笠置観光ホテルを後にした一同は、御祓いを依頼したオーナー一族に女性の霊の除霊を完了させたことを電話にて伝えたところ、”女性の霊の御祓いの対応をして頂き本当に有難うございました。笠置町に負担を掛けぬように解体費用を何とかこちらも工面していずれにしろあの建物を解体して廃道に面した敷地でもありますのであの土地は植林をしたうえで笠置町に譲渡をしたいと思います。”という明るい前向きな回答を頂いたと放浪中ちっちから伝えられた侑斗は「そうですか。僕は解体業者ではないので正確な金額を叩き出すことはできないのですが、延べ床面積から計算するとざっと1億に近い金額の解体費用が掛かってくるんじゃないのでしょうかね。男鹿プリンスホテルもそうでしたが、敷地の広さのみならず建物の構造にもよって解体するのに時間と手間が掛かります。そのため、お金がめちゃくちゃ掛かるんです。恐らくですが建築されたときも非常に多額の費用が生じたのと同様に解体工事も莫大な費用が掛かってきます。普通の木造の一軒家を解体するのとは全く異なります。」と説明をすると、それを聞いて居たぱうちゅが「商業施設となるとそれだけ多くのお金が必要になるってことなんですね。」と話すと侑斗は「そうです。それをすべて市町村が管理して解体工事を行ってしまうと、その費用は全て税金で行わなければいけなくなるので、当然ながら躊躇します。多額の費用が発生しますからね、だから市町村サイドとしては土地の所有者に建物を解体していただきたいというのが本音です。」と話すとぱうちゅは「そうなんですね。だから全国に心霊廃墟たる建物が各地に点在しているのはそういう事情だったんですね。」と話すと、二人のやり取りを聞いて居た芦原は「少なくとも現存していていい理由などは存在しないからね。そこで借金をしても解体工事にこぎつけるのかそれとも費用が掛からないように建物が劣化してもう崩壊寸前となったときに依頼をするのか、不謹慎かもしれないが大地震を待つのか、今回のオーナー一族は何とか費用を工面してという答えからも解体費用を集め出して再び解体工事に着手したいという考えなのかもしれないね。」と語った。
三人で色々とやり取りをしている内に、放浪中ちっちから次に向かう心霊スポットについて大まかな説明が行われ始めた。
「次に向かう場所は、奈良県でも屈指の心霊スポットとされている天理ダムよ。ここから走って40分弱の所にあるわ。ここは奈良県の中で非常に有名な自殺の名所としても知られていて、自殺を図った人の御遺体が未だに発見されずにダム底に今も埋まっているという話もある。更にダムの周辺はカーブが連続していて、事故が多発しやすいスポットでもある。ここで目撃されている心霊現象としては、うつむく男性の霊が佇んでいる、受話器から血が流れだす電話ボックスや空中に浮かぶ少年の霊などがある。あとはバス停で写真撮影をすると霊が写るとも言われている。」
プロデューサーの放浪中ちっちが説明すると、続けて車を運転しながらディレクターが別の怪談話をし始めた。
「事故が多発している以外にも、自殺をされる方も多く、またかつてバラバラ死体遺棄事件があったとも伝えられていて、まあ死体遺棄事件に関してはネットサーフィンで調べても関係のないところばかりが出てくるためデマの可能性が極めて高いが、心霊現象が多発して起きていることには間違いないようだ。また天理トンネルでも過去にバイク事故が発生して若い男性が亡くなったとも言われており、今もなおその亡くなった男性の霊が現れるという話もある。その男性の霊の仕業だろう心霊現象としては二輪車に乗った若い男が憑いて来て、天理ダムと天理トンネルの間に差し掛かると消えるという話だ。天理ダムに関してもちっちさんが話していたように未だダム底で引き上げられていない白骨の遺体が沈んでいるとも、その他には山道で子供の霊が宙に浮かんだ状態で気味の悪い表情を浮かべながらこちらを見つめている、ガードレールから血が滲み出る、蛇の顔を持つ少年の霊が出る、夜中に展望公園の近くにある電話ボックスの受話器を取ると女性の泣き声が聞こえてくる、項垂れた若い男性の霊がカーブに立っているなどがある。自殺を図っただろう霊の目撃証言も、心霊スポット検索サイトに寄せられている内容としてはダムの上に生気のない御高齢の男性が立っていたともいう話があるから、恐らくはそういうパターンによるものが多いのだろうと推測される。現地に着いたら23時前になるから、まずこんな時間帯に走り屋以外の輩は現れないと思われるので、辺りを警戒しながら霊視検証を行うしかない。先ずは天理トンネルの検証から行おう。ただ車を停車出来る程のスペースがないために車で通り過ぎるしかない。」
