田原坂公園を後にした秋庭と侑斗は車の中で談笑し合いながら次の観音の滝へと向かうために、予約しておいた日田市内のビジネスホテルへと向けて車を走らせていた。
侑斗が秋庭の長時間の車の運転を気遣ってか、今度は侑斗がハンドルを握る形で運転をしていると、秋庭が侑斗に「観音の滝ってさ、佐賀の唐津にもあるじゃん。だからだろうか、”観音の滝 心霊”って調べても日田市内の観音の滝にはたどり着かないんだけどこれって素直に喜んでいいのか、饗庭君的にはどうなんだよ。」と切り出すと侑斗は「僕も慰霊の旅路でこれまで心霊検証依頼のオファーは、唐津市の観音の滝の信憑性を確かめてほしいっていう内容はありましたけど、大分の観音の滝はなかったですね。なので改めて今回はGoogleマップのストリートビューでどんな滝なのかも前もって調べておいたんですけど、まあ秋庭さんも調べたらわかりますよ。正直何かありそうな気はするんですよね。」と切り出すと、秋庭は「何だよ。勿体ぶらないで教えてよ。」と質問すると、侑斗は「調べたらわかりますって。これは言葉で説明するより写真で見たほうが早いですよ。」と答えたところで、秋庭は持っていたスマートフォンで観音の滝を調べることにした。
秋庭がスマートフォンのGoogleマップのアプリを眺めながら、侑斗に「国道210号線に面しているこの滝だよね。確かに写真で見る限りでは駐車場もないし、バス停もあることからバスの運行を妨げないようにして駐車をしなければいけなくなってくるから心霊観光地としてはちょっとと言うのはあるけど、それが気になったのかな?」と話すと、侑斗は「ストリートビューで見たらわかると思いますよ。何故、どうしてそこに歩道橋を作ったのか訳の分からないところにあるんですよ。それを見て頂きたいんですよ。」と不思議に思った点を説明したところで、秋庭はGoogleマップのストリートビューのアプリをクリックして検索をしてみることにした。
秋庭が検索して出た結果をじっと見ながら侑斗に「これって観音の滝を、ほら前がバス停になっているから歩道橋が上がれるようになっているところの付近が車の停車スペースがあるし、車で来た観光客のために造られたんじゃないのかな。」と答えると侑斗は「その歩道橋は山のほうへと繋がっていて観音の滝へ下りれないようになっています。しかしその裏の道を調べてみたのですが、この歩道橋って一体どこに繋がっているのか?と不可思議に思うほど裏の道に繋がっているわけでもないんですよ。となってくると、一体何の目的で?不自然ですよ。滝の近くになればなるほど、どうしてそこに意図的であったとしても訳の分からないところにモザイク処理が施されているので、非常に考えたくはないのですが滝の名前が観音の滝ですので、この歩道橋を造った狙いとしては、あの世の世界へと繋ぐ歩道橋と考えられてもしょうがないと思います。」と侑斗なりの考えを話すと、秋庭が確認のために再度ストリートビューを改めて見ると「確かに、これは何のために造られたのか、写真ではさっぱりわからないな。」と切り出すと、侑斗は「因みに以前に足を運んだ兄曰くその歩道橋も心霊スポットの一つとして取り上げられているみたいですよ。歩道橋が造られた当初は利用する人がいたんでしょうけども、今となっては”何の目的で?”というような状態らしいんです。利用する人も殆どいないようなので足元は落ち葉で埋め尽くされ雑草も生え状態とのことです。心霊現象として報告されているのが子供の霊を見たという目撃例が後を絶たない、その他は女性の霊を見たというのがあるみたいです。また観音の滝では、依然としてどうしてそれが起きるのかが全くもって理由が分かっていないのですがカメラで撮影を行おうとした際にピントが合わなくなるという報告があって、兄も実際に試しにやったそうですが本当にピントが合わなかったそうです。」と話すと、それを聞いた秋庭が苦笑いをしながら「心霊スポットとして聞いたことがそんなにないから大丈夫だろうって思っていたのに何それ。警察官の饗庭君のお兄さんが体験した事ならそれもうガチじゃないか。」と語ると、侑斗は「兄も霊能者として霊視はしたんです。しかし子供の霊による仕業なのか、女性の霊によるものなのか、分からぬまま帰ってきたんだそうです。