19時07分に福岡空港へと到着した侑斗は、20時20分に那覇空港に向かう飛行機の出発を福岡空港内の出発ロビーでじっとタブレットを片手に待つことにした。その間に秋庭から連絡がかかってきたので、侑斗はハッとなって電話を取り始めた。
「お疲れ様です。すみませんね。僕がいなくなってあの後は大変じゃなかったんですか。樫木さんも放心状態でしたけど、救急車に運ばれたりしましたか?」
侑斗が秋庭に訊ねると秋庭は「大丈夫だ。饗庭君のことは霊感の強い人が偶然にも遺体を発見したということは伝えた。ただ、対応してくれた警察官の方もさすがに”どうしてこんな人目につかぬような場所で仏に気づいたのか?”と物凄く首を傾げていたから、遺体を最初に見つけた饗庭君が犯人ではないってことは俺の口からしっかり説明しておいたよ。樫木さんもあのあと遺体から発する悪臭から失神してしまって、すぐ警察の人が救急車を呼んでくれたから、今きっと多分病院にいると思うよ。」と説明すると侑斗はほっとしたのか秋庭に「ありがとうございます。」と返事した後に秋庭から明日10月25日土曜日の日程の説明を受けることになった。「喜屋武岬の心霊観光地としての現地視察は朝9時からって饗庭君には言っていたと思うけど、一応待ち合わせ場所は喜屋武岬展望休憩所の付近に車が停められるスペースがあるんだって、そこで待ち合せしたいという内容だった。なのでそこまでは何かしらの交通機関を使って移動をしなければいけなくなる。那覇空港からは車だと30分ぐらいの距離で辿り着く場所みたいだし、タクシーで行ったとしてもそんなに割高にはならないと思う。あとホテルは那覇空港の近くのホテルに予約は済ませておいたから、あとでLINEのメッセージでホテルの名前と住所を記載したものを送信しておくから見ておいてね。ではいい報告を期待して待っているから、仕事であることを忘れてはしゃぎ過ぎるなよ。あと現地の担当の方が糸満市役所の方から俺のほうに連絡があって、現地に案内をしてくれるのは沖縄でも非常に有名な怖い話の語り部としても知られている怪談師兼タレントで糸満市の観光大使を務める杏美さんが侑斗の案内役をしてくれるそうだ。まさかとおもうが”きゃんみさき”(喜屋武岬)ぐらいは読めるよな?」と訊ねると、侑斗はハハハと笑いながら「読めますよ!”かむいこたん”(神居古潭)だって僕読めるんですから!と言ってて北海道なんて行ったことないですけどね。」と話すと、秋庭は「今のこれからの時期の北海道は寒いぞ~。もう少しあったかくなってからアタックしたらどうかな。そんなことはさておき、沖縄の地名や名称なら同じ九州の人なら読めない奴はいないよな!」と答えるとその後、二人でゆっくりと談笑しているうちに侑斗がちらっと腕時計を確認すると20時を過ぎたことに気付いた侑斗は「秋庭さん、俺20分発の飛行機に乗らないといけないから、出発ロビーから離れて搭乗手続きを済ませないとやばいです!電話切ります!また何かあったら報告をして下さい。それから蟻尾山での写真を撮っているのなら、また僕に見せて下さい。」と秋庭にお願いをしたところで、秋庭は「了解。沖縄土産は皆で分けられるちんすこうかサーターアンダギーが良いな~。」と話すと、侑斗は「わかりましたよ。二つのうちのどっちかを買ってくるようにしますね。」と答えて電話を切った。
そして20時20分発の飛行機に無事に座り始めると、シートに設置されてあるタッチ式のモニターを操作し始めると、アプリでインストールされてあるU-NEXTで見ることが出来る映画の一覧で気になったハクソー・リッジ(2016年アメリカ制作/メル・ギブソン監督作品)を鑑賞しながら、注文した機内食を食べながらのんびりしているうちに、飛行機は那覇空港へと向けて離陸した。
「ハクソー・リッジって何だろうって思ったら、沖縄戦じゃないか。でもこういう映画を通して沖縄戦での熾烈な戦いを見て、これから俺が行く喜屋武岬も調べると激しい激戦地だったとも記されているから、映画のシーンのような状況が幾度も繰り広げられていたんだろうな。改めて平和の有難さを痛感させられる。」
