【完結】慰霊の旅路~対峙編~

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蟻尾山(佐賀・鹿島市)

公開日時: 2022年1月6日(木) 23:19
文字数:9,530

原城跡を後にした侑斗と秋庭は次に向かう鹿島市の蟻尾山へと向けて出発していた。


「ねえ。秋庭さん。ここから蟻尾山だったら2時間もかからないから途中でコンビニに立ち寄って何か買いませんか?お腹ペコペコですよ~!」


助手席に座る侑斗が運転中の秋庭にそう語ると、秋庭は「そうだな。佐賀に入ったら途中立ち寄れそうなコンビニで何か買って食べようか。」と切り出したところで、侑斗は「沖縄まであと少しですね~!コンビニに立ち寄ったら原城跡で秋庭さんが撮影した写真の心霊検証を行いましょうか。まだ市長に報告はしていませんよね。」と確認すると、秋庭は「ああ。勿論。さっき饗庭君が逆鱗に触れるって言っていたけど、俺が他の市長に俺が御祓いを済ませているから大丈夫だという安堵感から写真を添付してしまって、それを知った市長の逆鱗に触れているから、まず市長に報告するまでに饗庭君には見せたいと思っている。市役所に帰ってきたら、反省文を書かなければいけないという新たな仕事が出来てしまったよ。まあ自業自得なんだけどね。」と言って声のトーンが急が落ちていくと、侑斗は「写真の御祓いと、僕が常々行っている御祓いは意味が違うんです。僕が秋庭さんや案内役をしてくれた方に行う御祓いは御霊達の禍から身を護るための御祓いであって、写真に写り込んだ御霊の御祓いはやることが全く異なりますからね。その点の知識を僕が前もって伝えておけば良かったんですけど、僕がしっかりと説明していなかったのが悪かったです。申し訳ないです。反省文、僕も市役所に戻ってきたら一緒に手伝いますよ。」と秋庭に気遣うと、秋庭は「いや。これは俺の判断ミスだから、饗庭君は悪くない。俺が間違ったことをしたんだ。写真は一応、出てくるであろう天草四郎の銅像から、本丸跡や原城跡、かつて城があった場所などを隈なく撮影をした。今はまだ画像を見ていないんだけど、立ち寄った際に見ようか。蟻尾山への心霊検証は14時から駐車場で待ち合わせをしているからゆっくりとしている時間はないけどね。」と話すと侑斗は「御祓いはさっと終わらせることが出来ます。待ち合わせ時間に間に合わせるようにさっと行動しましょう。」と答えた。


秋庭と侑斗が乗る車は佐賀県内に入ると鹿島市内にまで辿り着いたときに、蟻尾山近くのコンビニに立ち寄ってパンやスイーツなどをまとめて購入したところでさっと車の中に戻り、食べ始めた。


侑斗が秋庭に「原城跡の写真がどうだったか見せてもらっていいですか?」とクロワッサンを食べながら言い始めると、秋庭が焼きそばパンを片手に「ああ。いいよ。」と話すと、鞄の中からカメラを侑斗に渡すと、侑斗はもぐもぐしながら撮影した写真を見始めた。映し出された画像を一枚一枚確認していくと、侑斗は「この木の裏、誰か僕達の行動を見張る人がいたんですか?」と訊ねると、秋庭は「いや、その木だったら裏に誰もいなかった。ってかそんなに木の幹が細かったら、それだけうまく書くり込めるってよっぽどスリムな人間だったとしても出来ないと思うけどな。何だろうな。心当たりがない。」と答えると、侑斗は「一揆軍の兵士の御霊の可能性がありますね。位置的に天草四郎の像を向いていますから、恐らく死んでもなお天草四郎の御霊が見たくて蔭からこっそりと見ている感じですよ。若いのに人望があって周りの大人を引っ張って行けるのですから、改めて凄いと思いましたよ。残念ながら僕は天草四郎の御霊には会えませんでしたけどね。凄く会いたかったのに会いたかったよ~。はあ。ため息してもどうしようもないので、念のために御祓いはしましょう。あと丸田市長には”原城跡には天草四郎の幽霊に会いたがる幽霊が居ました!”って言っても良いと思いますよ。普通に考えたら、幽霊も会いたい幽霊がいるのか!ってなりますからね。でもそれは逝く世界が違っていたら同じ時代に死んだとしても、死後の世界で出会えるかとなると決して違うんでしょうね。」と語った後に、写真の御祓いを行い始めるのだった。あっという間に写真の御祓いを終えたところで侑斗は秋庭に「写真の御祓いは完了したので、市長に報告して良いと思います。」と笑顔で語ると、秋庭は「ありがとう。」と返事をして、時間も約束時間の14時に迫ってきているという事もあって、急いで蟻尾山の駐車場へと向かい始めた。


