゃ相手が強すぎるというのが兄ちゃんの見解なんですけどでもその兄ちゃんも危険を感じたのか同伴してくれないんです。僕のほかには女性タレントでオカルト研究家のぱうちゅさんと一緒に同行するというのもあるので、番組の予算上としては霊能者は二人までに抑えてもらいたいと言われまして、致し方なく信頼が出来る芦原さんにSOSをお願いするしかないと思いました。」


侑斗が悩んでいた胸の内を明かすと、芦原は侑斗に指摘をした。


「今回の除霊の対象となる4階と屋上に現れる自殺者の女性の御霊のことだけど現に取り憑いたであろう生者に禍を齎していることから危険性は極めて高い。過去への柵も相当根強く、復讐で果たしたいというのだろうか、そういった考えのほうが非常に強く悪質だわ。御祓いはそう簡単なことじゃない。わたしも出来る限りのことはするがもっともこういうことは星弥君のほうが強いんじゃないかと思うんだけどね。強い意志表明をはっきりさせると同時に、負けないという気持ちを前面に打ち出さないと少なくともこれは除霊という名の闘いになる。負けたら終わりよ。」


芦原がそう語ると、侑斗は「仰る通りだと思います。覚悟はできています。3日間お世話になりますが何卒宜しくお願いします。」と語り終えると、芦原は笑いながら「こちらこそ仕事を与えてくれてありがとう。宜しくね。」と言って電話を切った。


芦原との電話を切り終えた侑斗はすぐさま放浪中ちっちさんに同伴してくれる霊能者が決まったことを報告すると、侑斗と芦原の2人体制で正式に行うことが決まった。


そして来る、2025年10月11日土曜日がやってきた。


当日は朝の8時には出発をした侑斗は福岡空港から出る関西国際空港行きの便に乗って移動すると、関西国際空港で待ち合わせをしていた芦原と共に、TVプロデューサーの放浪中ちっちさんと待ち合わせをしていた難波駅へと向かって移動し始めた。二人が難波駅の待ち合わせ場所に到着すると、早速放浪中ちっちさんとアシスタントで同行してくれるぱうちゅさんと初めて顔を合わせたところで一同は目的地である旧笠置観光ホテルへと向けて移動し始めた。


番組ディレクターが運転するレンタカーでの移動中、侑斗は「芦原さんも、ぱうちゅさんも、皆さん大丈夫ですか?」と聞き始めると、芦原は「ええ。勿論大丈夫に決まっているじゃない。」と答えると、続けてぱうちゅも「勿論です!今回星弥さんがいないというのが残念なところなんですけど、でも侑斗さんもそれなりの技術や経験を培ってきていると伺っていますので、何かあっても安心できます!」と満面の笑みで答えると、侑斗は「そうですね。何事もなく無事に祓い終えたらあとは建物を解体するのみですね。」と答えるにとどまった。


侑斗の心中はずっと気掛かりでしょうがなかった。


撮影クルー一同は、笠置観光ホテルの近くにある弁財天にお参りを済ませたところで、目的地である笠置観光ホテルの前までやってくると、レンタカーを安全に停車が出来る場所に駐車を行ってから、立ち入り許可を得ることが出来た笠置観光ホテルの廃墟の中へと入っていこうとしたその瞬間だった。


芦原が「待って。ここから先はそれぞれが身を護るためのものを身に着けていないと本当に危険が待ち受ける。」と語ると、侑斗は同行するアシスタントのぱうちゅ、プロデューサーの放浪中ちっち、ディレクター、アシスタントディレクター、カメラマン、サブカメラマンの6名に対して邪気を祓うための御札を手渡しすると、続けて芦原から邪気から身を護るおまじないがかかっているパワーストーンのブレスレットを配り始めた。それを不思議そうに見つめたぱうちゅは「これがないとどういうことになるんですか?」と聞き始めると芦原は答えた。


「わたしたちがこれから対峙する女性の御霊は極めて邪悪。身を護るための術がないと間違いなく憑かれ禍を齎し命の危機を及ぼしかねないだろう。そうならないためにも、身を護るための手段に建物に入る前から身に着けてほしい。」


