雄島を後にした一同は、次の目的地でもある九頭竜ダムへと向けて走らせていた。
運転席に原田、助手席に侑斗、後部座席の左側から小田切、勝本、星弥が座るような形で走らせること2時間が経過したところで、次の目的地である九頭竜ダムの駐車場へと到着した。時刻は11時10分を過ぎたころだった。
「慰霊の旅路の公式Twitterのダイレクトメッセージから、また新たな心霊現象の検証依頼が入ってきた。読んでみようか?」
侑斗が切り出すと、小田切が思わず声を上げた。
「また依頼?調査?本当に北陸で大人気だな。君たちはなぜだ!?まるで追跡されているような感覚にも襲われるよ。誰もが羨むイケメン霊能者だからか!?」
小田切の発言に勝本は「まあ、それも一理あるね。しかしそれなら、関西にいるときに色々な心霊検証の依頼が入ってきてもおかしくないのに、関西にいるときはさほど依頼が次々と入ってくることはなかったのだから、あくまでも一時的なものに過ぎないのじゃないのか?」と話すと、小田切は「北陸のほうが関西よりも怖いと思った体験談を経験した人が多数集結しているってこと?だったら、俺達に依頼はなかったけど例えば、自殺の名所で有名な和歌山の三段壁だったり、大阪の犬鳴山トンネルや京都の花山トンネル、滋賀のシガイの森、兵庫の祟りの岩、奈良の天理ダムというように上げれば色々とあるのに、どうして北陸にいたらここまで依頼が殺到する?その理由が俺には分からない。」と言い放つと、侑斗が謙遜しながらこう答えた。
「あのっ、自分が言うのも何なんですが北陸で大人気なんです!!」
侑斗が照れ笑いをしながら話すと、小田切は嫌味を言うような語り口調で侑斗にこう突っ返した。
「大人気で羨ましいね。ってかそれだけ饗庭兄弟として名前が通っているのなら、何も今の仕事をやめて本業にしてもいいんじゃないのか?」
小田切が話すと、侑斗は「いやいや。これはお金をもらって稼ぐような仕事じゃないからね。目には見えぬものや現象に対して、その事象に体験した人はどこに相談すべきなのか迷いに迷い、困り果てた末に僕達のような霊能者に助けを求めてくる。その目に見えぬものと対峙をするということは、果たして御祓い代金や除霊料金などを貰っていいのかどうなのかという事にも繋がりかねない。幽霊というオカルトの代表格的な存在に対して懐疑的な考え方の人だって世の中には沢山いる。こればかりはボランティアの精神を貫かないと評価されない。僕も兄ちゃんも大赤字で各地を回っているんだよ。例えばこれがTV番組だと、出演料だとか交通費とか貰えるけど、普通の依頼だと貰えることはできないからね。ましてや活動費を稼ぐようなことをしてしまえば今度は副業だと言われかねない。」と釈明した。
そんな侑斗を見て星弥は「どんな内容が投稿されたのか読んでみてごらん。」と侑斗に話しかけたところで侑斗は投稿された内容を読んでみることにした。
『皆さんお憑かれ様です。山梨県に住む信玄もっちーと言います。僕が長野県で体験したことをお話ししたいと思い投稿をさせて頂きました。あれは今から2~3年前の話になるのですが、観光地として有名な青木湖でキャンプをしようということになり仲のいい友人や彼女を連れて皆で行った際の出来事でした。テントを張って、皆でワイワイとバーベキューをしたりして、楽しいひと時を過ごしていた中で過ごす夜の事でした。夜の20時を回ったぐらいの時に、キャンプファイアーをしながら焼きマシュマロを楽しみながら、僕は彼女と良い雰囲気になって湖を眺めてみようかという話になり湖面をゆっくりと眺めることが出来るスポットへと向かった時のことだった。あるはずもない火の玉のようなものが湖面に浮かんでいると彼女が見たんです。彼女が僕に”ここに何かがある、怖いからテントに戻ろうよ”といって僕は彼女とテントへ急いで戻ったのですが、憑いてきたのか何だったのか分かりませんが、テントに戻ってきたら僕達4人しかいないはずなのに、それ以上の人数が僕達のテントを取り囲んでいるようにも感じて、あまりにも多くの人の気配を感じて恐怖のあまりに眠れなかった記憶があります。今でもあの地に何があったのか、思い出すだけでもトラウマで今でも僕に憑いてきて一緒にいるのではと思うと怖いです。検証してください。』