侑斗は沖縄戦を題材にした映画を見て、感慨深い思いになっていた。
「デズモンド(主人公)は凄いな。武器を持たない衛生兵として敵味方関係なく負傷者を救出したのだから、俺が同じ立場ならいくら親から”人は殺してはいけない”と教わっていたとしても仕事である以上絶対武器は持つな。」
映画を見た感想を誰にも聞こえぬように独り言で呟くと、侑斗の乗る飛行機が那覇空港に到着し、秋庭のLINEのメッセージで記載されてあった予約しておいたホテルへとタクシーで向かうことにした。到着したと同時にチェックインの手続きをさっと済ませ、予約しておいた部屋に入り始めるとさっとシャワーを浴びて秋庭からの連絡が入っていないかどうかを確認し始める。
「あ、秋庭さんだ。蟻尾山の写真を送るから確認して。ってある。見てみよう。ってかこれ、もー俺が見た木陰に潜む、俺達が発見した遺体の男性が写り込んでいるじゃないか。まだ市長には報告していないよな。早急に御祓いが必要だ。」
侑斗は改めて送られた不審な写真を確認した後に秋庭に連絡を取り、秋庭から送られた写真の御祓いを実施した。手慣れた手つきで御祓いを終えた後、日付が変わり24時30分頃には眠りつにつくことにした。
2025年 10月25日 土曜日
朝の7時30分に目覚めた侑斗は起床したと同時に身支度を済ませてから朝食が食べられるスペースへと足を運ぶと、さっと朝食を取り終え部屋に戻ってきたと同時にある人に連絡を取り始めた。
「あっもしもし、侑斗です。支倉さん、お元気ですか?今回僕の仕事のためにわざわざ同行してくれてありがとうございます。本日はどうぞ宜しくお願いします。」
侑斗が支倉に対してお礼を言うと、支倉は「侑斗君、那覇基地からすぐ近いから同行するのは良いんだけど、来週の月曜日から与那国への遠征が決まったからはっきり言ってすんごく忙しいわけ。でもせっかく佐賀から沖縄まで来てくれたんだし、侑斗君に個人的に見せたいと思うスポットは心霊観光地として推奨している喜屋武岬以外にもあるから、喜屋武岬の視察ってそう長くないよね?」と聞かれると、侑斗は「そう長くないと思いますよ。午前中いっぱいを見て頂いたら、終わると思います。」と言って返事をすると支倉は「あそこなんてオカルト系の番組で一度取り上げられたから紹介された噂の内容を信じ崖に向かって”ハナモー!”と叫ぶ人もいるんだけど、迷信の一つにしか過ぎない。前に一回訪れたけど、崖で心霊っぽい不思議な白い発光体は撮れたけど、今も自殺の名所ではないような気がする。」と語ると、侑斗は「兄ちゃんが喜屋武岬は投身自殺の名所だって言っていたんです。だからてっきり自殺の名所だと思っていたんですけど、今は違うってどういう事なんですか?」と支倉に対して訊ねると、支倉はこう答えた。
「喜屋武岬での投身自殺が後を絶たなかったのは戦時中にまでさかのぼる。アメリカ軍の攻撃に追い詰められ、多くの避難民が絶望した末に身投げしたのが喜屋武岬だ。今もこの地で、何度も投身自殺を図ろうとする幽霊の目撃談があるが恐らくだが戦時中に亡くなられた方の御霊だろうと俺は思っている。新たな自殺者を誘発するための行為とは思えない。沖縄は激戦地でもあったからそんなスポットが多すぎる。」
支倉の話す内容に侑斗は「その撮影された写真を見せてほしいんです。実在した人物で嫁入り前の娘さんが不慮の事故で鼻を切断してしまい悲しみのあまりに喜屋武岬で自殺を図ったというのがあって、その鼻のない女性が出てくるか出てこないかだけでも見たいんです。」と話すと、支倉は「写真は見せてもいいけど、その鼻のない女性ってのはいつ?どの時代に亡くなられた方?そういう噂って見た人がいるからこそその人の情報だけが独り歩きしやすいんだけど噂は鵜呑みにし過ぎないほうが良い。戦時中に亡くなられた可能性だってある。写真送るから、一旦電話切るね。」と話すと侑斗は「ありがとうございます。」と御礼を伝え電話を切った。
そして支倉から写真が送信されると、すぐさま確認した。
「確かに女性が崖から転落しているね。でもこれは女性ではあるけども、噂された鼻のない女性ではない。」
写真を確認し終えた後、すぐに両手を合わせ拝んだ。