芦原が淡々とした口調で語ると、ぱうちゅは「そんなにあの映し出されていた女性の霊が危険だってことですか?」とさらに突っ込んだ内容をし始めると、侑斗は「そういうことです。あれだけ、映し出された女性の顔がまるで生きているかの如く映し出されているということは強い負のパワーを持っていることに間違いはないだろう。映し出されたシーンを再確認を行うために何度か検証を行ったが、あれはやはりやらせでも何でもなく女性があの芸人の男性の背後に這いつくばるような形で乗っかかっているんだ。よっぽど男性に対して強い恨みを抱いているのは間違いない。現場には放浪中ちっちさんやぱうちゅさん、そして僕の除霊のお手伝いをして頂ける芦原さん以外は皆男性だ。男性は要警戒だ。何か少しでも背後に誰かが乗っかかってきたような背中に重みが走ったや耳元で呼吸の音が段々と近付いてきたなど、多少の違和感を感じたらすぐにでも報告をしてほしい。すぐその場で除霊を行う。」と説明したところで、ぱうちゅが改めて「えっ!?嘘!?そんなに怖いところなの!?だって他にもオーナーが焼身自殺をしたことでも知られていて、このホテル内には顔が焼け爛れたオーナーの御霊が現れる、その他にも老婆の霊が出るというのもあるけど、女性だけが危険と考えるのは早合点じゃないんですか?」と聞き始めると、侑斗は答えた。


「予めここに来るまでに投稿された画像などを霊視した結果を伝えるが、残念ながらオーナーはこのホテルで自殺などしていない。どこの心霊ホテルにもよくある話で、オーナーが経営不振を理由に自殺したとかって話はここに限ったものではない。全国津々浦々どこの心霊ホテルとされる理由の一つとして必ずあげられる。」


侑斗はそう語ると、「ここには4階から屋上にかけて現れる女性の負のエネルギーがあまりにも強力すぎる、女性の御霊の存在がまるで磁石のような役割を果たしてその他の浮遊霊を引き寄せてしまうほどの強い力を持っている。ここのホテルの芯の怖さはオーナーの霊などではなく、女性の御霊そのものなんだ。ホテルの解体工事が途中で終わったのは何も霊障に見舞われて中断を余儀なくされたというわけでもなさそうだ。本当に解体工事が途中で終わってしまっている感じが拭えないあたりからも、これは霊障によるものではなく解体費用が思っていた以上にかかったために中断した物件の一つなのだろう。地上5階地下1階のRC構造となっているために、思っていた以上の解体費用の金額を叩き出され、頓挫せざるを得なくなった。そんなところだろうな。場所も場所でこの土地を使ってもう一度再利用したいと名乗り出る企業も無かったために今日まで残ってしまったのだろう。トンネル脇の廃道に面しているというだけでも場所が悪すぎる。」と語り始めると、侑斗と芦原の解説をじっくりと聞いて居た放浪中ちっちが声を上げた。


「ここでの脅威と言うのはオーナーの霊ではなく女性の霊ってことね。オーナーが現れない根拠はあるの?」


聞かれた内容に対して芦原は答えた。


「そうです。ホテルの廃業手続きを行うのも、赤字続きになった際に生じた借金なども全てはオーナーがしなければならない。経営不振を理由に自殺をすることは家族への負担も考えたら有り得ない。恐らくは、オーナーは借金が返せる目途が立たないために自己破産の手続きを行いホテルの跡地等も含めた個人的財産となるものは全て譲渡したうえで手放したはずだろうから、思い入れのあるホテルだったからこそこの地で自ら命を絶ってということを追い詰められた人間ならではの行動とも思いつく人間がいるんだろうけど土地の値打ちが下がるようなことをするとは極めて考えにくい。自殺をしたとしても他の場所の可能性が極めて高いだろう。老婆の目撃例もあったが、ここは山が近く、また水場でもある川が近くに流れていることから霊が集まりやすい環境に間違いはないだろう。現れる可能性はあるが、ここは何度も繰り返し言うが、この老婆の霊も4階と屋上に現れる女性の霊の圧倒的エネルギーに導かれてやってきただけにすぎないのかもしれない。」


芦原がそう語ると、男性ディレクターが「先ずは入って見て、一度見学をしてみましょう。ちっちさんも、僕達も皆魔除けの御札とブレスレットを身に着けていますからね。」と語ったところで、一同はホテルの中へと入って検証を行い始めた。ホテルのフロントだった場所を抜けた先に、火事があった柱が焼け焦げた痕跡があったことに侑斗が気付くと、かつてこのフロアで何があってこのようなことに至ったのかが気になってすぐその場で透視を行い始めた。


「この火事は、ホテルの営業中のものではない。潰れてからだ。地元の不良の若者たちが、ふざけて遊んでいた時に火の不始末が原因による火災が生じたんだろう。死者などはいない、放火で逮捕された、それぐらいだろうか。」


侑斗が語り始めると、誰もいないはずの奥のフロアからふと誰かがいるような人の気配を強く感じた侑斗は、この目で確認するために人の気配を感じた奥のスペースへと足を運ぶと、誰もいないはずなのに物音がした。