兄は僕にこう教えてくれたんです、山も近いし川もすぐ近くに流れている立地条件から察してやはり霊が集まりやすい状況が揃っているそうです。その上、立地不明な歩道橋があるから、歩道橋を造った目的としてはやはりあの世への架け橋じゃないのかという事でした。そう考えたらあんまりチョイスしてほしくない所を市長は選んだことになりますよ。」と一通り兄星弥が説明したことを話したところで、秋庭は「知らなくてもいいほうが天国だってことか。」と聞き出すと侑斗は「知らないほうが天国も何もあの世は天国ですからね。」と言い返したところで、秋庭は「田原坂でも大概嫌な体験をしてきたのに、何でこんな意味不明なところをチョイスしたのか市長の趣味が悪趣味!ってことだけは言えるな。」と語ったところで二人の乗る車は予約しておいたホテルに21時過ぎに到着した。
部屋に入った二人は途中のサービスエリアで購入したおにぎりやパンなどを食べ始めると、秋庭は侑斗に「饗庭兄弟としてボランティアの霊能者の活動をしているけどぶっちゃけた話、それをして何か得したことってあるのか?」と訊ねると、侑斗は「得した事って言いますか、まあ最近は殆ど心霊スポットの検証依頼ばかりが入ってくるんですけど、オカルト系の番組が主流だった時は普通に霊障の相談依頼などもありましたね。兄は髪の伸びる人形の御祓いの依頼の助手を引き受けたことがありましたし僕もありますね。あれは黒い影が付き纏ってくるという内容でしたね。心霊スポットの検証依頼で霊が居ましたので除霊をしました!なんて報告をしたとしても、喜ぶのはその土地を管理する者か或いは市町村ぐらいですからね。なので本当に霊障に困っている人の手助けになって問題が解決したときこそは、何度も何度も長年抱えていた悩みが解決されたような感じで”ありがとうございます、ありがとうございます”ってペコペコと頭を下げてお礼を言って下さるんです。そのときに改めて霊能者として活動をしてよかったなと思うんです。そうじゃなかったら本当に命を削る行為そのものですからね。兄は犬鳴ダムで一度死にかけてますし、僕も九千部山で取り憑かれてますからね。祟りだ、呪いだ、オカルト系の番組はこぞって恐怖を煽るようにして主張しますけど、これは冗談抜きで危ない仕事なんです。分かりやすく言うなら高層ビルの窓拭きの清掃があるとしたら、それを命綱なしで行うのと同じことです。僕達が霊能者として行う除霊や御祓いは常に危険と隣り合わせなんです。」と話すと、秋庭は「だったら続けないほうが身のためじゃないか。なのにどうして続ける必要があるんだ?」と聞かれた侑斗は「僕達のような目に見えぬものと対峙する存在がいてこそ霊能者という職業は必要なんです。あからさまに目に見える、証拠も残るようなものであれば警察署に駆け込めばいいことです。しかし目に見えぬ、根拠もないが何かを感じる、それだけでは警察は動きませんよね。証拠不十分ですからね。相談する相手がいないときにはじめて僕達のような霊能者のところに相談に駆けつけるんです。そのためにも活動をしておいたほうが何か起こった際に相談が出来る窓口がいつでもあるわけです。」と説明をすると、秋庭は「霊能者って大変だよな。何かあれば霊の存在を否定的に考える人からインチキだと言われるし、ましてや化学や物理の進化と共に霊のような目に見えぬものはこの世の中には存在しないということが明らかにされている以上、御祓いや除霊は宗教における儀式としか思われないからね。中には精神異常者ならではの心の錯覚とも捉える人もいるから、難しい側面があるね。」と侑斗に対して同情をすると、侑斗は「まあ今も昔も霊能者が背負う問題は変わらないという事です。」と話したところで、二人は食べ終わってすぐにシャワーを浴びると、23時過ぎには就寝することにした。
そして明くる日 2025年10月23日 木曜日の朝を迎えた。
二人は朝の7時に起床すると、朝食をとるために1階の食堂へと足を運ぶと、テーブルに並んであるパンやおにぎり、味噌汁やミネストローネやクラムチャウダーといったスープ類、サラダやお惣菜などが並んであるところから適当に選んで皿に入れて盛りつけたところで空いていたテーブル席に座ると二人は黙々と食べ始めた。