そして、8時20分過ぎにホテルのチェックアウトの手続きを済ませた侑斗は、ホテルのガレージまで来てくれる支倉の車の到着を待つことにした。23分頃に支倉の乗る車が到着すると、助手席に乗り込み喜屋武岬へと向けて出発した。
侑斗が支倉に「今日はお忙しい中、時間を取って下さりありがとうございます。」と御礼を伝えると、支倉は「沖縄の方言でハナモーは”鼻がない”ことを指すんだけど、それを叫んでも意味はないからね。」と笑いながら話すと侑斗は「わかっています。ハナモーと叫ぶ必要性は無いと思います。噂にある海に引っ張られてしまう危険性はありませんから。それが真実ならば霊障ではありません。超能力の世界ですよ。」と話すと、支倉は「確かにね。」と答えた。
笑い乍ら、談笑し合っているうちに車は喜屋武岬の喜屋武岬展望休憩所の付近に車を停車させると、侑斗が支倉に「送ってくれてありがとうございます。これから僕と案内役の杏美さんと共に喜屋武岬の心霊観光地としての心霊検証を行うのですが、支倉さんはどうされますか?こういったらあれなんですけど、僕と共に心霊検証を行って頂けませんか?」とお願いすると、支倉は「え?心霊検証?そんな話は聞いて居ないんだけど、小城市から僕に対していったいどれだけの給料が発生するのかな?」と訊ねると、侑斗は少し考え始めた末に「小城市からは出ません。僕が依頼料金を支払います。」と答えたところ、支倉は笑いながら「冗談だよ、冗談。俺だってボランティアだったの忘れていないか?」と聞かれ侑斗は失笑しながら「冗談がきついよ。本当に払わなきゃならないのかと思うと真剣に考えましたよ。」と答え、二人は平和の塔を前にして杏美の到着を待った。だが約束時間の9時を過ぎても杏美は現れず侑斗は思わず「沖縄の人は、沖縄時間ってのがあるから嫌なんだよ。約束時間を守ってくれよ。」と苦言を呈すと、支倉は「仕方がないだろ。ウチナータイムっていって沖縄だけ特殊なんだから、30分、1時間遅れることは当たり前だと解釈しているんだから本州とは考え方が違うんだよ。」と話すと、侑斗は「沖縄の人ならではの時間感覚は分かっていましたけどね。でも待っているうちに教えてほしいんです。僕をつれて行ってほしいという場所は何所なんですか?」と支倉に訊ねると、支倉は「ああ。そうだったな。一応那覇基地から近い激戦地の史跡を紹介したいなと思っていてね、心霊観光地として推奨したい心霊スポットもあるけど心霊スポットではない史跡もある。まずひめゆりの塔から行ってその次に平和記念公園、アブチラガマ(糸数壕)、海軍壕公園、最後に前田高地を見に行こう。沖縄版慰霊の旅路だね。」と提案すると侑斗は「そんなに回るところが多かったら、一日では回り切れませんね。僕は良いですけど明日まで続きますよ。」と話すと、支倉は「さすがに移動距離が短いとはいえ一日でこれだけのスポットは回り切れないよ。海軍壕公園と前田高地は明日に行こうと考えている。それに霊能者としてはきつすぎて長居できるような場所じゃないからね。あまりにも血生臭い歴史が未だに残っているから。」と話すと侑斗は「ここに来るまでに飛行機の中で見た映画のハクソー・リッジで見て改めて思いましたよ。言葉には言い尽くしがたいほどの無念が残っていてもおかしくないことですから。」と話すと、支倉は「本当はもっと紹介したいことはあるんだけど。」と語ったその瞬間に後ろから女性に声を掛けられた。
「佐賀から来られた秋庭さんと饗庭さんですね。糸満市役所から話は聞きました。糸満市出身で怪談師の杏美と言います。今日は宜しくお願いします。」
杏美が二人に挨拶をすると、侑斗が「俺の隣にいる人は秋庭じゃないんです。沖縄でボランティアの霊能者として活動している支倉といいます。」と語り支倉の自己紹介をすると支倉が「ボランティアで霊能者、本業は陸上自衛隊那覇基地駐在の支倉です。宜しくお願いします。」と言って挨拶すると、杏美は「え?霊能者が二人来るなんて聞いて居ないんですけど秋庭さんはどうしたんですか?それだけ沖縄の心霊スポットは霊能者が複数いないとまずいってことですか?」と訊ねられた侑斗は「秋庭は諸事情により沖縄に行けなくなりました。僕と支倉の二人で検証を行う形になりましたので、今日はどうぞよろしくお願いします。」と言って説明をすると、杏美は納得したのか「諸事情なら、あまり深入りすることでもないので、今日は心霊観光地の一つとしてチョイスしてくれた喜屋武岬の怪談についてお話をしたいと思います。」と語り、三人が改めて自己紹介をし終えてから平和の塔の裏側の崖を眺めることが出来るところからじっと海を見つめながら案内役の杏美から説明を受け始める。
