ホテルでの一夜を開けた一同は朝の9時に目覚めたと同時にさっと身支度を済ませ、朝食をとるためにもホテルをチェックアウトして近くのコンビニに立ち寄るとパンやおにぎりやお菓子などをぞれぞれが購入し終えたところで、三段壁町営駐車場に向けて車を走らせると、到着したと同時に収録が始まるまでに腹ごしらえを終わらせた。
一方、ぱうちゅはというと、昨日に見たダム付近に佇む生気のない男性を間近に見てしまったことで、今まで霊感がないものばかりと思い込んでいたのが、自分の目でも明らかに御霊を見てしまったことで御霊に対する恐怖感を募らせていた。
黙り込んでボソボソとシーチキンのおにぎりをかじり始めるぱうちゅの姿を見て気掛かりに思った芦原がぱうちゅに対して声をかける。
「昨日の晩に見た光景は自殺の名所ならではの光景そのものよ。人には必ず霊感があって、それには個人差があるの。霊感が強すぎる人と、そうではない人というのがあってそれは決して霊感が強いから霊が見えるというわけではなく全ての人には霊が見える力を持っている。あり、なしは関係のない事よ。でもさすがに、あの男性はわたしや侑斗君にとっては手強過ぎた。わたしたちで御霊達による禍からあなたたちを護るためには撮影の中止は致し方がなかった。近づいたらあなたには死が待っていた。あの男の御霊はそうやって己の仲間を増やしているのよ。だから見てしまったことを気っと忘れることはできないと思うが、これだけは強く心の底で思っていてほしい。命ある我々のほうが強いんだぞと、決して心の弱みを見せてはいけない。特に自殺の名所では弱みを見せたら、チャンスだとばかりに狙われる危険性が高い。そうなってくるとせっかくわたしと侑斗君の霊能者二人体制で行っていても、多くの御霊達に取り囲まれたらわたしたちでも敵わない事態に陥ってしまう。気だけは強く持ってほしい。霊が見えることは恐怖かもしれないが、でも元々は命があった人間なのよ。そのことさえ忘れなければ、恐怖心は拭えるはず。今は我慢強く辛抱してほしい。」
芦原の一言一言がぱうちゅにとっては胸に突き刺さったのか、ぱうちゅはうつむき始めると「そうですよね。あそこにいた男性だって元々は生きていたんですから、未練や思いがあるのは当然ですよね。今までUFOやUMAに強い関心を示して今回初めて心霊というオカルトジャンルの一つに新たに踏み込んだのですが、いざ自分が体感するとはじめてこの世界の恐ろしさを味わったような気がしました。正直に言って甘く見ていたところがありました。それが笠置観光ホテルでの緊急除霊の様子から、撮影続行とみなした天理ダムから、改めて死後の世界について考えさせられました。」と語ると、その言葉を聞いた放浪中ちっちが「宗教上の考え方や死後の世界観も違うから一概に共通して言えることはないのだけど、ただ一つ言えることは死後の世界というのは生き物すら生息していない漆黒の闇の世界が広がっていてそこには死者が溢れかえっていると言われている。あまりにも陰鬱な世界だからこそ、この世の世界で過ごした時を思い出して戻ってくるのかもしれない。霊とは心霊スポットじゃなくともそこら中にいて当たり前の存在でもある。ただ、科学や物理の進化と共に存在根拠を示すことが出来ないものに関しての存在意義に対して強く否定され、一時期は心霊がブームとなっていたのも今となればオカルトの一種にしか過ぎなくなってしまったのが本当に悲しい世の中よ。」と語ると、ぱうちゅはうんうんと深く頷いた後に吹っ切れたのか笑顔を見せ始めると「ありがとうございます。芦原さんやちっちさんのおかげで3日間頑張って仕事をこなします!」と高らかに宣言すると、放浪中ちっちがぱうちゅに「今日もハードだけど宜しくね!」と語ると、ぱうちゅは大きな声で「はい!」と答えると、勢いよくシーチキンマヨネーズのおにぎりを食べ始めた。
その様子を見た侑斗は「元気になってよかった。」と呟くと、買ってきた焼きそばパンを貪るようにして食べ始めたのだった。そして10時を迎えるまでに三段壁の展望台へと向かって歩き始めると、一同はある石碑を前にして足が立ち止まる。
『投身自殺者 海難死没者 供養塔』
石碑を前に芦原が立ち止まると、侑斗の肩を叩いて指摘をした。
「供養塔があり、しかもきちんと供養されているあたりから見ても、ここは今も自殺者が出ているのかもしれない。この付近から段々と御霊の気配を強く感じる。」