何とか13時55分に約束指定場所の駐車場に到着すると、秋庭と侑斗の姿を見てA4サイズの画用紙を持って”ようこそ!鹿島市へ!”と掲げてあるのを見て、侑斗は思わず秋庭に「あれ、俺見た事があるよ!鹿島市役所の関係者じゃない!」と秋庭に対して言い始めると、秋庭は「あ~確かにテレビで見た事があるな。」と語り、プラカードを掲げる女性の車の近くにまでやってくると、そこで車を駐車させてから女性の近くへと急ぎ足で駆けつけた。


侑斗が思わず「どうも、お久しぶりです。あのときは”禁断の地へようこそ”以来でしたね。番組は色んな事故があって終わっちゃったんですけど、アリスちゃんが変わらなくて安心しました。」と話すと笑顔で握手すると、「ゆーたんも相変わらずだね。忙しくあっちこっち回っているみたいで、また星弥君の”呪い殺された”談が再浮上してもおかしくない勢いではあるけどね。」と話すと侑斗は苦笑いしながら「兄はボランティア業よりも本業のほうが忙しいですからね。」と語った。侑斗は秋庭に「テレビで見ているかもしれないけど、鹿島市出身で鹿島市の観光大使を務めるタレントで佐賀怪談の語り部をしている樫木アリスちゃん。俺の隣にいるのは小城市役所広報課の秋庭さん。宜しくね。」と二人の自己紹介をすると、秋庭と樫木は照れ臭そうにしながら「宜しくお願いします。」と語り、挨拶を交わした。


樫木が秋庭と侑斗に「ここで長々とお話をしていてはあれなので、今から蟻尾山へと上ってそこでわたしが佐賀怪談の語り部として知り尽くしている蟻尾山の怪談話についてお話をしようと思いますので、じっくりと聞いてくださいね。」と江男鹿で話し始めると、秋庭は「そうですね。蟻尾山への道案内をお願いします。」と樫木にお願いをしたところで、三人は駐車場を後にして、蟻尾山の登山口へと向けて歩いて移動し始めた。そして登山口に入るための入り口に到着したところで、樫木が「これから先は登山ルートから蟻尾山の山頂を目指す形になります。ここから山頂までの道のりが長いんです。日ごろの運動不足にはいいかもしれませんね!」と説明をしたところで秋庭と侑斗が口を揃えて「はーい。」と返事をしたところで、三人は登山を始めることになった。樫木を先頭に歩ていくが、侑斗は秋庭に思わず「俺も、秋庭さんも、お互い大学は山岳部在籍でボルダリングの経験があるって言うのにね、トホホ。」と嘆いてしまうと、秋庭は「まあ知らなかったらしょうがない。」と話したところで後ろの二人を心配そうに見始めた樫木が蟻尾山の怪談話を語り始めた。


