観音の滝を後にした秋庭と侑斗は次の目的地である犬鳴ダムへと向かうために、約束場所として指定された宮若市役所へと向けて車を走らせていた。
助手席に座る秋庭がのんびりと侑斗に「宮若市に来るのだから脇田温泉にでもゆっくりつかりたかったんだけどなあ。よりにもよって心霊スポット巡り。」と愚痴をこぼすと侑斗はハンドルを握りながら「後日改めてご家族で温泉旅行に来たら良いことじゃないですか。まあ来ても喜ぶのは大人でしょうけどね。」と笑いながら話すと秋庭は「こんなところに家族で旅行に来ても嫁さんは喜んでも子供が喜ぶようなところはないからなあ。」と指摘すると、侑斗は「今は立入禁止ですけど、仮にもし旧犬鳴隧道が観光地化されトンネル内の老朽化した個所を補修する工事が始まったら、お子さんも遊ぶところが増えて喜ぶと思いますよ。まあ霊はわんさかいますけどね。」と語ると秋庭は大きな声で思わず突っ込んでしまった。
「リニューアルされても絶対連れて行かない!」
秋庭の突っ込みに侑斗は「冗談ですよ。冗談です。それに旧犬鳴隧道のリニューアル工事なんて絶対にあり得ない話ですからね。」と秋庭に語ると、秋庭は「それってやっぱり出ると分かっているから?昔あそこで壮絶なリンチ殺人事件があったのは知っているけど、心霊スポットとして肝試し目的の若者が無理矢理にでも敷地内に入ったりしているのをニュースで見ていたりするとちょっとやっぱり考えてしまうところはあるな。」と話すと、侑斗は「確かにそうですね。マナーを守らない若者が多いのは勿論ですがここは洒落にならないぐらい、福岡の心霊スポットの中では群を抜いて最恐と言えるんです。」と説明した後に「あそこは今の新犬鳴トンネルが出来るまでの間主要道路として使われていただけに、交通の発展と共にあの旧犬鳴隧道では対処しきれぬほどの交通量が増加したことによる事故が多発していたんだと思います。今となれば殺人事件の被害者の成年の霊が出てくるのでは?という声も上がっていますけど、青年の霊は僕が写真を霊視した限りではもう現れてこないと思いますよ。お母さん思いの良い青年だったのでしょう、亡くなった後に彼はすぐお母さんの元へと戻り、今度はお母さんの守護霊として役目を果たしたから、この世への未練というのは感じません、勿論成仏されています。ただトンネル内での事故死されただろう方があまりにも多く、その方達による無念の声が今もトンネル内に轟いているのだと僕は素直に感じましたね。はっきり言って行くべき場所ではないんです。ここの旧犬鳴隧道と、西口彰事件の被害者の霊の目撃例もある旧仲哀トンネルは、そうっとしておいて時間の経過と共に人々の記憶から忘れ去られるのが一番望ましいところですね。」と解説をしたところで、二人の乗る車は宮若市役所に13時過ぎに到着した。
駐車場に車を駐車させた後は約束場所として指定された市役所の玄関口に到着すると背後から近づいてくる男性の声に気付き振り返った。
「秋庭さん、饗庭さん、ようこそ宮若市に来てくれました!今回ご案内をさせて頂くのは、宮若市役所の広報課として勤めて3年目の北野譲と言います。今日は犬鳴ダムの視察と伺っていますが、僕個人的には犬鳴ダムのほかに力丸ダムも心霊観光地として皆さんに足を運んでいただきたいと思っていますので、秋庭さんと饗庭さんには犬鳴ダムのほかに力丸ダムの心霊観光地としての検証を行ってほしいです。短い時間ですが、どうぞ宜しくお願い致します。」
北野が二人に対して自己紹介と説明を行い、秋庭が「宜しくお願いします。」と挨拶すると侑斗も続けて「お忙しい中僕達のためにお時間を取って頂きありがとうございました。宜しくお願いします。」と御礼を伝え、早速三人は駐車場に停めてある市役所の車に乗って、最初の検証地である力丸ダムへと向かった。
市役所から力丸ダムへと向かう道中、ハンドルを握る北野より興味深い話を聞かされることになった。