侑斗が読み上げると、小田切が「それなら知っているよ。有名だね。」と話すと、侑斗は「それって何なんですか?何かあったという事ですよね?」と質問すると、小田切が何があったのかを答え始めた。
「青木湖のバス転落事故だ。1975年の元旦に起きた事故だ。俺も先輩の霊能者からここだけは肝試しの同伴依頼があっても行くなと言われていてね、青木湖はそのうちの一つだ。俺が聞いた話では、1975年1月1日の午前11時20分頃に事故は起きた。ホテルへと向かうスキー客を乗せた送迎バスが急カーブに差し掛かったところで曲がり切れずに湖へと転落した。その際に、定員32名のバスに62名が乗っていて、明らかに過積載の状態でルームミラーも人でごった返す状態の中で全く機能を果たさない状態で急カーブに入ったところで、運転手は車体の左側をこすらないかを気掛かりに必要以上に右側に車体を寄せてカーブを曲がろうとしたことにより、バスの右前輪が脱輪し、車体前部から滑り降りるようにして転落したのだと推測される。運転手、運転助手、乗客の36名はバスの窓などから脱出するなどをして逃げ出すことが出来たが、残る24名は逃げ遅れた末に溺死してしまったという事故がある。皮肉にも定員オーバーの人数分だけお亡くなりになられているのだから、報われないものがあるのだろう。今は観光地として知られているスポットでもあるが、悪ふざけ半分で決して行ってはいけないことだけは言える。」
小田切が話す内容に、星弥は「それなら聞いたことがある。でもそこはお亡くなりになられた数が数だけに慰霊碑があって今でも慰霊に訪れる人もいるはずだから綺麗に整備されているはずなんだけどなあ。」と心霊現象が起こることに関して首を傾げると、侑斗は「ストリートビューでは画像は確認できないがあるのはあるね。」と話したところで、原田が「今は青木湖の心霊現象や事故を語り合う場合じゃない。九頭竜ダム並びに九頭竜湖で起こるとされている心霊現象について議論をしなければいけない。」と話すと、侑斗はあっとなって「そうだった。九頭竜ダムへと先ず報告を受けた首の折れ曲がった少女や、腐敗した子供の霊が現れるなどの心霊現象について霊視検証を行わなければいけなかった。ってか投稿された内容って何だったっけ?」と言い始めると、一同はあきれ果てて、勝本が思わず声を上げた。
「肝試しで見た首の折れ曲がった少女の正体が何だったか?じゃなかったのか。それを検証するためにもまずは駐車場から離れて九頭竜ダムへと移動しよう。」と切り出したところで、一同は九頭竜ダムへと向けて歩き始めた。
そして九頭竜ダムに着いたときに改めて一同は霊視検証を行った。
ダムを改めて見回したところで、報告されている心霊現象について一同はそれぞれの議論を行うことにした。
「心霊現象サイトに記載されてある情報では、19時から20時の間に通過すると、後ろを振り返ったり、バックミラーを見てはならないとする説がある。その理由とされているのが、投稿をしてくれた方が見た証言では、噂通りの首の折れ曲がった少女を見たという話がある。本当に出るのかどうかは疑わしいところはあるが、腐敗した子供の霊も現れるとされる。その他にも、九頭竜ダム・九頭竜湖の近くにある壁に正面衝突する事故が毎年発生するともされており、かつて村落があったことに由来しているともされているが、果たしてと思う点があった。まずは腐敗した子供の霊が現れるという一説だが、これは恐らくこの噂から来ているのではないかと思う。それはダム建設前の村落がまだ存在していた頃の話で、ある女の子が子供をあやしていたときに誤ってその子供を転落させてしまったらしい。ダムの建設直前までは生きていたというが、そのまま遺体を残した状態でダム建設が始まったために、トンネル内で首の折れ曲がった少女と、井戸に転落しただろう腐敗した子供の霊が出るというが、さあ皆さんこの地に改めてきてどう思いましたか?」
侑斗が話しかけたところで、勝本がある疑問を呈した。