ディレクターが語り終えたところで、侑斗は持っていたタブレットにインストールされてあるGoogleマップのストリートビューを見ながら「そうですね。天理トンネルからまず検証する必要がありますが、果たして検証する必要などはあるのかなあと言うのが正直なところですよ。芦原さん見てください。」と話すと、芦原に持っていたタブレットを見せ始めると、侑斗は語った。
「天理トンネルの天井付近を見てください。恐らく空気の入れ替えを行う設備だと思うのですが、どうしてここに宣伝があったのかどうかよくわかりませんけども、大々的にモザイクが掛かっているのが気になってしょうがありません。そのモザイクの形がよくよく見るとオートバイにも見えませんかね。心霊現象の一つとして挙げられているバイク事故でお亡くなりになられた若い男性によるものでしょうか?」
侑斗が芦原に語ると「うーん。ストリートビューでモザイク処理を施すのはAIによる画像処理だから、AIが恐らくだが人の顔があるからモザイクでぼかした可能性のほうが高い。」と話すと、横でじっと見ていたぱうちゅが「それにしても、こんなトンネルの天井に人の顔が集まっているのは不自然ですよ。足場があるわけでもないのに、ここに人がいるのはおかしいですよ。」と切り出すと、侑斗は「だからこそおかしいんですよ、人の顔があり得ない所に集結しているのですからね。」と語ると芦原が更に侑斗の持つタブレットで天理ダムと検索し始めた。
芦原が侑斗に「天理ダムもなかなかのレベルだと思うわ。所々に写真のフラッシュとは思えぬ赤い発光体が見受けられる。これはかなり危険の兆候を示している。」と話すと、侑斗はそれを見ると絶句して「これは、これはまずい。写真を撮影したことに対する怒りの感情をこちらにぶつけているのは見てわかった。」と恐る恐る語ると侑斗の話を聞いた放浪中ちっちが「ストリートビューでの不可解な写真はこちらでも確認した。トンネル内での不自然なモザイクから、ダム内での赤い発光体も含めて、また視聴者から寄せられた心霊情報も参考に、間違いなくここには出るだろうと我々は判断して今回の心霊スポット巡りを実現することが出来た。今後関東地方においても番組が放送できることを視野に入れているので、そのために初日の10月11日に笠置観光ホテル、天理ダムと行ってから、2日目の10月12日に三段壁、白山大橋、伊世賀美隧道、3日目の10月13日に錦ヶ浦、打越橋、旧小峰トンネルと行って心霊現象の真偽を確かめることが検証の議題でもあるので、噂されている心霊現象が果たして起こるのかどうかも含め、霊能者の饗庭さん、芦原さん並びに霊感はないがオカルト好きのぱうちゅさんと3人で検証を行うというのが趣旨でもありますからね。先ずは天理トンネルから検証を行うために速度は落としゆっくりと、ダムに向かうまでの道を検証したいので、”霊が出る”ということを前提に考えて頂きたい。」と話すと、侑斗があることを思い出した。
「天理ダムとはまた場所が異なりますが、僕が9月に行った天ケ瀬ダムからの宇治川ラインというのがありますが、天理ダムと似たような要素が揃っているような気がします。カーブばかりが続く道なりで飛ばし過ぎたのか死亡事故が後を絶たず、首なしライダーの噂もあったところです。天ケ瀬ダムもまた自殺の名所として知られていますから、何だか似たような何かを感じますね。」
侑斗がそう語ると、放浪中ちっちが「信号のない山道ならではの、起こりやすいことではあるね。似たような土地はその他にもあるので、何も天ケ瀬ダムや天理ダムに限ったことではない。」と語ると、侑斗は「そうかもしれませんね。山道ならではの信号で交通整備がされていない場所だからこそ飛ばす人がいるんでしょうね。またダムが近くにあるということも相まってか、人目がないからこそなのかもしれませんけども、自殺の名所としての側面も併せ持ってしまった結果、事故と自殺の名所になってしまったのでしょう。」と語るにとどまった。
そう話しているうちに一同は、最初の検証スポットでもある天理トンネルに差し掛かろうとして、改めてディレクターから説明がなされた。
「これから通過するのは、心霊検証の議題の一つである天理トンネルになる。ここから先は検証を行う目的でスピードをかなりゆっくり抑えて走行するから、何か発見したりした場合は報告をしてほしい。」