「喜屋武岬は本島の南端に位置し沖縄戦跡国定公園の一つとして定められています。ここでは米軍に追い詰められた末、自決するために身を投げたという悲しい歴史があります。高さ10~20mの断崖が切り立つ岬で、この岬を境に太平洋と東シナ海に分かれるんです。ここから眺める青い海がとても綺麗ですよね。水平線が曲がって見えるのも特徴的なのでここに来ると地球が丸いことが実感できますね。因みに本島の最南端は海に向かって左側に突き出た岩が”荒崎”といって、この荒崎といわれる場所が本当の最南端になるんです。わたしたちの後ろにある慰霊碑の平和の塔は1969年(昭和44年)に建立されたものです。」
杏美が語り終えたその時に侑斗が杏美に「そういえば僕、一つ気になるのがありまして、平和の塔の近くにあったプレートが目に留まったんです。」と語ると、そのプレートが設置されているところまで支倉と二人で杏美を案内すると、侑斗はプレートに書かれてある内容を読み始めた。
”笑って生きてくれている。
それが家族や友人の願いです。
いのちをたいせつに。
糸満市”
スマイルマークと共にハートが書かれたメッセージを侑斗が読み上げると、杏美に「喜屋武岬は激戦地だったことは沖縄戦地の国定公園に指定されていますから、間違いではないと思いますが、このプレートはどういうことなんですか?」と訊ねると、支倉は「実は僕、一度ここに来ていたんですけど、夜だったんでプレートの在処には気づかなかったのですが、自殺の名所とされるのは本当だったんですね。」と訊ねると、杏美は「ここは沖縄が戦場だった時、アメリカ軍の攻撃により追い詰められた末に逃げ場を失った避難民の方達が多く飛び込みました。それは事実です。ですが同時にこの地は今もなお自殺者が後を絶たないためにこのプレートが設置されました。書かれているメッセージの背景にある綺麗な海が印象的ですよね。このメッセージを読んでどうか自殺を思いとどめて欲しいという糸満市の願いがあります。」と語ると、侑斗は「分かりました。ところで僕達”ハナモー”の怪談話も伺いましたが、このこともご存知ですよね?」と訊ねると、杏美が「ハナモーは沖縄では知らない人はいないほどの有名な怪談話だから勿論知っています。説明します。」と語り話し始めた。
「”ハナモー”には色々なバージョンがあるのですが、ある女性がいて、その女性が衣装を作っている最中に誤って自分の鼻を削ぎ落してしまい容姿が酷くなった女性を夫が捨ててしまうんです。女性はショックのあまりに海岸に身投げしたとされるのがこの喜屋武岬です。一方の夫は浮気相手の女性と一緒に海岸に現れ女性に対してからかい始めると、海に向かって”ハナモー”と叫んだところ静かだった海が突如荒れ狂い夫と浮気相手の女性をさらってしまったという内容です。それから喜屋武岬では”ハナモー”と叫ぶと女性の霊が海を荒らすとされ、ハナモーというワードがNGになりました。そのほかは、久米島にとても綺麗な娘がいました。その娘さんの縁談話が決まって娘さんも”早く嫁さんになりたい”といって婚礼の日を心待ちにしていたそうですが布の裁断中に鼻を落としてしまう事故に遭い、女性は”こんな顔ではお嫁には行けない”と悲嘆した末に喜屋武岬で命を絶った。あとは、美人過ぎる妻がいてその妻があまりにも男性から憧れの的として見られていることに対して夫が嫉妬していたんでしょうね。”お前が浮気をしないか不安でしょうがない”と夫はいつも妻の顔を見ると呟いていたそうです。夫の思いを知った妻は”あの人に心配を掛けたくないからこの顔を美しくないようにしよう”と決断し自分の鼻を刃物で削ぎ落してしまうんです。