「九頭竜ダムに纏わる心霊話としては、侑斗君が話した話もあるが同時に呻き声が聞こえるというのもあった。しかし、ダム建設以前に起こったとされるその女の子による面倒を見ていた子供を井戸に落としてしまったが、遺体は引き上げられることなくダムの建設が始まったという話は胡散臭いと思わないか?調べてみる限りでは、村に住む女の子が坊やの子守をあやしている際に不注意で井戸に落ちてしまった。ダム建設が一週間後に迫る中で転落した女の子と坊やは井戸の中で何日も生きたというが救助されることなくこの世を去った。ならば意識がある状態なら何としてでも救いを求めるために声を上げているはずなのにそれすら誰も気づかず、ダム工事の関係者だって工事を始めるまでに住民がいないかどうかも含め全体的に隈なく調査をするはずなのに、井戸に転落した子供達の姿を見過ごさないわけがない。それに首が折れ曲がったのなら、首を複雑骨折している可能性があるが、子供の見た目がグチャグチャの状態で現れるというのはやはり考えにくい。赤子をあやしていたという説もあるがだとしたら転落して一番ダメージを受けたとしても即死だろう。どうグチャグチャだったのか、そしてその女の子がどういうタイミングで落ちたのか坊やを庇うようにしてにしたとしても、やはり腑に落ちない点が多い。実際に霊視をしてみたけど、腐乱した状態の子供の霊の姿はキャッチすることは出来なかったが、首の折れ曲がった女の子らしき霊は確かに確認することが出来た。」
勝本がそう話したところで、小田切が「俺も同じ首の折れ曲がったような、女の子の霊を確かに見た。でもこれは井戸から転落したことによるものではない。外的損傷の大きさから考えてもこれはおそらく事故死した可能性のほうがグッと高くなる。かつては大野郡和泉村という村落があり、また首が折れ曲がったという強烈な印象からその怪談話が広まった可能性のほうが捨てきれない。その他にも心霊スポット検索サイトには載っていないが、2012年の5月に九頭竜湖で女性の遺体が冷凍庫に入った状態で見つかったという事件も発生している。しかしながら、亡くなってから亡骸を遺棄されているということもあり、殺された女性のこの世に対する強い残留思念もこの地では汲み取ることが出来ない。やはり殺された地のほうが強いとみて間違いないだろうが、そこは現役の警察官の意見を聞きたい。」と星弥のほうを見ると、振られた星弥は小田切に対してこう答えた。
「殺人、うーん。色んな現場を見てきたけど、残留思念はないなと先ず思った。仮にもしあったとしたら、その冷凍庫に入れられた際に、意識があったかどうかだよね。意識が朦朧の中で冷凍庫に入れられた末に息絶えたというのならば、その状態では九頭竜湖にやってきたという感覚は間違いなく無い。訳の分からない暗闇の世界に閉じ込められているぐらいの感覚でしかないだろう。その状態で自らの命を奪った犯人たちに対して強い憎しみや恨みの感情を抱くというのは、その最後に入れられた冷凍庫に強い怨みの念が遺っていると考えるのが自然だと思う。だとしたら、九頭竜湖で彷徨う可能性は低いとみて間違いない。現に心霊スポット検索サイトでも殺人事件に触れた記事はあるが、女性の霊を見たという目撃例がなく、井戸で突き落とされたであろう女の子と坊やの子供達の霊があるというのは、間違いなくこの付近で事故死した可能性が高いと見ている。そこは小田切さんと同じ考え方だ。事故を受けた衝撃のダメージが強く首を複雑骨折した可能性が高い。その状態で少女は意識朦朧の中でこの世を去ったのだろう。腐乱した子供の霊と思われるのも、それなんじゃないかなというのは確認することが出来たがあれは腐乱した遺体そのもので現れているんじゃない。事故により全身に強いダメージを受けて亡くなった、幼くして散った子供の御霊そのものだろう。事故が起きた直後は意識が若干あった状態で、でもすぐに命を落としたのかな。その子供達の霊を見て直感的に、かつての村落があったことを背景にそのような話が出来たのかもしれない。因みに九頭竜ダムで霊視を行うまでに俺達が最初に拝んだ二つの慰霊塔があったと思うけど、あれはダムが出来てから付近で自殺や事故が多発したことを理由に、お亡くなりになられた方の御霊を供養する目的で慰霊塔が設立されたと思える。九頭竜ダムでの建設時の際に殉職者が出たとか、調べてみる限りではそのような話もない。過去を透視できる侑斗に見てもらおうか。」と侑斗に話しを持ち掛けたところで、侑斗は透視をした結果を答えた。
