【完結】慰霊の旅路~対峙編~

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千日デパート火災跡(大阪・大阪市)

公開日時: 2021年11月28日(日) 21:01
文字数:7,545

季節は変わり、2025年の9月がやってきた。

8月10日に神奈川県相模原市と愛甲郡清川村の境界にもなっている虹の大橋を後にして1ヶ月を迎えようとしていた9月5日の金曜日の夜の事だった。

※虹の大橋を後にするまでに自身への御祓いは済ませています。


饗庭兄弟の弟侑斗は、本業は小城市役所の市民課職員として、週末は出来る限り霊能者としての除霊活動をしながら日々忙しい毎日を過ごしていた。侑斗は兄星弥が住む神埼市内のマンションに仕事終わりに立ち寄っていた。


そんな中で、WEBサイト”慰霊の旅路”にある興味深い書きこみが寄せられた。


「おっ、”慰霊の旅路”に新規の投稿があったみたいだよ!早速見てみようか?」


侑斗が”慰霊の旅路”のWEBサイトを見ながら話すと、星弥は「投稿されたメッセージを読んでほしい。」とお願いされ、侑斗は「了解!」と言って返事した。


『はじめまして。ラジオネームのポン汰と言います。』


侑斗が読み上げる内容に星弥は「ラジオネーム?うちはラジオ番組なんて放送していないんだけど。心霊検証のリクエストがあったら聞くけど楽曲のリクエストにはお応えできないね。」と素早く突っ込みを入れると、侑斗は「ハンドルネームの間違いだと思うんだけど、多分誤変換だね。話が続いているからそのまま読むよ。」と話すと投稿されたメッセージの全文を読み始めた。


『僕は大阪市中央区にある家電量販店で店員として勤めていますが、ずっと悩んでいることがあります。僕は比較的霊感があるか、無いかと聞かれたら無いほうなんですけども、今の職場で働き始めるようになって日々霊障のようなものに悩まされていることが増えるようになって、また実際に幽霊を見てしまう頻度も増えて、職場は明るくて比較的楽しい環境ではあるのですが、心霊現象を毎日のように体感してしまっている以上、これからもずっと働くべきなのかどうなのか非常に迷っているところがあります。そこでお願いしたいことがあります。千日デパート火災跡で発生する心霊現象について、有名な饗庭兄弟に心霊検証をお願いしたいです。宜しくお願いします。因みに今の家電量販店が出来る前は、商業施設の”プランタンなんば”がありました。そこで伝わった心霊現象の話が今もなお、伝わっています。一つは閉店後に店舗内で残り作業を行っていると、決まった時間に「火災発生、火災発生」という館内放送が流れ、驚いた店員が先輩に聞くと、この館内放送が流れるのは千日デパート火災が発生した時間であり、放送される内容には泣き声や助けを求める声など様々な形で流れるというもの、二つ目はあるアルバイト店員とその店長が仕事が大幅に長引き閉店時間を大きく上回ってしまったある日の出来事で、疲れ切った二人が帰るために従業員専用のエレベーターに向かおうとするのですが辿り着けない。同じ階にたまたまいた人たちに聞いて回り、アルバイト店員がやっといつも使うエレベーターを発見した際には店長の姿がありませんでした。おかしいと感じつつも帰宅して翌日に職場に連絡を取ったところ店長が行方不明になったという。思い返せば、あれだけ遅い時間帯にも関わらず聞いて回れるぐらいの人がいたのか、あの人たちの正体は何者だったのか店長はどこへ行ってしまったのか、全てがわからないままとのことです。三つめは8回のお店で働いていた元従業員の体験談です。働いていたお店は夜遅くまで営業していて、帰宅しようとする頃には他の店舗は閉店していたそうです。閉店後にエレベーターで1階まで下りようとしたところ、誰もいないはずの階でエレベーターは急に止まってしまったんだそうです。しかしドアは開かず何事かと思ったその瞬間でした。ドアの向こうの、遠くから声が聞こえてきたんだそうです。”たすけてぇ~!たすけてぇ~!”と。スタッフ全員が恐怖のあまりに凍り付くと、その叫び声はどんどんと近付いていき、ついにはドアの前まで”たすけてぇぇぇ~!!!”と。その声が聞こえたと同時にエレベーターが動き出し、どうにか1階に降りることが出来たそうです。ここまでの話はプランタンなんばで伝わっている内容ですが、今の家電量販店で伝わっている内容としては主にトイレ等で、ドアを激しく叩かれて外に出てみるが誰もいない、トイレのドアの下に足だけが立っているなどがあり、又エスカレーターでは髪が焼け焦げた複数の女性の霊を見たという証言もあり僕も実際に見た事があります。それだけ、風水にも徹底し、さらに大規模な御祓いを済ませたにも関わらず、助けを求める霊達が彷徨っているのかと思うと切ない気持ちになります。また、千日前アーケードでは、火災時に飛び降りて亡くなられた霊達によるものなのか、「ドーン!」という何かが落ちてくる大きな音がしたので見上げてみると何もなかったというのがあります。長文になりましたが、ご検討のほど宜しくお願いします。』