芦原がそう語ると、侑斗は「調べてみると、自殺者が多く発生するスポットには”いのちの電話”と書かれた悩みがあれば必ず相談をするようにということを促す連絡先が記載されており、今もなお自殺者を増やさぬように定期的なパトロールが行われていることから察しても、現在もなお自殺者は出ているのだろう。噂にもあった、毎年10人以上の自殺と思われる遺体が見つかるというのも、この辺りで彷徨っている御霊の数とも照らし合わせたらやはり合致する。」と語ると、芦原は「その割には恋人の聖地 ハートモニュメントってのがあるのがちょっと気になった。」と笑いながら語り始めると、侑斗は「似たようなのは福岡の八女市にある日向神ダムでもありますよ。自殺の名所でありながら恋人の聖地として知られているハート岩が有名ですよ。日向神ダムは毎年自殺者が出ているにも関わらず、東尋坊やヤセの断崖のような少しでも自殺者を出さないための心の悩みの相談する連絡先などはなかったが、一人で来たときはやはり異質なものを感じてならなかった。似たようなものを感じる。」と語ると後ろからぱうちゅが「えっ、侑斗さんも芦原さんも、三段壁の有名な話を知らなかったんですか?口紅の碑という有名なスポットがあって、そこにはこう綴られているのよ。”白浜の海は今日も荒れてゐる 1950.6.10 定一 貞子”とね。男は堺市風南町に住む大西定一(22)と女性は同所の須藤貞子(18)。定一は先妻の子で、貞子は現在の妻の連れ子で二人は義理の兄弟の関係にあった。一緒に住んでいくにつれて次第に定一の中で貞子への恋心が芽生えたのか、恋と厭世観と合わせて病気で苦しんでいたこともあって、白浜に訪れた際に定一は妹の貞子を呼び出して、そこで二人で心中を図ったというもの。若い二人だから許されない関係だと思い込んだ末の悲しい結末なんですけどね、天国で誰にも邪魔されることなく二人で愛を誓う言葉として、岩に口紅で書きつけたという。何て悲しい話って思いませんか?」と二人に対して聞き出すと、侑斗は「ああ、そうですかってところだな。そもそもそれは許されぬ関係じゃなしに病気を苦に独りでは寂しいので道連れにしましたというのが正解じゃ?」と聞き始めると、同じく芦原も「義理の兄弟とはいえ、血のつながりはないのだから、そもそもそんなことをしなくとも結婚は出来る。経済力のない男に女が同情して同じ死の道を選んだ。それだけ。」と話すと、ぱうちゅは思わず声を上げた。
「ちょっと~!あまりにも現実的過ぎる!もう少し夢を見たらどうですか?ロマンチックな夢とか現実的に叶えそうになさそうな夢とか、もう少しそういうのを見たほうが良いと思いますよ!」
ぱうちゅが二人に対して話すと侑斗は「悪いけどこの仕事は夢を見るを忘れてしまうもんなんだよ。何せあまりにも人の人生の天国と地獄を見てしまうもんだから、夢は見たほうがいいかもしれないが、浮かれ過ぎには注意だぞ。気持ちを明るく維持し続けるのも良いことだがだが同時に維持をし続けることのほうがもっと大事、夢ばかり見て出来ないことなのに追いかけてばかりしていたら、夢ばかり見ないで現実的な目標を立てなさいで終わる。そんな人生でいいのか、もう少し考えて発言をしたほうが良い。出来ないと分かり挫折してしまえば、この地で命絶った方々と同じ道を歩むことになる。」と語ると、続けて芦原も「悪いけど、霊能者として活動するようになってからロマンチックな考え方は無くなってしまったも同然ね。でも現実的に叶えそうにない夢を考えるよりも、現実に実現可能な夢を実現させるために努力を重ねることを考えたほうが良いと思う。」と話すと、ぱうちゅは黙り込んで小声で「わたしはただ、心霊とは関係のないことで三段壁にまつわる話をしたかっただけなのに。」と言い返すと、ディレクターが三人に対して収録が始まることを告げ本番モードに切り替わると、早速ぱうちゅが展望台でカメラを前に立ち止まると左隣に侑斗、右隣に芦原がいるような形で撮影がスタートした。
「今回は和歌山の自殺の名所として知られている三段壁にやってきました!三段壁は景勝地として知られていると同時に、先程も説明しましたがここは自殺の名所として知られているだけに心霊に纏わる噂も多数寄せられていて、当番組でもこの地に訪れた際に心霊現象に見舞われたなどの報告が上がっており、そこで心霊現象の真偽を確かめるために、一応念には念をというのもあって、わたしの両サイドには霊能者の饗庭さんと芦原さんに引き続き同伴して頂いています。」
