綾瀬樹、都内の高校に通う二年生だ。
特に代わり映えの無い日常を送りながらも青春というやつとは無縁の生活を送っていた。
「さ、帰ろう」
帰りのホームルームが終わると樹はすぐに席を立った。
特に部活にも所属していない樹はホームルームが終わるとすぐに帰路に就く。
「はぁ、この生活にも慣れてきたな。俺も彼女とか欲しいな」
そんな独り言を呟きながら、部活に入らなかったことを少しだけ後悔していた。
「帰ったらアニメでもみよ」
そんなことを考えながらボーっと歩道を歩いて、信号が変わるのを横断歩道の手前で待っていた。
「お、青だ」
そう思って一歩足を踏み出したその時、減速しないままトラックが突っ込んでくるのを感じた。
「いおり、戻りなさい!!」
そう叫ぶ母親の声が樹の後ろから聞こえてきた。
樹の数歩前には小学生くらいの女の子が歩いていたのだ。
「危ない!!!」
樹は咄嗟にいおりと呼ばれた少女を庇って飛び出した。
次の瞬間、樹の全身にはとてつもなく強い衝撃が走った。
「あぁ、駄目だ。意識が……」
薄れゆく意識の中で今までの日々が走馬灯のように浮かんできた。
「俺は、このまま死ぬのか……」
そして樹は完全に意識を手放した。
「どこだ、ここ……」
目覚めるとそこは見知らぬ天井だった。
壁も床も、天井も真っ白い空間に樹は寝ころんでいた。
「目が覚めたかね?」
どこからともなく、優しいお爺さんの声が聞こえた。
そして、目の前には白髪頭で白い髭を長く生やしたお爺さんが現れた。
「あなたは……?」
「ワシは創造神、君の居た世界と他にも十四の世界を管理する神じゃよ」
そう言うと、髪を名乗るお爺さんは優しく微笑んだ。
「神? 世界を管理?」
樹は混乱していた。
「いきなりのことでまだい状況が掴めないだろうが、君のいた『地球』以外にも世界が存在するのだよ。俗に言う、異世界というやつだな」
「なるほど。それで、僕は何故ここに居るのでしょうか?」
「それはじゃな、君を予定外なところで死なせてしまったのじゃ。本当に申し訳ない」
そう言って創造神様は頭を下げた。
「あ、いや、とりあえず、頭を上げてください。それで、予定外というのはどういう事ですか?」
「君はあそこで死ぬ運命ではなかった。あそこでは助かる予定が、手違いがあったようで死なせてしまった。だからここに来てもらったのじゃ」
「手違い、ですか。あ、そう言えば、あの女の子は無事なんですか?」
「ああ、君が庇ったおかげで一命は取り留めたよ」
「そうですか。よかった」
樹は胸を撫でおろした。
自分の死が少しは無駄ではなかったと思えたのだ。
「この状況でも人の心配までできるとはお前さんも人間ができておるの」
「いえ、そんなことは……」
「そこでじゃな、君にはワシの管理する別の世界で生き返ってもらおうと思う」
「別の世界ですか。元の世界には生き返れないのですか?」
「それは、出来ないルールなのじゃよ。すまんな」
神様は少し目を伏せた。
「そうなんですね。神様の事情も何となく分かりましたし、生き返るだけでもありがたいです。お願いします」
「そうかね。いやあ、若いのに人間ができておる。感謝するぞ」
正直、異世界というものに期待している樹であった。
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