「ガシャンッ!」


誰かが割れた窓ガラスを踏みつけたような音だったのだが、侑斗はすぐさま音のする方向へと振り返ってみるがやはり誰もいなかった。同じく人の気配を感じた芦原が侑斗に近づくと耳元で囁いた。


「浮遊霊による仕業の可能性が高いわ。恐らく上層階で眠る女性の御霊の下っ端ね。成仏をしようとしてこの山を登ろうとした際に、女性の御霊が放つパワーの強大さに強く引き寄せられてしまうと逃げ出す術がないまま、このホテルに今も彷徨っているのだろう。音を出すことによって我々に存在を気付いてほしいということね。」


芦原が語り終えた後、一同は1階から2階へと上がることが出来る階段を上り、先ずは2階の各部屋を確認し見回ったところで、侑斗と芦原、アシスタントのぱうちゅも含めて異常が無いことを分かったうえで、3階へと上がり始めるがやはりここも同じで、ただただ地元の不良グループによる仕業だろうか、フロア内の窓ガラスは全て割れ、壁という壁は全て鈍器のようなもので壊されている様子が地元の人々にとってこの上なく迷惑だったことを改めて痛感させられるものだった。


3階まで全てのフロアを確認し終えたぱうちゅが「ここまで荒らされていたら本当に心霊廃墟と言われているところの大方は残されたら迷惑なところばかりじゃないんですか?」と侑斗に対して聞き始めると、「そりゃそうだよ。怖いもの見たさで不良グループのたまり場にもなりかねず、潰さぬまま建物の劣化を待っていたら事件が起こり得る危険性だって高い。油井グランドホテルはまさにそれに該当する、残していいことなど何もない。観光地なら廃墟があるだけで景観破壊の問題になるからね。」と語ると、ぱうちゅは「そうですよね。やはり廃業したら心霊廃墟と言われる前に壊すのが望ましいということですよね。」と頷きながら語ると、放浪中ちっちが侑斗と芦原に対して声をかけると、4階と屋上でも明るい時間帯のうちに検証を行いたい旨を伝えたところで、一同は女性の霊が現れるとされる4階へと上がり始めた。


上がり始めたと同時に、芦原が何かに気付いた。


「心霊特集で映し出された首から下の部分がない瞬きをした女性の顔が写っていたのはあの部屋だろうか?強烈な負のパワーを感じる。」


芦原がそう語ると、侑斗も同じことを考えていた。


「これは、俺が今まで感じてきた中でも、思い出す男鹿プリンスホテルの自殺した女性の霊をね。あれを彷彿させる。女性の負のパワーの強さに関係のない浮遊霊達が引き寄せられ、あのホテルで事故死した男性も成仏しようとしていたが女性の御霊の強さに最終的にはマグネットに引き寄せられるような感じで浴場内を彷徨っていた。」


侑斗がそう語ると、芦原は「その強いパワーを持つ女性の御霊と対峙をしたのって確か星弥君だったよね?」と侑斗に聞くと、侑斗は「ああ。そうだ。俺と烏藤さんは女性の御霊の下っ端に過ぎない御霊の供養をしただけに過ぎない。」と語ると、侑斗は「これは今まで対峙してきたどの御霊よりも圧倒的に強い何かを感じる。今は近づきすぎず屋上へと移動しよう。」と切り出したところで、一同は全部屋を見回ることを諦めて屋上へと上り始めると、そこでも確認を行った後に上のフロアに繋がる階段を上り始めた。


「ポンプ室に繋がっているのか、水浸しでまるでプールのような状態。この先は行けそうにないな。」と侑斗が切り出すと、一同はいったん引き返そうということになって入ってきた道を戻ろうとしたが、先程から自分達以外の他の誰かが執拗について来ているような気がしてならず、放浪中ちっちが「わたしたちの他に何かが憑いて来ているような気がする。これ以上の検証は危険だ。一度ホテルの外に出よう。」と切り出したところで、一同は屋上を後にして1階へと下り始めた。そしていったん外に出た際に、改めて芦原と侑斗は噂される女性がぱうちゅや放浪中ちっち含む撮影クルーのスタッフ達に憑いて来ていないかどうかを確かめるために霊視検証を行い始めた。