「今回視察していただけるのは犬鳴ダムと伺っていますが、個人的に是非とも丸田市長に心霊観光地として取り上げてほしいと思っているのが力丸ダムなんです。ここは肝試しをしていたところ、女性の霊を見たという噂から心霊スポットとして有名になったのですが、実はこの女性の霊というのがある事件と関与しているんです。それが二つの殺人事件がありましてどちらも被害者が女性だったからです。1989年7月23日に発生したOL強姦殺人事件は力丸ダムの近くにある雑木林で全裸の女性の遺体が見つかったことが発端で、犯人の男は走行中だった女性の車を停車させ強引に車に乗り込み気絶させた後に力丸ダムへ行った際に暴行の末絞殺したという痛ましい事件がありました。もう一つは1979年11月15日に発生した保険金殺人事件ですね。暴力団の会長だった男性が力丸ダム湖に妻を呼び出し、呼び出された妻は運転手と共に目的地へと向かったそうですが道中で力丸ダム湖へと転落してしまい運転手と妻は亡くなってしまったんです。実はこの運転手が最初から雇われており妻を死なせることが目的だったようで、結果運転手も妻と共に亡くなってしまったので計画通りに車から脱出することが出来なかったのではとされており、また亡くなった妻には2億円の保険金が掛けられていたそうです。そのほかにも1994年9月22日に3人の男性と交際を巡るトラブルで、3人の男性が被害者の女性を呼び出し暴行を加えた末に吊橋の上から突き落とした殺人事件というのもありました。いろんな事件が起きていますけど、中でも有名な事件をお話しをさせて頂きました。そのほかにもダムの湖底から白骨化した男性の遺体が見つかったという話から駐車場で焼身自殺というのもありすね。」
何気ない口調で淡々と話す北野に秋庭が思わず侑斗の顔を見て失笑すると、侑斗も秋庭の顔を見て小声で「まだ市長のチョイスは良かったとはいえ、一番最初にこれを行かされるのは、霊能者としてたまらない。」と話すと、秋庭も「いろんな事件がありましたって話した二つの事件ってどっちも凄惨他言いようがない。しかもよくあんな淡々な口調で説明できるわ。」と答えると、二人のやり取りが気になったのか北野が二人に対して「どうかしましたか?」と訊ねられ、秋庭が「いえ、何でもないです。推薦したい理由がよくわかりました。」と頷いたところで、三人の乗る車が力丸ダムの駐車場に車を駐車させてから歩いてダムの堰堤へと移動し始めた。
ダムの堰堤のちょうど真ん中あたりに来たぐらいで、次第に侑斗の表情が険しくなっていくのを秋庭が気付くと、侑斗に「大丈夫か。表情が良くないぞ。」と心配の声をかけると、侑斗は「大丈夫です。あと少しですからさっと終わらせましょう。」と答えると、余りにも侑斗の表情が厳しい様子になっていくのを北野もさすがに「饗庭さん、体調を崩されたらすぐにでも僕に報告してください。こう言ったらあれなんですけど本当に僕ここで大学生時代に力丸ダムで肝試しに夜中の0時過ぎに行ってきたんですけど、こんな時間に女性がポツンとダムの堰堤にいて佇んでいるのを見て、僕たちは思わず怖くなってその場から必死になって逃げてきたんです。せっかくだから霊能者の饗庭さんに検証してもらおうかなと思ったんです。」と来てほしかった理由を説明すると侑斗は「いろんな殺人事件がある中で、とりわけ後々怨念を抱きやすいのがありますね。具体的な事件はどれかと聞かれたらそれは言及を避けますが、はっきり言ってここは危険です。僕も多分殺された女性じゃなかろうかという霊の存在をキャッチしましたが、相当な恨みを持っているのか此方を見て睨んできました。心霊観光地としてチョイスするのには、ちょっとどうかと思います。」と侑斗なりの見解を説明すると、北野は「そうですか。やっぱり最恐と言われる理由があるってことなんですね。」と質問すると、侑斗は「被害者に殺される理由のない殺人ほど亡くなられた後に恨みを抱かない御霊なんていないんです。まあこういえばほぼ答えを言ってますけど時の経過と共に亡くなられた御霊の心の傷が癒えるように追悼の意を捧げるしかないでしょう。そう考えたら心霊観光地としてくるのは宜しくないというのが僕のジャッジです。」と話し終えたところで、三人は改めてダム湖のほうを向いて両手を合わせると、駐車場へと戻るまでにあるダム工事の際に殉職された方々の慰霊碑の前でも両手を合わせて拝んだところで駐車場へと戻ると侑斗による御祓いをし終えたところで犬鳴ダムへと移動した。