ぱうちゅが二人の紹介をし終えたところで、侑斗と芦原の二人が「どうも。」といって軽くカメラに向かって会釈をすると、ぱうちゅが心霊の噂について触れだした。
「ここで伝わっている話としては、この地で最期を遂げた自殺者の霊が出る、昔に若いカップルが岩に口紅で遺書を書いた後に投身自殺を図った、毎年10名以上の自殺者と思われる遺体が発見される、落ち込んでいるときや元気がない時にこの地に訪れると無意識のうちに引きずり込まれてしまい飛び降りたくなってしまう、夜に崖から下を覗くと自殺者の霊が海面から手招きをしている、同じ場所から何度も投身自殺を図る自殺者の霊が出る、心霊写真が撮れるなどがあります。昨日は夜遅く、日付も変わって白浜町にやってきたというのもあって夜に検証を行うことは出来なかったのですが、朝10時のこの時間帯でも崖から覗くと海面から手招きをしている霊が出るのか、無意識のうちに引きずり込まれてしまうなどの話が真実なのか噂話の一つに過ぎないのかを検証したいと思います。それでは、展望台から検証しましょう。」
ぱうちゅがそう語ると、観光客の邪魔にならぬように、展望台から眺めることが出来る絶景を前にして「まさに三段壁の醍醐味ともいえる絶景が味わえます。」と語り、崖のほうを覗き始めるとあることに気付き始めた。
「崖のほうに近づけば近づくほど、何と言いますかね。足場が何一つないにも関わらず、複数の人たちの視線を強く感じます。この場にいらっしゃる観光に来られている方々の視線ではないですよ。この崖の下から強く感じます。」
ぱうちゅがそう語ると、侑斗と芦原は検証のためにその場で霊視を行い始めると、芦原から「自殺者の御霊達が、わたしたちの動きに対して注意深く伺っています。この場から離れたほうが良いと思います。」と語ると、放浪中ちっちから「展望台から離れて、三段壁洞窟にも足を運んでみましょう。そこでも心霊の噂があります。」と切り出すと、ぱうちゅは「そうですね。洞窟にも足を運んでみましょう。」と答えて一同は洞窟へと足を運ぶことにした。
「洞窟内は中がひんやりしていますね。観光客がいますので、あまり大きな声で騒いだりすることかえってせっかくの楽しい旅行を邪魔されて気分を悪くされる方もいらっしゃることでしょうから、洞窟から眺めることが出来る三段壁の絶景で検証をし終えた後は再び三段壁の岩場にまで近づいてみましょうか。」
ぱうちゅがそう語ると、洞窟内での検証は見るべきスポットを一通り見たところで、地上へと戻ると、岩場の近くまで行くことが出来る遊歩道へと足を運んでみることにした。岩場を慎重に歩くと、ぱうちゅの足取りが段々と重たくなってきた。
「岩場に近づこうとすると、海風がより一層感じられますね。今日はスニーカーを履いて来て正解でしたが、まあこんなところにハイヒールを履いた状態で歩いている人なんていないと思いますけどね。より霊が出やすい断崖絶壁のほうへと歩んでみましょうか。皆さん、足元が本当に悪いから気を付けて歩いてくださいね。」
ぱうちゅが周りに対して気を遣いながら、進み始めると段々と空気が変わってきていることに気付き始める。
そして侑斗と芦原が確認のために歩きながら霊視検証を行い始めた。
芦原が「やはり展望台の下の、あの付近から自殺者だろう御霊が複数体いらっしゃるのは確認が取れた。やはりあの展望台から飛び降りる人の割合が多いのだろう。」と語ると、侑斗は「自殺者の心情から察すると恐らくそうだろう。衝動的にショックになった状態で自ら命を絶ちたいと考えたときに、わざわざこんな足場が悪い岩場にまでは足を運んだりはしない。やはりあの展望台まで行って投身自殺を図るのが殆どではなかろうか。そのために仮にもし自殺者が通りかかるであろう文珠堂の前にある電話ボックスにはいのちの電話の連絡先や”この近くには臨時交番があってそこにも”この中に警察署直通の電話がございます。一人で悩まず相談してください。白浜警察署・白浜町”とあるように、あの展望台のほうがより危険度が高いのでしょう。海岸への一人歩きは危険ですとも看板はあったがそれも効果はいま一つではないでしょうか。