「工事に携わった人が事故死をした形跡はない。難工事だったとかそういうわけではなく順調に進んで1968年の完成にこぎつけたという印象を受けた。事故が多いのは非常にカーブが多く、運転技術に長けた人であったとしても、カーブがあることに意識が集中してしまうとそこばかりに意識がいってしまうことにより、カーブに吸い込まれるようにして事故が起こりやすいのだろう。現れた子供達の霊は自らの死に対して理解を示せず、今もなお救済を求めて彷徨っているのかもしれない。」
侑斗がそう話したところで、勝本も侑斗の意見に頷きながら「俺もその可能性のほうが高いと見ている。原田君だってそうだろ?」と原田に聞き始めると、原田も言葉少なげだが「俺が何を言うべきなのか、もうすでに言いたいことは言われている。俺も小田切さんや饗庭さんや侑斗と意見は同じだ。」と語ったところで、一同は改めて九頭竜ダムを前にして両手を合わせ拝み始めたところで、車を駐車させていた駐車場まで戻ってくると、それぞれが自身の御祓いを済ませたところで次の目的地である熊走大橋へと向けて出発をすることにした。
「熊走大橋に向かうまでに途中で昼食をとるためにレストランに立ち寄らないか?」
運転をしていた原田が切り出すと、助手席に座る星弥は「そうだね。12時も回っているし皆だって金沢市内にある熊走大橋に向かうまでに昼食を済ませたいだろうから、近くに辿り着いたところで昼食を取ってから熊走大橋に出発をしよう。」と提案をしたところで一同が乗る車は福井県を離れ、石川県に入ったところでまたしても慰霊の旅路のWEBサイトに心霊の検証依頼が入っていることに侑斗が気が付き始める。
「また心霊の検証依頼が入ってきている。内容は肝試しに訪れた金沢大学医学部解剖体墓地に訪れた際に写り込んでしまった大量のオーブを検証してほしいというもので仲のいい地元の友達と”絶対に幽霊が出てくるだろう”と思い、8月の御盆の時期に5人グループで夜の23時頃に訪れたものだが、入ったと同時に夏の暑い時期にもかかわらず近づけば近づくほど悪寒に近い寒気が走ったと同時に、自分たちしかいない墓地なのに誰かほかにも人がいるような気配を感じてならず、気配を感じたほうへカメラのシャッターを切るとそのような写真が撮れてしまったらしい。御祓いしてという内容だが、兄ちゃんはどう思う?」
侑斗が星弥に話しかけると、原田や勝本は呆れて「その御祓いの依頼は引き受けないほうが良い。」と口を揃えて語ると、小田切も「肝試しをしたほうが100%悪に決まっている。しかも墓地。人気のいなくなる時間にふっと出てきた可能性だってあるだろう。そんなそっとしておいたほうが良い場所に、グループで”怖い!怖い!”だなんて騒いだらどうなることか、今回の九頭竜ダムに限らずとも肝試しをして怖いと思う人は多数いるが、本来肝試しはしてはいけないことだ。そっと安らかに眠る御霊達の配慮に欠ける行為でもあるからね。」と切り出したところで星弥が語りだした。
「断りなさい。明るい時間帯であっても、墓地には行かない。墓地とは生者にとっては故人の安らかな眠りにつけるように両手を合わせて御参りをする場所だ。遊びに行った奴の自業自得だ。その上肝試しなど言語道断だ。」
星弥がそう語ると侑斗はふと疑問に感じたことを話した。
「今さっき、”肝試しは言語道断”と答えたけど、でも俺達がこれから行く場所なんて肝試しに行って怖いと感じたところも含まれているけど、それもまた言語道断と言って一喝するわけでも無く引き受けたのには理由があるのか?」
侑斗の指摘に星弥はこう答えた。
「自分の親族じゃない墓地に行くのは怖いだけだよ!」
まるで吹っ切れたかのような強い口調で言い返す星弥を見て、思わず小田切は「怖いと思うことは素直に怖いって言えばいい事なのにどうしてあんなに強気に主張するのか理解が出来ない。」と首を傾げるのだった。それを聞いた勝本は「饗庭君の、ああいう態度って昔から変わらないような気がする。皆が怖がっているのにただ一人だけ何が怖いんだよ!と胸を張って言い張るようなタイプだった。でもああいうキャラクター程周りが思っていない以上に本人が臆病だったりするんだよ。」と話すと、その一言が図星だったのか、星弥は後部座席に座る勝本をちらっと見ると、その後は黙り込んで何も言い返せなくなったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!