「蟻尾山で言われる理由の一つとして挙げられるのは、首吊り自殺の名所だからです。よく言われているのが、たまに木の根元に花束が置かれていたり、のこぎりのようなもので枝を切った痕跡があって恐らくそこが首吊り自殺を図った場所ではないかというものです。山の中を歩いていると苦しそうな呻き声が聞こえてくる、誰かの気配を感じる、稀に肩をポンポンと叩かれ振り返るも誰もいない、人魂らしきゆらゆらと彷徨う光を見たという人もいます。規模は小さいのですが、あるオカルト系のサイトでは蟻尾山のことを”佐賀の樹海”と称する声もあるんです。小城市内にも素晴らしい、わたし個人的には滝行に打たれた末に凍死してしまったという子供の霊や、血まみれの女性が彷徨っているという清水の滝は、佐賀怪談師として非常によく夏の怪談のイベント時の際にはお話をさせて頂いています。心霊観光地として蟻尾山も認められた暁には、清水の滝に負けぬようにわたしも鹿島市の観光大使として頑張ってアピールをしたいと思いますので、宜しくお願いしますね~!あんな呪われた、”自殺の名所”とも称される清水の滝と首吊り自殺の名所とされる”蟻尾山”、どっちが怖いと感じるのか、負けられない戦いは心霊観光地のキャンペーンが始まれば、激しい火蓋が切って落とされることになりますよ。あっでもそんなことを言ってしまえば、虹の松原や七ツ釜や観音の滝や厳木ダムといった多くの心霊スポットを抱える唐津市が黙っていないと思いますけどね。嬉野市の轟の滝も捨てがたいところがありますね。」


樫木が蟻尾山で伝わっている恐怖の話をすると、侑斗はハハハと笑いながら「そんな話じゃあ佐賀の怪談話としてはちっとも怖くないな!」と言って笑い始めると、樫木は悔しそうな表情で侑斗のほうをじっと見つめると「今さっきのは序の口ですよ。本当に怖がらせようと思う話のネタならいくらでもあるんですからね!」と話すと、本当に怖い蟻尾山に纏わる実話会談を話し始めた。


「わたしがこの話を聞いたのは、わたしが佐賀における怪談話を収集していた時に偶然にも蟻尾山で怖い思いをされた方のエピソードが聞けることになって、そのときに聞いた話があるんです。ある友人が知人から聞かされた話なのですが、鹿島市の南西にある蟻尾山の森の奥で枝が切り取られた木を見たというものだったんです。蟻尾山は有明海を眺めることが出来る景色の良い場所であり、野球場や陸上競技場、遊具の設置された花見広場やグラウンドゴルフなどが出来る広い広場があるのは秋庭さんも侑斗さんも見て頂いたかと思うのですが、公園の奥に突き進むと山頂に突き進む森があり、枝の切り取られた木は森の奥にありました。枝の切り取られた痕跡を見ると、その枝は手首より太く、またそれだけの太さですから風で折れるようなものではないのは一目瞭然でした。枝があった箇所は人の手の届かない場所にあったため、人や獣がぶつかってきたわけではないのは明らかでした。実はこの蟻尾山でぇあ、わたしも何度もお伝えはしているのですが、森の中で何名もの方々が自殺をされており、切り取られた枝も自殺された方を降ろすために枝を切断したのではないだろうかと知人は信じ切っていたようです。この話を聞いたとき、心当たりのあった友人が身が凍る思いをしたと言うそうです。そんなある日に、その友人が蟻尾山にある野球場を私用したときの話です。試合も終わり荷物をまとめ駐車場に歩いていると、忘れ物をしたことに気が付いた友人は仲間に駐車場で待っていてほしいと伝えてから、一人で忘れ物を取りに戻りました。忘れ物を回収したところで、仲間が待つ駐車場へと急いで戻ろうとした際に、扉のない入口に人の姿が見えた気がしたそうですが、明らかに人がいなかったために友人は特に気にしてはいなかったんだそうです。その時にふと脳裏をよぎったのが、知人が語ってくれた蟻尾山で自殺が多い事、自殺の痕跡らしき切り取られた枝の話を聞いて、”ひょっとするとあの時に見たのは”となったそうです。そんな風に思ってしまうと、今更ながら落ち着いてはいられなくなったんだそうです。」


樫木がどうだ!といった表情で説明すると、秋庭は樫木に気を遣って、「確かに実話怪談なら非常に生々しい怖さが聞いて居てじーんと伝わってきた。」と話すと、樫木は「蟻尾山に纏わる話はこれだけではありませんよ。まだまだ聞きたいですか?」と訊ねられ、秋庭は「他にもあるのならぜひ教えてほしい。」とお願いしたところで樫木が、再び蟻尾山に纏わる怪談話を語り始めた。