助手席に座った秋庭が「力丸で最恐を味わったら犬鳴のほうが怖いのかどうなのかもう何が何やらさっぱり分からなくなってきた。」と話すと、北野は「犬鳴ダムも色々な事件が起きていますよ。分かっているだけでも、1991年にトラック事故で相手を殺してしまった自責の念に駆られダム近くで首吊り自殺がありましたし、1996年の大晦日には夫婦がダムで投身自殺、2000年には64歳の男性を拉致監禁後殺害の上遺体をダムに遺棄したという死体遺棄事件が起こっていますからね。力丸ダムと比較したらどっちが怖いかとなるとそれは比較しようがないと思います。」と説明すると秋庭が「事件より自殺の報告のほうがあがっていますよね。」と言い方を変えて切り出すと、北野は「まあ、そういわれたら確かに否定はしませんね。」と言って返事をした。侑斗は二人の会話のやり取りをじっくりと聞きながら、北野に「事件や自殺以外にも言われていることってあるんですか?」と訊ねると、北野が「僕は実際に体験をしたわけではないんですけども、あるオカルト系の情報サイトでは夜中の1時ごろに車でダムを周回していると目前に女の人が出てきて、危ないと思って止めて車から降りるとなぜか女の人は消えている。安心して運転を再開しようとしたところ、何かの気配を感じ、バックミラーを覗くとその女の人が追いかけてきたというのがありますね。僕自身も犬鳴ダムには肝試しで行きましたが、夜になればなるほどまあ不気味ですよ。あまりにも雰囲気が”出てきそうだ”と友達が言い出したもんだから、結局ここも行っただけで終わっているんですけどね。なので噂される怪奇現象とは出くわしていないんです。」とさらっとした口調で回答すると思わず「案外、肝試しに行かれる割にはちらっと見た程度で終わっているような印象がありますね。僕に以前御祓いの依頼をしに来られた方なんて、真相を追求しようと思ったがゆえに取り憑かれて、その結果体調を崩して高熱にうなされてやってきた人がいました。特に夜は、場所にもよりますけど、人気が無くなる分出てくるのは本当に出てきますし、肝試しなんて僕は常々言っていますけど安らかに眠る御霊達の安らぎの時間を阻害する行為です。かえってその場にいる御霊達を怒らせるだけで良い事なんて何一つないんですよ。だから肝試しなんてしないでくださいというのが霊能者としての本音ですね。」と語ると三人の乗る車が駐車場に到着した。
北野の案内で秋庭と侑斗は駐車場の近くにある展望台へと足を運び底から眺める景色を確認したところで、北野から秋庭と侑斗に「犬鳴ダムの堰堤に行くまでにまたお願いをしたいことがあるんです。お二人が市役所に来られるまでに前もって購入しておいた菊の花がありますので、これを展望台に隣接するお地蔵様のところへお供えをして頂けませんか。」とお願いされると、侑斗は「え?お地蔵様なんてあるんですか。だったら御参りしない理由なんて存在しませんから勿論喜んでお供えをさせて頂きたいと思います。」と返事をして、早速三人はお地蔵様の前まで移動をすると、秋庭が北野から渡された菊の花を献花台にお供えをすると三人は一列に並ぶような形で深々と頭を下げた後に両手を合わせ拝んだ。
お地蔵様への御参りが済み、心霊検証の舞台となる犬鳴ダムの堰堤へと移動する。
「見た感じでは普通のダム湖なんですけど、饗庭さんはどう感じましたか?」