ディレクターが説明をすると、芦原は「わかりました。何か異変を感じましたらすぐにでもご報告をいたします。」と答えると続けて侑斗も「わかりました。」と頷きながら答えた。そして一同が乗る車はトンネルの中へと吸い込まれるように入っていくと段々と、車内は冷ややかな空気に包まれると同時に、車の後ろには付いてくるような車も無ければ、ただただ”何かが出てくるかもしれない”という恐怖に襲われていただけだったのかもしれないが、雰囲気だけはあった。
だが侑斗だけはあることに気が付き始めていた。
「トンネルに入り始めてからだろうか、ここでの交通事故はダム付近と比較すると恐らくだが、件数としては少ないほうだろうけども、何かが俺達の乗る車に対して追随してきているのが分かった。流石に心霊現象の噂にもあるバイク事故でお亡くなりになられた若い男性が、死ぬ間際までのバイクにまたがった状態ではないが、何かが後をつけてきている。死んだ今もなお救いの声を上げているのだろうか。20kmの自転車と変わらないぐらいのスピードで車を走行しているからこそ感じたものがあった。これは未だに”何か”が彷徨っているということなのだろう。」
侑斗がそう話すと、芦原は「今もなおこの付近で事故に遇われてお亡くなりになられたであろう御霊の気配は複数感じ取ることが出来た。亡くなられた方々が救済を求めて追随をしてきたのだろう。」と察すると侑斗に対して「何かあってからでは遅い。ダム湖まで憑いてくる危険性も考えられるから、その前に御祓いをしよう。供養のための御経を読み上げることにしましょう。」と切り出すと、侑斗は「そうですね。何かあっては遅いので二人で御経を読みましょう。ディレクターさん、さっと終わらせるので僕と芦原さんの二人をトンネル内で降ろして頂けませんか?」と切り出すと本当に出てくるのが確証されるものであればその様子を撮影したいと言われるが、侑斗は「撮影は長引く可能性があり、その他にもこのトンネルを通過する方もいらっしゃることでしょうから、さっと御祓いを済ませて出発しましょう。5分もかからない、3分で終わらせますよ。」と切り出すと、ディレクターは「わかった。」と答えて侑斗と芦原の二人を安全に車を停車することが出来るスポットに停車をさせてから二人は気配を感じる方向へ供養のための御経を読み始めた。
そして宣言通りに、3分以内に御経を読み終えると、車に戻り芦原からディレクターに「トンネル内での御祓いは終えました。ダムに向かってゆっくりと、そのまま速度を20km維持したままの状態で進んでください。」とお願いをすると、二人が乗り込んだと分かったディレクターがエンジンをかけて発進しようとした時だった。
車のルームミラーに背後から複数の誰かに睨まれ、乗り合わせた全員が一瞬で凍り付き、思わずぱうちゅが「何?何だったの?今の?明らかに睨まれたような気がしたんだけど、さっき芦原さんと侑斗さんが祓ってくれたのは効果がなかったってこと?」と騒ぎ始めると、侑斗は答えた。
「僕達が行ったのは、禍から身を護るための邪気祓いに過ぎない。お亡くなりになられた方々に対して除霊をしたわけではない。」
侑斗の話にぱうちゅは「えっ!?祓ったって邪気だけ!?このトンネル内に彷徨う御霊達の除霊は出来なかったってこと?」と切り出すと、芦原は「お亡くなりになられた方の数が多すぎる。ざっとだが、30名はいらっしゃるだろうと思われる。この数を二人で短時間のうちにさばくことはこのトンネル内を通行禁止にでもしないとはっきり言って不可能だ。」と説明した。
そして一同が乗る車がトンネルを出たと同時に、段々と険しい山道へと入っていく。
「ここから先が本当に事故の多発スポットになって益々御霊の気配を強く感じるだろう。これは霊がいる気配をあまり感じないぱうちゅさんでも分かるレベルになってくる。ダムになればさらに危険度は増してくる。」
芦原が一同に説明をすると、場の空気はさらに凍り付いた。
そして山道に入れば入るほど益々恐怖感からか冷や汗が一気に出てくる者もあらわれると、いつどこで”何か”が出てくるか分からない恐怖感に包まれながら天理ダムに到着すると、車からまず最初に芦原と侑斗の二人が車から降り始めると、続けてぱうちゅと放浪中ちっち、アシスタントディレクター、カメラマンの二人が続けて下りて最後に運転をしていたディレクターが降りるとすぐさま心霊検証を行い始めた。
リポーターを務めるぱうちゅがダムの天端の上を通る国道25号線の歩道を慎重に恐る恐る歩き始め天理ダムの心霊レポートの撮影を始めると、その様子を侑斗と芦原が注意深く見守る形にした。