「鹿島市の蟻尾山に行った不思議な体験談について聞いてほしいと思いお話をさせて頂きました、という内容でわたしのInstagramのメッセージに寄せられた内容になります。その方は平日の昼間に、その方以外は誰も人がいない状態で山頂までは車で行くことが出来ないため、駐車した後に山頂を目指して遊歩道を徒歩で移動されたそうなんです。山頂に辿り着き、鹿島市内の景色を満喫したところで帰ろうかと思い後ろを振り返ると遠くの木のほうに何か光が反射している物が見え、最初は何が何やらわからなかったのだそうですが、気になって20mぐらいまで近づいてみてみると、それは花束でした。その瞬間を見てしまったときに、凄まじい恐怖を感じたそうです。自殺の名所であることは知っていらっしゃったそうですが、その現場に実際に足を運び花束がお供えされてあるのを見てしまって、背筋が凍る思いをされたそうです。しかも、花束が置いてある木をよくよく見ると、一本の枝だけノコギリで切断されたような痕跡があったそうです。そうゆっくりとわたしが蟻尾山に伝わる怖い話をしているとあっという間に山頂が見えてきましたね。」


三人がゆっくりと遊歩道を歩いているうちに、山頂に辿り着いたのだった。


山頂に辿り着いてゆっくりと寛げるような場所を見つけ休憩を取り始めたところで、樫木が秋庭と侑斗に蟻尾城の歴史について話し始めた。


「心霊とは全く関係のない話になるのですが、ここは蟻尾城跡という史跡があることでも知られています。標高192mの蟻尾山の山頂に築城された蟻尾城跡は戦国時代の山城としても知られるように蟻尾城の歴史は古いんです。鎌倉時代から室町時代にかけて藤津地方に勢力をふるっていた大村氏は小城の千葉市に侵攻に対する防備を固めるために、大村家徳が文正元年(1466年)に在尾山に蟻尾城を築きました。文明9年(1477年)に小城の千葉介胤朝の軍に攻められ落城し、城主だった大村家親は尾根伝いに能古見本城のほうへと逃げのびたんだそうです。落城の際に納富分の泣子観音(泣きびすさん)の伝説や、西牟田緑の地名由来(緑姫)といった悲話が伝えられていることでも知られています。現在、山頂近くの尾根上には”大天狗”の石祠と、永正9年(1512年)に平常親によって造られた”弁才天”の石殿が祀られていて一般的に”豊前坊さん”と呼ばれているんだそうです。4月と7月の2回、若殿分区により”豊前坊さん籠り”というのが催されているみたいです。また、残されている資料から城の造りなども調べてみたんですけどね、東の尾根沿いに登城口があり、登城口を含む東側と西側の尾根一帯は堀切や竪堀が設けられていたそうです。南と北は天然の断崖になっていて、自然地形を利用した要塞の役割を果たしていたそうです。主格曲輪の周囲には土塁を築き石垣を積んだ痕跡も至る所で見受けられるそうです。東西約500mという鹿島藤津地方における最大規模の山城で鹿島平野から佐賀平野までも一望できるという立地だったそうですので、戦略拠点として考えた際に重要な役割を担っていただろうと考えられています。しかし、戦国時代の山城は戦時拠点として使用されることが殆どのため、山麓や平地に平常の館が設けられている場合もあるが蟻尾城については詳細は一切分かってないんです。そう考えると、蟻尾城跡ってとてもミステリアスだと思いませんか。」

(追記:ニッポン城めぐり様より 蟻尾城の記事の一部を参考にしました。)


樫木が蟻尾城に歴史の話をし終えたところで、黙ってじっと聞いていた侑斗が尾根の奥のほうに生えてある大樹に目が向くと、樫木の肩をポンポンと叩き人差し指で気になる木を指し示しながら「あの木、ちょうど僕達がいる場所の左側に生えている立派な木なんだけど、さっきから何か感じるんだ。」と言い始めると、樫木に「噂されていることがひょっとすると真実かもしれない。僕が気になった木を見てみましょう。秋庭さんも一緒に確認しましょう。」と切り出すと、樫木と秋庭は侑斗の後を追うようにして、侑斗が気になったと説明した木の前までやってきた。