北野が侑斗に切り出すと、侑斗は「ここで起きた自殺って果たして仰って頂いた他にもあったんですか?」と切り出すと、北野は「いや、どうなんでしょうね。僕の知っている限りではお伝えしたことが僕の知っている限りの情報ですね。」と答えた。北野の答えに納得しなかった侑斗は「新聞などで伝えられていない案件なども含めて考えたら、恐らく相当の方々がこの地で最期を遂げたんじゃないんですか。ダム湖を覗くと、数え切れぬばかりの白い人魂が水面に浮いているんです。水面をびっしりと埋め尽くすようにして人魂が集まっている光景は仰って頂いた自殺した案件以外の自殺もあったように思います。そうじゃなければ、ここまで集まらないと思います。今回僕と九州各地の心霊スポットを同行してくれている秋庭さんも、不可解な雰囲気を感じ始めているんじゃないんですか。霊感のない方でも、ここの雰囲気が異質だというのは言われなくとも分かると思います。」と語り、秋庭の顔を見て「どうですか?」と訊ねると秋庭は「さっきの力丸ダムも出てきそうな雰囲気はあったが、犬鳴ダムは空気が重い。張りつめているような感じが凄く伝わってきて、僕は饗庭君と違って霊は見えないけども、”何か”があるような気がする。」と言って返事をした。
二人の見解を聞いた北野が「ダム湖に沈んだ犬鳴谷村があったことも影響しているんじゃないんですか?昔ここには犬鳴谷村という集落があったんです。犬鳴谷村の歴史は古く、1691年(元禄4年)から1889年4月1日(明治22年)迄、福岡県になるまでの筑前国だった時から鞍手郡に存在した村です。犬鳴谷村じゃなくなった後は1889年から1955年(昭和30年)3月1日までは吉川村の地名の一部として、ダム湖に沈んだ1994年(平成6年)までは若宮町大字犬鳴としてあったんです。今回は時間の都合でご紹介が出来ないのが残念ですが、犬鳴御別館という犬鳴谷村があった時代に築城された城の跡地が残っているんです。1865年(慶応元年)に福岡藩の家老の加藤司書の命令により造られた城の一種で、黒田氏の福岡城が海岸沿いに面しているため外国と戦争になった際に標的の対象になる可能性があり得るので、艦船からの砲弾が届かない内地の安全な犬鳴山に築城したんです。幸い福岡藩は外国との戦争にはならなかったため、本来の目的は果たさなかったようです。」と犬鳴谷村にまつわる歴史を説明すると、侑斗は「犬鳴谷については僕もあったことは知っているんです。ダム湖に沈むまでは、主に林業やたたら製鉄、農業を生業とする方々が住んでいた集落とも伺っていますからね。犬鳴ダム建設の工事が進み辺り一帯が水没してしまうことになったから転居を余儀なくされたというのもありましたけど、住む方々の高齢化が著しく進んだことにより、人々が完全に離れてしまい廃集落になったんですよね。でもそれと僕が見たあの光景は全く無関係ですね。ダム湖に沈むまでに移動しなければいけない墓地なども、きちんとした墓地を移動するための処置などもしているようなので、祟られるようなものは何もないんです。ただ、これは本当に繰り返し僕が正直に思ったことを言いますけど、ここは自殺が多かったはずです。自殺の名所と言われる場所でよくあるのが、更なる自殺者を誘発するための誘い込みによる心霊現象の報告があがるんです。呻き声や叫び声がした、手招きされた、下を覗くと吸い込まれるような錯覚に陥るといったことなどです。霊感のある方ならば、注視するような視線を感じた後に転落死をするように誘導するとも感じるんです。それが自殺なのか事故なのか、遺書が発見されない以上は、調べる警察でも判別が出来ないのは恐らく転落事故として処理をされるのでしょうけど、北野さんが仰って頂いたのが報道されている自殺の案件が全てならば、事故死として扱われた案件というのはどれだけあったんでしょう。そう考えると、公に報道されていないのもあるかもしれませんね。そうじゃなかったら、あれだけの多くの人魂が水面に浮かぶ光景というのは有り得ないんです。」と語ると、さらに侑斗の話は続いた。