侑斗が読み上げた内容に、星弥はタブレットを片手にGoogle検索をしていた。


「あるな。あった、これだね。」


星弥が話す内容に侑斗は「兄ちゃん、あったって何?」と訊ねると、星弥は「千日前デパート火災のことを伝える内容だよ。ざっくりだけど説明するね。1972年5月13日に3階の婦人服売り場のコーナーから、22時27分頃に工事関係者によるタバコの火の不始末が原因による出火が発生、火は瞬く間に燃え広がり5階まで広がったそうだが建材の燃焼などが原因による有毒ガスが上の階にまで広がったことと、避難設備の不備や従業員の不手際などもあり、計118名もの尊い命が失われる結果となった。」と話すと、侑斗は「118名って!?そんな多くの方々が亡くなった現場で俺と兄ちゃんの二人でさばけると思っているの?」と聞き始めると、星弥は「さばけない。というより、これは悪いけど除霊は不可能だと思う。」と答えた。


侑斗は星弥に「理由って何なの?教えて。」と訊ねると、星弥は「50年以上も前の事件だしね、あくまでこのWEBサイトに記載されてある内容をそのまま伝えることしか出来ないんだけど、これは八甲田山に共通する点があまりにも多すぎる。壮絶な現場だったらしい。」と語った後に記事で記載されてある内容を読み始めた。


「1階から6階の売り場には閉店後のため人は誰もいない状態であったが、唯一営業していた7階のアルバイトサロンのチャイナサロン・プレイタウンでは多くの客で賑わっていたという。そんな時に突如下の階から立ち上る煙に来店していたお客さんやキャバレーの従業員はパニック状態に陥った。階段からは煙が広がり、エレベーターは火災による停電で使えず、逃げ場が全くない状況において、正常な判断を失ってしまった状態で壁を壊そうとして壁を引っ掻き殴り続けたり、窓を叩き割り飛び降りたり・・・。うわ、何か想像しただけでも・・・。因みに死者118名のうちの飛び降りたことによる死者は24名でそのうち22名は全身挫傷や頭蓋骨骨折などによる投身が原因によるもの、飛び降りなかった96名の方々は7階のフロアで折り重なるようにして倒れて亡くなっていた。一部の方は、窓枠にしがみつき半身を乗り出した状態で亡くなっていたという。どうして飛び降りたのか、一説によると極度のパニック状態に陥ったときに高さが大したことが無いように思いこんでしまい、”何としてでも生き延びたい”という思いから飛び降りた可能性があるという。」


星弥の話す内容に侑斗は絶句するしかなかった。


「兄ちゃん、どうするの?引き受けるの?」


内容の恐ろしさに侑斗は思わず小声になって聞き始めると、星弥は「困っている人に対して、引き受けない理由はないからね。でも、こればかりは。祓い切れんと思う。亡くなられた方々の無念があまりにも大きすぎる。それをポン汰さんに説明しておいて。俺は出来る限り応援の霊能者がいないか探してみる。」と語るとすぐに、関西に行ける霊能者がいないか連絡し始めるのだった。


「兄ちゃん、日程はどうするの?いつ頃ならいい?」


侑斗が星弥に話しかけると、星弥は「シルバーウィークのほうが都合がいいだろ。13日から15日は実は言うと旅行に行くと言って予め申請していたのが通って、連休を小田切さんや勝本さんと計画していたんだけど、あっそっか。小田切さんと勝本さんに応援を頼むことにするか!ちょうどいい!!」と話し始めると早速連絡のやり取りをし始めるのだった。


侑斗は星弥に「シルバーウィークなら俺も休みだし、良いよ。ポン汰さんにもいつが出勤日になるのかも含めて聞いてみるよ。」と話し、返事のフォーマットから「シルバーウィークに是非とも伺って霊視検証を行いたいと思いますが、勤務日がいつなのか教えて頂けませんか。宜しくお願いします。」と返事をすると、ポン汰から「9月13日なら出勤日なので来ていただいて構いません。7階のゲーム・照明・寝具の販売フロアで働いています。」と返事が返ってきたのを見ると、星弥は思わず大きなため息をついた。