秋庭が注意深く木の根元のほうをじっと見つめるが、立派な木の枝が落ちていることに気付き、侑斗は落ちていた木の枝を拾い上げると、秋庭のほうをじっと見て「こんな立派な枝が簡単に強い風になびかれたとしてもはたして落ちるほどのものでしょうか。その上切断面が自然によって切れたものではない、ノコギリか何か切断する道具を使って切断した痕跡が残っています。何かあると僕が感じたのは、ここには何かが眠っている気配を強く感じたんです。」と話し説明すると、秋庭は苦笑いをしながら「何だよ!?何意味深な事を言っているんだよ。俺達はただ心霊観光地としての心霊スポットの心霊検証をしているだけじゃないか。」と話すと、侑斗は「秋庭さん、幽霊ではないものが見つかる予感がします。今僕の目の前にある木は恐らく自殺があったのは間違いないと思われますが、木の切断面から察して真新しくないことを考えると、恐らく何年も前にこの地で自殺された方の御遺体を引き上げた際に枝を切断されたのだと思います。今僕がこの付近でじっと霊視を行うと、”俺はここにいる”、”見つけてくれ”と男の人がこの付近で訴える声がするんです。」と秋庭に対して説明を行うと、内容を聞いた樫木が「その訴えって何!?どういうこと?」と顔が青ざめた状態で聞き始めると、侑斗は樫木に「幽霊よりも怖いものを見てしまうことになる。それはまだ見つかっていない自殺者の亡骸が眠っている可能性が高いんだ。ある程度人気のあるような場所では比較的見つかっていることでしょうけども、そうじゃないかつてここに蟻尾城があったことを知っている人でなければ足を踏み入れないような蟻尾山の奥地とも言うべき場所ではまず人は足を踏み入れない。実はそういったところで眠っているのかもしれない。蟻尾城の謎めいたロマンに最後まで心酔して最期の地もここを選んだのだろう。城の跡地が残っている場所などを教えてほしい。」と樫木に対してお願いすると、樫木は「え?幽霊探しじゃなくて死体探し!?」と動揺するような口調で語り始めると、侑斗は樫木に強く説得した。


「俺が聞いた”見つけてくれ”というのは紛れもなく、今この地で眠り続けている自殺者の亡骸があるという事だ。”早く見つけてくれ”ということなんだ。この声を俺は聞き逃すことなんて出来ない。それは山頂に来たと同時に霊視を行ったんだけど、そこでも霊能者の俺を見て、まるで目で訴えるような表情をしていた。仮に自殺の名所でよくある悪霊の場合なら、手招きをする、自死を選ぶように誘導する、声を上げたりするなどがあるが、俺が見たあの男性はそんなことはしてこなかった。そのときに男性が立っていた方向をちらっと見ると、最初に気になったこの大木が目に留まったんだ。恐らくだが男性はこの木の裏側の雑木林の中にある、人がそう簡単には入っていけないような場所で今もなお誰かに発見されるのを待ち続けているのかもしれない。樫木さん、念のためだが途中で道に迷子にならないために登山テープとかは持ってきている?」と訊ねると、樫木は「ええ。一応登山して迷子になっても帰ってくる道がわかりやすいように、この蛍光ピンクのテープは持ってきた。」と話して答えると、侑斗は樫木から傾向ピンクのテープを見せられ「そのテープならちょうどいい!早速あの木の裏から、調査に入ろう。」と言い出したところで、樫木は侑斗に「待って。もし人の死体なんて見つけたらどうするの!?幽霊を見るのならまだしも遺体を見つけようってきつすぎる。」と苦言を呈すと、侑斗は樫木に「樫木さん、今あなたがこれから経験をすることは佐賀怪談を伝える上で大事な持ちネタになるだろう、今後怪談師として活動する上において良い体験をすることだろう。人助けをするんだと思って怖がらずに秋庭さんも、皆で協力し合って探しましょう。」と提案したところで、侑斗は樫木からテープを預かると先に目印になるような木にテープを括り付けて慎重な足取りで斜面を下りていく。一方、霊が出ると分かった樫木と秋庭は山頂に二人きりでは心細い樫木と秋庭は渋々侑斗の後をついていくことにした。