芦原が「見たところ憑いていない。危険だと察知したときに勘づかれることなく逃げたから難を逃れたかもしれない。」と語ると、放浪中ちっちは芦原に対して「19時からの収録では視聴者が見たがるだろう4階と屋上の撮影は避けられないが、危ないと分かれば逃げ出すようなことはやめてほしい。わたしたちだって命がけでこの仕事を引き受けているんですからね。」と語ると芦原は「わかっています。引き受けた以上最後までミッションをクリアさせると同時に皆様方の身の安全は保障できるようにします。」と語り一同は車を停車させた場所まで戻り始めると、それぞれが19時になるまでゆっくりと談笑し始めた。そして収録時間の19時を迎えるまでに再度笠置観光ホテルの前まで集まり始めると、スタンバイがOKになったところで、アシスタントのぱうちゅのリポートの元で侑斗と芦原が並ぶような形でカメラの前に霊能力者として現れると遠くのほうから「おーい!おーい!」と呼びかける声が聞こえてきた。


「うん?誰だろう?」


侑斗が気になって声が聞こえる方向へと駆けつけると、星弥がいた。


「えっ!?嘘!?兄ちゃんまさか来てくれるって思わなかった。でもどうして来てくれたんだ!?」


侑斗が星弥に語ると星弥は「霊能者二人だけでは危険すぎる。プロデューサーの元に連れて行ってほしい。」と話すと侑斗は「分かった。」と即答し、星弥をプロデューサーの放浪中ちっちに紹介をすると星弥は挨拶をし終えたと同時にある事を打診した。「御霊達の巣窟と言ってもいい場所です。僕はTVには一切映らない代わりに芦原と侑斗の二人に何か起こった際の応援として同伴をさせて頂けませんか?」と交渉し始めると、放浪中ちっちは深く考えた末に「わかった。同伴することを許そう。」と答えたところで、アシスタントのぱうちゅと侑斗と芦原、スタッフの中に星弥がいるような形で、改めて心霊特集のVTRの収録が行われ始めた。


一同は危険だと察知して全フロアを見ることなく屋上へと移った4階へと上がり始めると、懐中電灯の灯りを頼りに散策をし始めると、芦原が再び「強い何かがいる。」と考えた部屋だった場所へと辿り着くと、侑斗に「ここを探ってみよう。」と切り出すと侑斗は「そうしましょう。」と語ると、それを聞いたぱうちゅは「えっ!?出るの!?出るの!?やだー!怖い~!」と言い始めると、侑斗はぱうちゅに「大丈夫です。僕達がついています。」と力強く話すと、それを聞いたぱうちゅは安心したのだろうか、「わかりました。」と語ると先に進み始めていく。


しかし足取りはびっくりするほどゆっくりとした歩調になっていくと異変に気付いた侑斗は「どうしたんですか?」と聞き始めると、風呂場だっただろう場所に辿り着いたぱうちゅに声をかけると「何だろう。入れば入っていくほど異常に寒いんです。寒すぎるんです。特にここは寒いんです。」と語ると、侑斗は辺りを警戒深く見ると同時に霊視を行い始めた。


霊視を行いながら侑斗は「芦原さん。囲まれましたね。」と語ると、芦原は「ええそうみたいね。ただ、わたしたちの前に現れたのはボス格の女の御霊の下っ端にも過ぎない、浮遊霊の一種に過ぎないのだろう。」と語ると、同行していたアシスタントディレクターが思わず声を上げた。


「何だろう、さっきから首の後ろのほうから誰か呼吸するような、はあ、はあ、って声が聞こえてくる。段々と大きくなる。これは一体何なんだ。」


アシスタントディレクターが話すと、近くにいた星弥がその場で霊視を行うとそこにあの写真や映像で映し出されたセミロングの女性の霊が、アシスタントディレクターに這いつくばるような形で背中にしがみついていた。


その様子を見た星弥は除霊のための御経を唱えながら持っていた清めの水を女性に対して振りかけると、女性の御霊は怒りを露わにしてさらに抵抗を示そうとして、アシスタントディレクターに取り憑こうとしたため、星弥は「全く往生際の悪い女だな!芦原!二人で緊急除霊を行う。侑斗はアシスタントと二人で屋上に行って女が移動しないかどうかも含め検証を引き続き行ってほしい。アシスタントディレクターは俺達の手で何とかする。このまま撮影は続行してほしい。」と話すと侑斗は「わかった!そうする。」と語りそれを聞いた放浪中ちっちは星弥に「当番組はやらせではないことを証明するためにも御祓いのシーンを撮影したい。」と伝えると星弥は「今から俺達が行う行為は人によっては今後トラウマにもなりかねないシーンになる。撮影は行わず侑斗達と同伴して屋上まで撮影を続けてください。」と語り女の霊に取り憑かれたアシスタントディレクターと星弥と芦原がその場に残る形で緊急除霊が行われた。