「7階のゲーム・照明・寝具の販売フロアで働いています。はああ!?」


星弥がそう語ると、侑斗は「引き受けるんでしょ?だったらその人の勤務先が上層階であったとしても引き受けなければいけないのが筋でしょ?」と語ると、星弥は「もう何だか、はああ。8階だろうが7階だろうがどうでもよくなってきた!」と暴言を吐きながらも連絡を取り始めるのだった。


「兄ちゃんも怖いと思ったら怖いって言ってしまったほうが良いのに、どうして強がるんだろう。俺にはよくわからない。」


侑斗が口にはしなかったものの星弥の考えや行動をじっくりと伺うこと1時間が経過したころだった。小田切や勝本から返事が返ってきたことを侑斗に告げると、侑斗は「返事はどうだった?」と訊ねると、星弥は「小田切さんと勝本さんから了解は得たが後1人は応援必要という答えだった。今から都合のあいている人を探すよ。」とトホホな口調で話すと、侑斗はあることに気が付き始めた。


「俺の同級生で同じ時期に霊能者になった、不動産会社に勤める原田洋祐に連絡が取れるかどうかちょっと聞いてみるよ。休みかどうかは分からないけどね。しかも今は地元の佐賀から離れて出張先の大阪市内にいるみたいだしね。」


侑斗がそう話すと、星弥は「頼む。連絡して。」と話すと侑斗はすぐその場で連絡を取り合うと、すぐLINEの返事が返ってきて侑斗は星弥に内容を伝え始めた。


「ちょうどシルバーウィークに旅行に行きたいなというのがあって休みは取っていたけど、緊急の依頼なら引き受けても差し支えない。ただ、千日デパート火災跡は俺も何回か通ったけど、あそこは俺が見た関西にある心霊スポットの中で群を抜いてきつい。俺は何回かあの建物の前を通ったけどきつすぎて一度も入ったことがない。」


原田の返事に星弥は「きつい?どういうこと?」と首を傾げると、侑斗は「心霊現象の報告にもあったけど、霊感のある人は入ることが出来ないほどってことなんだろうな。」と話すと、星弥は「はああ。まあ行って見たらわかることなんだろうけどこれはちょっと憂鬱になりそうだ。」と語りながらまた深いため息をつくのだった。


そして9月13日 土曜日の朝を迎えることになった。

星弥と侑斗は福岡空港に向けて朝7時にはそれぞれの家を出ると、福岡空港で待ち合わせをしてから関西空港行きの飛行機に乗り大阪へ。関西空港から難波へは直通の特急電車に乗り向かうことにした。


難波駅で原田、小田切、勝本の3人と合流したところで5人は近くのレストランで軽く昼食を取ってから、依頼元である千日デパート火災跡へ徒歩で向かうことにした。


千日前アーケードを前にした一同はその時点でただならぬ気配を感じていた。


小田切が「ここは曰く付きって聞いて居たけど、これはさすがにきつすぎる。」と話すと、勝本は「7階か8階のビルのベランダからだろうか、飛び降りるような人が何人も見えた。ビルそのものも白い靄のような、火災があったあの当時にフラッシュバックしたような感覚にも陥る。」と話すと、隣にいた原田は茫然とビルを眺める侑斗を見て「だからここはきついって言った。」と話すと、侑斗は「まさかここまできついとは、俺も正直想定外だった。入っていけるかどうかそれすら。」と話すと、星弥は「ここまで来たなら仕方がない。思い切って入るしかない。正直言って俺も怖いのは怖いんだ。」と打ち明けたながら、目の前の横断歩道を渡り始める。


そして家電量販店の1階の入り口を前にして、星弥が「白い靄のような何かが目の前に、でも前に進んでいかないと話にならない。行こう!」と強く言い切ると、一同は店内へと入っていくと、7階のフロアに行くためのエスカレーターへと乗り始めると次第に霊障に悩まされるのだった。


「投稿にあった”髪が焼け焦げた複数の女性を見た”というのだがさっきすれ違ったのがあの目撃例にもあった女性の霊なのだろう。上層階になればなるほど、熱い。喉が痛くなるほど喉が渇いて乾いて、汗も止まらない。」


侑斗が霊障と思われる症状を打ち明けると、星弥があることに気付いた。


「そうか。だからトイレに御霊が集中するのか!」


星弥がそう話すと、「7階に行くまでに6階のフロアのトイレに検証のために立ち寄ってみよう。」と切り出すと、一同は6階まで上がってきたところでトイレに向かうと、検証のために霊視を行うことにした。


「髪の毛が焼け焦げた女性なのか、煙を吸わぬようにしてハンカチで口元を覆い乍ら水を求めてトイレにやってきた。トイレの水をハンカチに湿らせた状態で少しでも逃げやすい状況を作ってここに集まってきたのかもしれない。周囲の人間がパニック状態になって冷静な判断が誰しもができぬ状態の中で、煙を吸わない方法で脱出方法を模索しなければいけない中で冷静な判断が出来た人がこのような策を打ち出したのだろう。しかしながら、同じことを真似して集まろうとした人だかりによって、巻き込まれて犠牲になられた方がいらっしゃるみたいだ。」