侑斗が雑木林の中に入り続けて100mほど進み、命綱と言えるテープが無くなってしまったときに、改めて侑斗は霊視を開始した。そっと木々のざわめきから、自然の音でも何でもない声が近くから聞こえてきたので、侑斗は声が聞こえてくる方向へとさらに近付くために進行方向の左側をゆっくりと歩き進んでいくにつれ、ひっそりと佇むある木が目に留まり立ち止まると、樫木と秋庭に大きな声で叫び始めた。


侑斗に大きな声で呼び出された樫木と秋庭は侑斗の元へと駆けつけると、侑斗は樫木に「110番通報をして下さい。ありました。」と話すと、周囲はあまりにも悪臭が漂っており樫木と秋庭はあまりにも強烈な臭いに耐えられず鼻をつまみ始めると、秋庭が侑斗に「何だよ!この腐敗臭は!?どういうこと!?」と大声で聞き始めると、侑斗は木の枝のほうを指さして説明をした。


「腐食したロープが枝にはまだ括り付けた状態であります。自殺して遺体が回収されたものならロープは証拠でもありますから跡形も残すことなく回収されます。ところが木の根元にはロープの輪の部分が残っています。この輪がついたロープの付近に、僕達に会いたがっている人がいます。」


侑斗がそう話すと、侑斗が人差し指で何かがあることを説明すると、樫木と秋庭も恐る恐る近づくと、樫木が思わず大きな声で悲鳴を上げてしまった。そこにはやっと発見されて安堵ともいえる表情を見せる腐敗状態が進んだ人の亡骸が眠っていた。


秋庭が侑斗に「どうするんだ。幽霊じゃなくて遺体を見つけちまったじゃねぇか。これで丸田市長に”心霊検証視察のついでに自殺された方の御遺体を発見しました”って言うのかよ。」と言い始めると、侑斗は「仕方がない。僕達は110番通報して遺体を帰るべき場所に帰ってもらうことが最優先だ。」と語ると、樫木が遺体を見つけたショックで立ってもいられぬ状態になっているのを秋庭が見てもいられずに介抱をし始めると、秋庭は侑斗に「樫木さんが放心状態だ。俺はここに残って警察に事情を説明する。饗庭君一人だけでも、喜屋武岬の心霊スポット検証を続けてきなさい。丸田市長には俺から事件があったことを伝える。」と話したところで、秋庭が持っていたスマートフォンの電波状態を確認してから、110番通報をした。


秋庭の指示を受けた侑斗は戸惑いを見せつつも、「秋庭さん、そんな事を言ってしまったら僕達は二人で行動しなさいというのが市長が僕達に与えたミッションだったじゃないですか。」と話すと、秋庭は「もともと言い出しっぺは饗庭君じゃないか。饗庭君が率先して市長を説得して、九州のあちこちの心霊スポットを一緒に視察が出来て俺は楽しかったよ。だから沖縄は饗庭君一人で行ってきなさい。今時間は17時を過ぎたところだ。今日のうちに沖縄行きの飛行機に乗らねばいけないことを考えると、ここで遺体の第一発見者として長々と警察の事情聴取を受けていたら、その日のうちに沖縄へ移動は出来ない。ここから先は饗庭君に任せるよ。それに樫木さんのことだって心配だ。立ち止まっていないで、先へ進みなさい。」と力強く話すと、侑斗は秋庭のほうを見て「秋庭さん、本当にありがとうございました。沖縄へ行かせていただきます!」と語ると、侑斗は括り付けたテープをもとに山頂へと戻ってくると遊歩道の入り口まで戻ってきて公園のほうを目指して歩くと、タクシーを呼び出し最寄りの肥前鹿島駅へと向かうと、そこから福岡空港へと向け電車で移動し始めた。

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