夜になれば立ち入りを制限するために鎖で施錠され、また”夜の海岸は大変危険です!海岸へは近づかないでください!!”という放送も流れることから、わざわざ岩場にまでやって来て投身自殺を図る人など、果たしてというのが個人的な意見です。それこそ最初にぱうちゅさんが話していた複数の視線を感じるというのはまさにそのことじゃないかと思うんです。」と語ると、芦原は侑斗のほうを見ながら「そうかもしれないね。改めて自殺者の数を調べてみたけど、これを見てほしい。2008年のリーマンショック時は21人の自殺者が出たそうだが、その後の2009年は10人、2010年は9人、2011年は8人と2007年時の9人と考えると、地元の方達の呼びかけの効果もあって年々減ってきているそうよ。だとしたら、あと我々が検証するべき内容としてはこちらではなく、あの展望台の下に今もなおこの世に未練を残し彷徨い続ける御霊達の危険性を探ったほうが良いのかもしれない。」と話すと、侑斗は「芦原さん。何も近づかなくとも答えはもうわかり切っていますよ。芦原さんだって”注意深く動向を伺っている”と仰っていたじゃないですか。あれは恐らく、噂に伝わっていたことが真実ならば、海面から手招きをしてくる危険性が展望台のほうが高いってことですよ。僕だってあの地で霊視を行ったら身に危険を感じるほどの殺気に近い何かを感じました。これ以上、心霊現象らしいものが出ないと分かった以上、観光客の方の迷惑にもならぬように我々は撤退するべきという事です。それでも心霊現象をこの目で確認をしたいのなら通報をされてもいい覚悟で夜に来るべきでしょう。」と語ると芦原は「そうね。一先ず自殺者の御霊が彷徨っていることは紛れもない事実だし、これ以上の検証をする必要も無いだろう。」と話したところで、芦原から放浪中ちっちとディレクター、アシスタントディレクター、カメラマンとサブカメラマンに対して危険ではないが観光客の邪魔にならぬように撤退するべきだと話したところで、一同は三段壁の展望台で記念に全員で写真撮影をしたところで、次の目的地でもある白山大橋へと向けて移動するために駐車場へと戻ることにした。
駐車場に戻り、車に乗り込む前に先ずは自殺者の御霊達による禍から身を護るために侑斗と芦原の二人で出発前の御祓いを済ませたところで、一同は津市内にある白山大橋へと向けて出発し始めた。
車で向かう道中、引き続き車を運転するディレクターから「今はちょうど時間が12時30分を過ぎたころだから、次に向かう白山大橋には16時には到着が出来る予定だ。白山大橋は国道165号線の一般道路でもありまた駐車スペースが限られているから、安全上の都合のことも考えてここは少人数のぱうちゅと侑斗君と芦原さんとカメラマンの4人で現地へ行って短時間で調査を終わらせてほしい。付近に駐車が出来るスペースはあるが私有地のために長居をすることはできない。勿論撮影のための使用許可は下りているが、その代わりに長居をしないことが条件になっているのでお願いしたい。」と説明すると、芦原は「わかりました。なるべくさっと検証を終わらせるようにします。」と答え、そしてぱうちゅも理解を示したのか頷きながら「わかりました。」と答えた。侑斗は「わかりました。検証はさっと終えますが、その後に伺う予定になっている伊世賀美隧道へは何時ごろの到着予定なんですか?」とディレクターに訊ねるとぞっとするような答えが放浪中ちっちから聞かされることになった。
「伊世賀美隧道には19時から検証予定。検証が終わり次第ビジネスホテルの予約を取っている熱海へと向かいそこで一泊して、錦ヶ浦と打越橋と旧小峰トンネルでの心霊検証を終えて芦原さんと侑斗君を羽田空港まで送るという予定になっている。」
それを聞いた侑斗は「夜の、人気のない旧道のトンネルで心霊検証ですか。白山大橋も時間帯も時間帯ですからね。これからの時間帯のほうが我々の身の危険性は増しますね。でも霊能者として同行している以上皆さんの安全を確保しなければいけません。大変ですね。」と芦原をちらっと見ると、芦原と共に苦笑いをしながら何事も起こらないでほしいと祈るばかりであった。
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