朝食を食べながら侑斗は秋庭に「まさかと思いますがあんな狭いスペースで、相手だって車で来ることでしょうから、あんな駐車スペースが限られている場所で待ち合わせなんてことはないですよね。」と訊ねると、秋庭は「ああ。勿論だよ。予定が変わった際に前もって実は今回担当して下さる、日田市役所の白岡さんとは今日になることは打合せしていたんだ。その際に駐車スペースの話は聞いて居て、来るときはわたしの車で案内しますので、日田市役所まで来てくださいということでアポを取っておいたんだ。約束の時間が9時なので、少なくとも視察は午前中には終わりそうだ。」と説明をしたところで侑斗は「午後から兄が嫌がる曰く付きの、犬鳴ダムってことですか。」と質問すると、秋庭は「日程的に考えたら午後から犬鳴ダムの視察になるね。映画の犬鳴村(2020年上映・清水崇監督作品)でも話題になった所だから、比較的に映画を見てきたという観光客も多そうだしね。」と話すと侑斗は「あんな曰くつきに観光客が居たらそれこそ物好きですよ。福岡って佐賀にある心霊スポットよりも圧倒的に恐怖度においては群を抜いてますからね。近くに力丸ダムってのもあるんですけど、そこだって殺人事件がありましたから。宮若市は曰く付きの、しかも過去に事件や自殺が起きたという化けダム(=お化けが出てくるダム)を2か所抱えていることになりますからね。」と語ると、秋庭は思わずこう呟いた。
「旧犬鳴隧道に行かなくて済むと考えたら気は楽だと思うけどな。でも気になるのが約束場所としてダムではなく宮若市役所に来てほしいという事なんだよ。」
秋庭がそう話し終えると侑斗は「それって絶対何かあるような気がします。嫌な予感が凄くします。」と話すと秋庭も「まあ、忙しいのに俺達のために案内をしてくれるんだから有難いと思わないといけないからね。明日は佐賀からって言っていたけど、先ずは長崎の原城跡を視察してから蟻尾山へと向かって、沖縄に移動しよう。さっさと終わらせてさっさと心霊レポートを提出しようぜ。」と提案したところで、侑斗も「そうですね。早く終わらせましょう。」と答えたところで二人は朝食を食べ終えて部屋に戻ると、8時20分過ぎにはホテルをチェックアウトして約束場所の日田市役所へと向けて出発した。
「悪いな。俺の車なのに運転させてしまって。次は俺が運転するよ。」
秋庭が運転をする侑斗に気遣うと、侑斗は「何を言っているんですか。火曜日から僕が代わりに運転するまで秋庭さんずっと長時間車を運転しっぱなしじゃないですか。それだと絶対に疲れます。これからは僕が秋庭さんの代わりに車を運転します。いかんせんどの心霊スポットに行くにも距離がありますからね。沖縄は飛行機で行くから問題はないんですけどね。」と話すと、秋庭は侑斗に気遣いながら「何だか悪いな。でも最初の佐賀から鹿児島、鹿児島から宮崎、宮崎から熊本だから車の運転時間と言っても10時間を超えるか超えないかといったところだけどね。でもそう考えたらお互い様になるってことか。」と語ると侑斗は「そのほうが無難ですよ。僕はあちこち色んな所を走っているので慣れていますけど不慣れな人からしたらきついですから。」と喋っているうちに二人の乗る車は日田市役所に8時50分に到着した。
市役所の駐車場に車を一時停車することにした侑斗は秋庭に「どこで待ち合わせするとか一切聞いて居ないんですけど、どこか分かりますか。」と聞くと、秋庭は「ああ勿論聞いて居る。9時頃に市役所の出入り口で待ち合わせをしているから、そろそろ下りて市役所の入り口付近まで移動しようか。」と話したところで侑斗は「わかりました。」と答えた後に駐車措置を取ってから、歩いて待ち合わせ場所の市役所の入り口まで移動することにした。二人が市役所の入り口に辿り着いたときに、自動ドアの扉の付近で女性が手を振っていることに気付くと、秋庭は「白岡さんかもしれない。挨拶しよう。」と話すと、侑斗は「そうかもしれませんね。」と返事して、二人は駆け足で女性の元へ走り始めた。