すると夫は妻に対して”何て酷い女だ。もうお前なんかしらん”と言ったそうです。夫の心無い一言に妻は悲しみに打ちひしがれた末そのまま海に身を投げたというのがあります。いずれにしろ、どのハナモーの話が真実なのかは分かりませんね。」と語ると、支倉は「普通に考えても裁縫中に鼻を削ぎ落すほどの大怪我を負うなんてことはギロチンのような器具で布を裁断する作業があったにしても有り得ないと思いますので病気を発症したと考えるのが筋でしょうね。」と話すと杏美は「ちなみにハナモーは鼻のかけた者、鼻かけという意味もありますが、それは梅毒患者に見受けられる症状とも伝わっています。15世紀で当時は梅毒が琉球を起点に長崎、境港の貿易港から日本中に広まったとも伝えられていますので、夫が出張先で浮気をしていることを知った妻が梅毒の発症を機に鼻を剃った末に自殺を図ったと考えたほうが自然な流れかもしれませんね。」と話すと、それを知った侑斗は「いずれにしろ、ここは悲しい最期を遂げた方々の無念の思いが彷徨っています。今僕がこうして立っているだけでも複数名の御霊をキャッチすることが出来ました。戦争が起きていなければ、亡くなられた方々のこの世に対する思いが溢れていて、僕も支倉さんも耐えられません。ハナモーも非常に可哀想だと思いますが、それよりも戦時中に亡くなられた方々がどうか安らかに眠って欲しいことを祈り捧げるしかありません。」と語り杏美に説明すると杏美は「そうですか。まだ戦時中に亡くなられた方の霊が彷徨っているんですね。」と侑斗に話すと、隣にいた支倉が「自殺者のこの世に対する未練もありますけども戦時中に集団自決を余儀なくされた方々の悲痛な叫びが僕達には聞こえてきました。ここは慰霊目的では来ないほうが良いでしょう。戦時中に亡くなられた方の大半が未成仏で、地縛霊ではない、浮遊霊ですから、場所がどこだろうがついてきます。自殺者の御霊は次の自殺者を探し求めるためその地にとどまり地縛霊と化すパターンですが、戦時中に亡くなられた方の場合はここに訪れた誰かに救いを求めて後をついていくんです。戦争さえなければ本当は生き続けたかった方達ばかりですから、やはりここは供養のためにも両手を合わせ拝む等の行為はするべきでしょう。」と語った後に侑斗も「心霊観光地としてというより、亡くなられた方々の供養のために来るべき場所なんだと思います。」と続けて話した。
二人の案を聞いた杏美は「そうですね。糸満市の心霊スポットとして伝わっているのはひめゆりの塔、平和記念公園のほかにも白梅の塔や轟壕もあるんですけど、どれも全て戦時中に亡くなられた方達の霊が現れるスポットばかりですからね。」と話すと侑斗は「心霊観光地としてはより多くの方が供養のために足を運んでほしいことを僕達としては応援したいです。そのためにも出来る限りのお手伝いをします。彷徨っている御霊は僕が見る限りでは生者に対して禍を齎すなんてことはないので、悪ふざけなんてしなければ何事も起こらないと思います。」と語ると、杏美は安堵したのか侑斗と支倉に「ありがとうございます。」と御礼を伝えると、侑斗がその場で杏美の御祓いをし終え、現地解散する形となった。
侑斗が自身の御祓いをさっと済ませると、自身と乗ってきた車に御祓いを実施した支倉の車に乗り込むと、「杏美さん、1時間も遅れてきましたよ。それなのにあの表情でしかも俺達より先に来るまで出て行ってしまう。どういう神経なんですかね。今時刻は12時ですけど、これからどうしますか?」と訊ねると、支倉は「喜屋武岬の撮らなければいけないところの写真撮影はもう終わったでしょ?だったら次は沖縄慰霊の旅路で近くのひめゆりの塔にでも行くか。」と切り出すと、侑斗は「沖縄に来たらやっぱり見過ごすわけにはいかないですからね。行きましょうか。」と答えて、二人はひめゆりの塔へと向け出発した。そして移動中の車内で侑斗は市長に九州各県の8か所の心霊観光地としての心霊検証を無事終えたことを報告するのだった。
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