「秋庭さんが”何か”と感じたのは、恐らく御霊達が僕達を取り囲むようにして注視しているんです。ここは精神的な悩みや迷いがある状態では来てはいけない、心に付け入る隙があると分かれば、自死へ誘い込む悪霊の存在を感じます。力丸ダムよりも犬鳴ダムのほうが出てくる御霊はまだいいほうですね。力丸ダムは怨霊、犬鳴ダムは悪霊、比べようがないのですが悪霊は心に付け入る隙がないと分かれば頓挫して禍を齎す可能性というのはないのですが、心に傷を負った怨霊というのは慰霊目的以外はそっとしておくしか術がないので心霊観光地としておすすめするべきではないというのは力丸ダムで言いましたけど、犬鳴ダムは推奨して良いと思いました。映画化された影響でルールを守らない若者達による旧犬鳴隧道への不法侵入が後を絶たないと伺いましたが、本当に犬鳴峠で彷徨う霊を見たいというのならば、ここに足を運んでくださいと言って宣伝をして良いと思います。力丸はおすすめしませんけどね。」
侑斗が霊能者としての意見を語り終え、北野は「力丸ダムも裏スポットとして紹介したかったというのもあったんですけどね。ただそれでは、無念の死を遂げた女性の霊の供養にはならないということですね。仰る通りで、若者と言いますか、ルールを逸脱して”いいね!”狙いのYouTuberによる動画投稿が後を絶たないんです。不法侵入をしてまで、動画を投稿しているんです。映画化されて犬鳴の歴史を改めて知ろうというより怖いもの見たさで足を運ぶ、正直行政の立場からするともうこれ以上対処しきれないんです。久山町側ではゲートに監視カメラを設置しなければいけなくなったほどです。どうしてそこまでして立入が制限されるのか、霊が出る云々ではなくトンネルの途中から手掘りになっているところがありコンクリートによる補修もされていないために漏水も進んでいることからいつトンネルが崩落してもおかしくないんです。犬鳴村の都市伝説がクローズアップされて益々、足を運んでくれる人が多いのは有難い話ではありますが、正直に言うともう旧犬鳴隧道は心霊スポットとして検索が出来ないようにして頂きたいのが本音ですね。」と話すと、秋庭は「映画があんな内容じゃね、フィクションだと分かっていても怖いもの見たさで訪れる人は多いってことだね。検索が出来ないようにするというのは法で定められいる言論の自由もあって難しいと思うが、興味本位だけにしてほしいね。」と話すと侑斗はうんうんと頷きながら三人は犬鳴ダムの堰堤から眺める景色をゆっくりと視察し終えたところで、駐車場へと戻ってくると、侑斗による御祓いをし終え、市役所へと戻ることにした。
駐車場に着き、秋庭と侑斗は案内役をしてくれた北野に御礼の言葉を伝え、秋庭と侑斗は長崎の南島原市へと18時過ぎに出発した。侑斗がハンドルを握りながら秋庭に「まさかの力丸ダムの視察付きでしたね。ぶっちゃけた話力丸のほうが犬鳴峠の周辺よりも行かないほうが良い場所ですよ。僕も久しぶりに、秋庭さんが指摘してくれたように険しい表情になりました。だから正直に思ったことをストレートに言いました。でも力丸は正直に言わないほうが身のためだというのがあった、ずっと睨み付けられたらこれ以上の闇に深入りしないほうが良いというサインなんです。そう考えると、犬鳴ダムのほうが精神的な悩みや迷いを抱えていなければ至って問題はないってことです。霊感のない人は犬鳴って地名だけで”出る”と解釈するのかもしれませんが、本当の恐怖は別にあるんですよ。でもそれは触れないほうが良いんです。犬鳴峠があることで力丸ダムに肝試しに訪れる人はそこが心霊スポットだと知っている人が行くような場所で終わっているだけですから、そのままでいいと思います。」と語ると、秋庭は「そうかもしれないね。あれだけ多くの殺人事件の舞台になっていると、北野君には悪いけど、宮若市の治安どうよって俺は思った。」と言って答えると、侑斗は「時系列だけで考えたら頻繁に起きているってわけでもないですし、たまたまこの地で偶然にも頻繁に起きてしまっただけなのかもしれませんね。それに治安云々は北野さんの仕事じゃないですよ。」と笑いながら突っ込んだ。
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