女性は二人が近付いてくる姿を見てさらに手を振ると、近付いた二人に「ようこそ日田市へ。そしてマイナーな心霊スポットに興味を示してくれて有難うございます。本日秋庭さんと饗庭さんの案内役を務めさせていただきます、広報課に勤務する白岡明美と言います。どうぞ宜しくお願いします。」とにこやかな笑顔で出迎えてくれると秋庭は「忙しいのに僕達のために時間を作って頂き本当にありがとうございます。」と御礼を言うと、侑斗も続けて「ありがとうございます。本日は短い間ですけども色々と参考になるところは参考にさせて頂きたいと思います。」と深々と頭を下げたところで、三人は駐車場へと向かうと日田市役所の車で観音の滝へと向かい始めた。
向かう道中で秋庭は白岡に「僕達前もって観音の滝のことを調べていたんですけど、観音の滝の付近に歩道橋があるじゃないですか。あれってどう調べても何のために作られたのかの理由が記載されていないのですけど何かご存知ですか。歩道橋で子供や女性の霊を見たという目撃例があるみたいですよ。」と聞き始めると、白岡は「実は言うとわたしもどうしてあんなところに歩道橋があるのかは分からないんですよね。でも当初は観音の滝へと繋ぐ目的があって造られたのかもしれませんが、立地条件から断念したといった感じですかね。」と言って返事をすると、侑斗は「山道の途中の訳の分からぬところに訳の分からぬものなど造ってしまえば益々不気味な印象を与えてしまいかねませんよ。もう造っても役目を果たさないようなら歩道橋そのものを撤去したほうが良いと思います。」と指摘すると、白岡は「さあ。何ででしょうね。本当に要らないものならとっくの昔に撤去しているはずなんですけどね。残す理由があって残しているんだと思いますよ。」と答えたところで、三人の乗る車は観音の滝の付近へと到着するとバス停を通り過ぎた先にある駐車スペースに車を駐車させてから観音の滝へと徒歩で移動すると改めて滝の前で白岡から観音の滝と観音の滝で伝えられている心霊現象について語り始めた。
「観音の滝の前まで到着しましたね。この観音の滝はですね、耶馬日田英彦山国定公園にある、”慈恩の滝”、”桜滝”、そして”観音の滝”の天瀬三瀑の一つとしても有名な滝です。名前の由来は滝壁の中央部の凸凹の部分が観音菩薩のような形状をしていることから、観音の滝と呼ばれるようになり、別名琵琶の滝とも言われています。因みに観音の滝の落差は12mで幅が4mですね。先程車の中で侑斗さんから指摘があったと思いますが、この先に行った所にある遊歩道で主に心霊現象の報告が寄せられています。女性の霊や子供の霊などが多く目撃され観音の滝で写真撮影を行うと怪奇現象が起きるとも伝えられています。その怪奇現象の一つとされているのがカメラで写真を撮ろうとした際に何故かピントが合わなくなるというものです。あくまでも推測の域にしか過ぎませんが、目には見えぬ”何か”に対してピントを合わせようとしているのではという話があります。恐らくそれが幽霊ではないかということから、観音の滝が心霊スポットとして取り上げられる所以の理由にもなったのですが、過去に事件や事故などの情報はなく、ただどうしてピントが合わなくなるのか、女性の霊や子供の霊が出る理由については誰にもわかりません。謎のままです。」
白岡が話し終えると、侑斗は「それじゃあ早速ですが本当にピントが合わなくなるのかやってみましょうか。」と切り出したところで秋庭の顔を見ると、秋庭が持っていたカメラで本当にそうなるのか確認を行い始めた。
秋庭が滝を前に写真撮影をしようとしたところ、カメラにある異変が生じた。
「饗庭君、ピントが合わないってわけではないんだけど、さっきからカメラの調子がおかしいんだよ。滝には俺達以外の人は誰もいないのに顔認証するんだ。」
秋庭が侑斗にカメラに異変が生じたことを告げると、侑斗は「滝壁の凹凸の部分の観音菩薩を人と捉えて顔認証しているんじゃないんですか。色々と角度を切り替えてみてはいかがですか。」と切り出し、秋庭は滝の前からではなく滝の左側にある木々にピントを合わせようとしたがどうもうまくいかない。右側のほうにも焦点を合わせようとしたがやはりどれも正常に作動しなくなってしまった。