侑斗とぱうちゅ、そして放浪中ちっちの一同が取り憑かれたアシスタントディレクターのことが気がかりだったが、先へ進んでくれとお願いされた以上、突き進むしかない。屋上へと向かう道中にぱうちゅは「大丈夫なんですかね?」と侑斗に語ると侑斗は「大丈夫に決まっている。ただあの場にいた女性の御霊があまりにも強力すぎる。屋上に行けって言ったのは、まだまだこの世に居留まりたい女の怨念そのものだろうな。廃墟になって吹き抜けになっていることに気付かず転落した人の幽霊ではないことは確実だ。」と語ったところで、一同は屋上へ上がり始めるとそのまま機械室の中へ吸い込まれるようにして入っていくと、侑斗の背後にぱうちゅや他のスタッフではない、何者かの強い気配を感じすぐ後ろを振り返るとアシスタントディレクターに憑いていた女の御霊が屋上に移動していた。


「兄達の御祓いを潜り抜けて逃げて俺のところへ近づこうとしたんですね。あなたを見ていてつくづく哀れだと思うと同時に気掛かりに思うことはあります。それはあたが執拗なほどに過去に執着しているからです。あなたは本当はいち女性としてごくごく当たり前の幸せを掴みたかったのでしょうが、付き合っていた男性に裏切られたということにショックを受けたと同時に将来を悲観視されたあなたはこのホテルで自らの命を絶ち、亡くなられた後も居座りついたんですね。しかし衝動的になって死の道を選んだために死者しか入れぬ闇の世界に行ったことで益々独りぼっちの寂しさだけが募り、心の闇を紛らわすためにもこの世へ戻りたいと思ったんですね。見えぬことを良い理由として肝試しに訪れた若者をターゲットに禍を齎したんですね。」


侑斗が背後にいる女性に優しい口調で語り掛けるとこう告げた。


「残念ながら、僕はあなたの新しい恋人にはなりません。しかしあなたには違う、別の人の人生として人生をやり直すことはできます。この世に対する柵は捨てて天国へと昇天して輪廻転生をされたほうがいい、このホテルもいずれ解体される運命にあります。いずれはあなたがいるこの場も解体工事が順調に進めば無くなります。それでもなお、あなたは居座り続けたいというのですか?」


侑斗がそう語るとその場で除霊のための御経を読み始めると、女性は御経を聞きたくないとばかりに他の男性スタッフに取り憑こうとした際に、4階から芦原と星弥が屋上へと駆けつけてきた。


「侑斗!大丈夫か!!」


星弥が侑斗に語り掛けようとした際に、侑斗の側から離れた女性の御霊がカメラマンの近くに近づこうとしたためすぐさま3人で女性の御霊の元へと近付き包囲網を作ると同時に芦原が女性の御霊を囲むようにして清めの塩を円状にさっと撒くと、身動きが取れなくなった女性の御霊は3人が読み上げる除霊の御経と共に逃げ出せぬと観念したのだろうか、「ギャアアアア」という悲鳴と共に天高く叫び声をあげると闇の世界に吸い込まれるような形で女性の御霊は消えていなくなった。


そして今まで成仏に成仏できなかった御霊達も、ボス格の女性がいなくなったことが分かってやっと成仏が出来ると一安心をしたのだろうか、次から次へとホテル内を彷徨っていた御霊達は黄色い淡い光となって消えていくのだった。


その様子は設置しておいた定点カメラにも映し出され、3人の御祓いの様子もしっかりとVTRに抑えることが出来て、改めて笠置観光ホテルで彷徨う御霊達の供養を行うことに成功したのだった。除霊を行ってから侑斗は忙しいのに来てくれた星弥に「ありがとう。まさか来てくれるとは思ってもいなかった。」と話すと星弥は「大丈夫。侑斗もよく闘ってくれた。女性の御霊は侑斗の説得に観念しただろう。禍を齎した以上、女性の御霊に待ち受けているのは地獄だからね。いずれにしろこの世に見切りをつけていたらこんなことにはならなかった。」と語ると芦原は「そうね。そうだったかもしれないが、でもあの女の人は違ったわ。女性同士だから分かった。怒っているようにも見えたあの表情には悲しさが滲み出ていた。死ぬまでに相談相手が必要だったのだろう、女性はそれを訴えていたに過ぎない。」と答えた。


除霊を終えた一同は、笠置観光ホテルを後にし、そして急遽来てくれた星弥ともお別れをしたところで、次の目的地の天理ダムに向かうまでに侑斗と芦原がその場で御祓いの作業を行ったところで、車を出発させることにした。


時刻は22時を過ぎていた。

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