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欲求の自己処理

公開日時:2023年7月8日(土) 01:49更新日時:2023年7月8日(土) 01:49
話数:1文字数:1,077
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「誰でもいいから殺したい」と言う男がいた。ある科学者はその男に「殺してもいい人をあげるから、ついておいで」と誘いをかけた。男は首をかしげながらも、いざとなったらこいつを殺せばいいと思い、科学者の研究所までついていった。

「さあ、このカプセルの中に入るんだ」

「何をする気だ」

「まあまあ、少し寝てもらうだけだよ。君に殺してもいい人をあげる代わりに、私の研究に少し付き合って欲しい。そうしたらいくらでも提供しよう」

「変なことをしたらすぐ殺してやるからな」

男はカプセルに入り横になると、すぐに麻酔で寝てしまった。起きたときには別の広い部屋にいた。その部屋には科学者の他に仮面をつけた男が2人いた。

「起きたかな?おまたせしたね。彼らが君にあげる人たちだよ」

なぜ彼らが仮面をつけているのかを尋ねると、科学者は肩をすくめた。

「彼らをどこから連れてきたのか、君にバレるといけないからね。それにきっと、顔をみたら君が驚いてしまうだろうし」

自分の知り合いでも連れてきたのだろうかと思いながら、男は科学者の用意したナイフを手に取り、左に立つ仮面の男の腹に突き立てた。もう一人の仮面の男は、悲鳴をあげながら逃げようとするが、部屋の扉は頑丈でびくともしない。男は背中からトドメを刺すと、ふうと息をついた。科学者は拍手を送った。

「迷いのない刺しっぷりだったね。明日もあのカプセルに入ってくれるなら、また人を連れてこよう」

男は無言で頷いた。 


こうして男は科学者の研究所に毎日足を運ぶことになった。カプセルの中で寝ては人を殺す。単調な繰り返しだが、自分の欲求は満たされた。たまにあの科学者がなんの研究をしているのか疑問に思うこともあるが、もともとそこまで興味もなかったためその疑問はすぐに消えてしまった。


ある日、男が麻酔の眠りから覚めると部屋に科学者の姿はなく、仮面の男たちと「外せない用があるから、勝手に事を済ませておいてくれ」という書き置きが残されていた。男はいつも通りナイフをとり、仮面の男たちの元に向かおうとした。その時、ふと仮面をとってみたいと思った。いつもは科学者が後ろにいるからできないが、せっかくならどんな顔をして死んでいくのか見てみたい。男は後ずさる仮面の男の肩を掴み、仮面に手をかけた。

「え、」

仮面の男の顔は、自分とまったく同じ顔をしていた。


科学者は男のカルテを片手に楽しそうに呟いた。

「いやあ、彼のおかげで私のクローン研究が捗った捗った。作ったクローン達をどう処分しようかと悩んでいたが、それも同時に解決してくれるなんて、思わぬ巡り合わせというのはあるものだねーー。」

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