秋庭は侑斗に「何度試しても駄目だった。どうしてこんなにピントが合わない。顔認証が反応するのもおかしな話なんだよな。」と話したとこで、歩道沿いにある歩道橋へと繋ぐ目的で設置されたのか側道のような道に侑斗が気付くと、白岡に「あの道って一体何のためにあるんですか。まさか歩道橋の柵を乗り越えて、にしても歩道橋の下りる先が僕としては気になるんですよね。いやどうも納得のいく答えが出てこないんです。」と提案したところで、秋庭が「まさかあの歩道橋を渡ろうというのか?」と聞き出すと、侑斗は「そうに決まっているじゃないですか。じゃなかったら何が起きているのかが整理しきれなくなりますよ。秋庭さんが嫌なら滝の前で待っていて下さい。僕が今秋庭さんが持っているカメラで代わりに写真を撮ってきます。」と話すと秋庭は少し考えた上で「饗庭君がそこまで言うのなら、一人でここで待っていても心細いから一緒についていくよ。嫌な、陰鬱な雰囲気がしてならないんだよね。」と話すと、侑斗は「まあ何かありますね。それとしか今の段階では説明のしようがないですね。心霊スポット的にはしとどの窟と雰囲気は似ているような気がしますね。」と話したところで、三人は観音の滝を後にして歩道橋がある反対側の歩道に渡るために車道を渡ると、歩道橋の階段を一歩ずつゆっくりとした歩調で歩いていく。
上り終え、車道の上が覗ける場所にまで到着して改めて周りを確認する秋庭と侑斗。
そして侑斗が気になると語った歩道橋脇の柵を乗り越えた先にある滝の近くにまでつながる側道に目を向けたところで、「益々この側道がある意味が、歩道橋の柵が完全にふさいでいるうえに、なんにせよここ階段ですからね。観音の滝の観光客のために造られたのが目的ではないような気がします。」と説明すると階段の下のところまで下りてくると何もないと分かったのかすぐさま階段を上がり始めた。
階段を降りようとしていたところで侑斗が戻ってきたので白岡は侑斗に「どうしたんですか。下りてすぐまた上がってきたじゃないですか。」と聞き出すと、侑斗は「本当にここは事件や事故とかはなかったんですよね?」と念を押すようにして聞き始めると、白岡は「はい。そうです。今のところはそういう報告はないですね。」と答えると、侑斗は「歩道橋から離れて先程の観音の滝へと戻りましょうか。」と言って階段のほうへと歩き始めると、その場にいた秋庭が思わず侑斗に「一体何を見たっていうんだよ。それじゃ何の説得力にもならない。」と苦言を呈すと、侑斗は「兄が言っていた”あの世への架け橋”の言葉の意味が分かりました。ここはそういうところだったんですね。」と話したところで、三人は再度観音の滝の前へと戻ってきた。
そして白岡と秋庭に対し侑斗なりの霊能者としての意見を説明し始めた。
「ここで最初に到着して霊視検証を行った際に、目撃例にもあった子供の、僕が見たのは少年の霊でしたが完全に人里離れた、こんな交通量の多いところを果たして子供が行くのかとなると疑問でした。また女性の霊も確認をすることが出来ましたが、表情から察してもこの付近で自殺をした或いは事故に遇われて亡くなられた訳ではなさそうです。可能性として挙げられるとしたら、僕の兄が以前訪れた際に”あの世への架け橋”だということを僕に教えてくれました。恐らく歩道橋は霊道であり観音の滝は霊場なんです。死後に必ず訪れる場所だと想定して頂いたら分かりやすいと思います。ここに現れる御霊は禍を齎す可能性は皆無に等しいでしょう。これから昇天して成仏されてゆく方達ばかりですので、命ある僕達が出来ることはただ一つです。心から追悼の意を捧げるとともに、両手を合わせてあげることです。」
侑斗はそう語り終えたところで、滝の付近まで近づくと供養の為の御経を唱え始めた。侑斗が御経を唱えている間、白岡と秋庭はそっと深く目を瞑り両手を合わせていた。唱え終えたところで、侑斗が二人の元に戻ってくると白岡に「一先ず除霊ではなく供養のための御経は唱えましたので、日田市の心霊観光地としてPRをしても問題はないでしょう。ただやはり近くに駐車場は設置してほしいですね。」とお願いをしたところで白岡は「そうですね。場所が確保できるようにはしたいです。」と答え観音の滝での心霊検証を終えた。侑斗が出発前に念のために秋庭と白岡の御祓いをしたところで、三人は市役所にまで戻ってくると改めて案内をした白岡に御礼を言って、次の目的地である犬鳴ダムへと向けて出発した。時刻は11時を過ぎていた。
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