侑斗が透視した結果を伝えると、小田切は「やはりそうか。」と話すと、勝本は「ここに来るまでに可能な限り火災の情報について調べてきたんだけど、火災設備の不備は勿論のこと、火災が発生した際なら”火災発生”の館内放送が同時に流れるはずがこの7階のプレイタウンには流れず、また食い逃げ客を防止したいという経営サイドの思惑によって避難階段に通じる扉の前に荷物を積んで閉鎖をするなど、安全性が軽視され金儲けをしたいがための施設に過ぎなかったってことだろう。スプリンクラーすら設置されていなかったというのも、これほどの施設ならばあって当たり前なのにそれすらなく、避難時の際の対応も万全ではなかったために、全てが人災によって起こりえたのだろう。亡くなった方はどんなに年月が経てど報われないだろう。」と話すと、星弥は「7階に向かおう。俺もさっきから水ばっか飲んで、居れば居るほど火災現場で救出しているのと同じような錯覚に陥る。」と話すと、額からの汗が止まらない小田切は「そうだね。7階に移動しようか。俺も暑くてしょうがない。」と切り出して、一同はトイレを後にして7階を目指した。


そして7階に着いたと同時にエスカレーター脇には、亡くなられた方達なのだろう、折り重なるようにして倒れている姿を目撃して思わずゾッとしながら、投稿をしてくれたポン汰さんが働いしているというゲーム売り場のコーナーに移動すると、饗庭兄弟の姿を見ただけで近付くと「遠いのにわざわざ来てくれて有難うございました。ところで霊視した結果はどうだったんですか?完全除霊までは出来ないと僕も分かっているので無理なお願いはしないのですが、霊能者の意見を聞きたいです。危険なのかどうなのかジャッジを下して頂きたいです。」と話すと星弥が重い口調で答えた。


「ここに辿り着くまでに、まず僕が見たのは髪が焼け焦げた女性の、恐らく亡くなられたプレイタウンの女性の御霊だろう。今時珍しい70年代に流行ったであろう服装だったのが特徴的で、同時に髪が焼け焦げていたのと、頬には火災現場にいたのだろうか煤のような跡が見受けられた。恐らく一酸化炭素中毒でこの世を去れたのだろうと推測されるが、トイレにも水を求めて彷徨う御霊を複数見た。今回の依頼のために霊能者が5人集結しているんだけど、喉は痛いぐらいカラカラになって、汗もまた上層階になればなるほど滝のように流れ、まるで火災現場にいるかのような感覚に陥った。大規模な御祓いを建設当初は行い、5階と6階のエスカレーターが途中から登り口と下り口が反対になるような構造にすることにより7階で亡くなられた方々の御霊が下に降りてこないようにしているのも、それだけこの地が僕達のような霊能者では計り知れないと言いますか、僕たちは除霊をして御祓いをすることはできます。ただ志半ばで無念の死を遂げられた方達のこの世に対する未練の大きさは我々ではどうしようもありません。生きていたら子供の成長を見届け、子供が結婚したら孫の誕生を待ちわびていただろう。普通の人が当たり前に思う幸せな日常を奪われたのですからね。あくまでも対策と言いますか、心の持ちようではあるのですが、一つアイディアがあります。それはここで彷徨う御霊は未成仏の浮遊霊です。ピンと来ないかもしれませんが、ここでお亡くなりになられた方々は死ぬ間際まで”生きたい”と必死になってパニック状態に陥りながらも必死になって逃げようとされた方達です。自我や自制心すらない状態で、生き延びようと死んでもなお逃げ道を探し回っているのです。また浮遊霊ですので、地縛霊と違うのはどこであろうが憑いてくる危険性があります。ただ地縛霊と違う点が一つ、それは生者に対して禍を齎さないということです。千日デパート火災跡に似たような場所が、他にあってそれが青森の八甲田山。有名な八甲田雪中行軍遭難事件があったあの地と全く同じです。我々としては無くなられた方々に追悼の意を持って接していたら悪さをすることはないと考えていますし、共存していくような考え方でこれからも働かれたほうが良いと思います。我々としては申し訳ないが、そんなアドバイスしかポン汰さんにすることが出来ません。」


星弥が話す内容にポン汰は深く頷きながら「わかりました。」と言葉少なげに語った後に「出来る限り、火事でお亡くなりになられた方々の心からの追悼を忘れないようにしていきたいです。」と話し、深々と頭を下げてお辞儀をするのだった。

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