侑斗は芦原に「ここに来るまでに事前に打ち合わせをしていたとはいえ、あれでよかったんですかね?」と聞き出すと、芦原は「それでいい。ここに来るだけでも無数の事故でお亡くなりになられたであろう御霊達が多数彷徨っているのは見ていてわかったし、この周辺は明らかに異質だわ。霊能者の二人が何かあったときに対応できるようにしないと、ぱうちゅさんの身に危険を及ぼしかねない。」と語ると、侑斗は「そうですね。ストリートビューで見たあの天理トンネル内から山道の不自然なモザイクから、ダムに至るまでの不自然な写真からだいたいのことは想像ついたけども実際にこの地に足を運んでそれがよく理解できた。あまりにも御霊の数が多すぎる。自殺者や事故でお亡くなりになられた数を考えただけでもぞっとするような、100人はざっと超えるんじゃないだろうか。こればかりは除霊を依頼されても俺と芦原さんだけではさばき切れないですね。数が多すぎますよ。」と語ると、芦原は「せめてここはわたしたちのような霊的エネルギーの強い者がいるということを気付かせないためにもそっとしておかなければいけないだろう。今はぱうちゅさんの身を護ることを最優先にしましょう。」と話すと、侑斗は「そうですね。」と頷いてぱうちゅのレポートを注意深くカメラの映らない位置で見守り続けることにした。
だが時間が23時を回っていたということもあって、より人毛が少なくなる時間帯でもあるため霊感のない者であってもこの世の者ではない”何か”の存在を感じざるを得なかった。そんなさなかに、ぱうちゅがあるものを発見したと大きな声を上げた。
「あっ、あそこ。あそこを見てください。カメラマンさん、わたしが指さす方向を映してください。あそこにダム湖をぼんやりとうつむき加減で眺める男性が佇んでいます。顔の表情が、霊感があまりないわたしでもはっきりと見てわかります。生気のない、青白い表情をしている男性がいますね。近づいたほうが良いですか?えっ!?それは、えっでもそれをしに仕事に来ているんでしょう?って言われたらそうですね。覚悟を決めて男性に近づきたいと思います!」
ぱうちゅがカメラマンとやり取りをしながら、ぼんやりと佇む男性の元へと近付き始める。ぱうちゅの足取りは重く、男性の元へとあと少しといったところで、侑斗がぱうちゅに対して「それは危険だ!近づくんじゃない!」と叫ぶとすぐさまぱうちゅの元へと駆けつけて目の前に現れた男性に対して供養のための御経を読み上げたところで、今先程まで佇んでいた男性の御霊は砂埃のようにさっと消えたのだった。
その様子を見たぱうちゅは侑斗に「えっ、今のは何だったんですか?」と聞くと侑斗は「自殺者の御霊だ。恐らくこの地においてはボス格だろう。自殺の名所で生前の姿とも思えるほど生々しい姿で現れる御霊や、叫び声や悲鳴を上げるようなところは危険の兆候だ。自殺の名所にはボス格という御霊の存在がいて、それが心の闇を抱える生者を自分たちと同じ闇の世界へと引きずり込んで仲間を増やしていくんだ。霊感のない人でも見てわかるレベルだから尚更近付いてはいけない。禍を齎す危険性が高いんだ。今先程の男の御霊が持つ負のパワーは相当のものだ。成仏してこれから山登りをしようとしている浮遊霊でさえも巻き込もうとしている。事故でお亡くなりになられた御霊も相まってか、ここは霊場と言っても過言ではない場所と化している。これ以上の調査は危険だ。身の安全を考え続行するべきではない。」と言い放つと、芦原も続けて「これ以上は身の安全が保障できない。撮影は中止にしなさい!」と叫びその場にいたスタッフの一同に撮影中止を強く説得すると、天理ダムに到着してから30分も満たないうちに撮影の続行は困難とみなされた。
そして一同は車を停車させておいた場所へと戻り始めると、念のため侑斗と芦原で全員の御祓いを済ませてから、宿泊予約をしていた和歌山県の西牟婁郡白浜町にあるビジネスホテルへと向けて出発をした。車中で改めて天理ダムで撮影した映像を確認するために、ぱうちゅが男が佇んでいるとカメラマンに映すようにと指をさして示した場所には何も写っていなかったが念のためにデジタル一眼レフカメラで写真を撮影したところ、その写真にはカメラによるフラッシュとは思えないほどの強い光と共にその光を囲むようにして大量の白いオーブと思えるものが写り込んでいた。
侑斗が危険だと判断した理由に改めて一同が理解を示した瞬間だった。
そして一同がホテルに着いたのは日付が変わって夜中の1時半を回っており、すぐさま予約しておいた部屋へと入り始めると明日朝10時からの三段壁での心霊ロケを行うためにゆっくりとしている暇もなく早々と部屋の中にあるシャワーを浴びたらすぐ眠りにつくことにした。
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