霧の中に悪魔がいる

full moon
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(8)

公開日時: 2021年7月25日(日) 11:30
更新日時: 2021年7月26日(月) 00:37
文字数:555

その瞬間、灯油に濡れた郷珠の体表を覆うように、放射線状に炎が走った。


一瞬で、足元まで到達し、地面に溜まる灯油の表面にも炎が点く。


郷珠の全身は炎に包まれ、火達磨になった。


火先は、ぐらぐらと不規則に揺れる。


炎の中に、郷珠の影が見える。


その影は茶褐色の焦げたような色だった。


郷珠は、合掌して座禅を組んだ姿のまま動かない。


その姿から、人智を超えた意志を感じる。


私達に何かを教えようとしている。


そう感じた。


私は、超越した光景に驚倒し、体全身に力が入り、固まっていた。


炎は収まる事なく、郷珠を焼き尽くす。


衣服はとろけて無くなり、髪の毛も溶けて、坊主になる。


郷珠の体は炭化を始め、炭のように黒くなっていく。


しかし、合掌と座禅のまま動じない。


合掌の指先に、郷珠の揺るがない精神が通う。


店内に、嗅いだ事も無い、焼け焦げた激臭が漂う。


肉を焼くような臭いに、苦みが含まれる。


その臭いは、私の鼻を通り、口の中に染みつく。


郷珠の目元がぷちゃっと破裂した。


とろけた目元は、瞬く間に黒く炭化する。


次第に、激臭は更に猛烈な臭いに変わる。


その臭いで臭覚が痺れる。


老婆は、おえっと、吐き気を催す。


店内は、人の焼ける匂いと灯油の匂いが充満する。


郷珠は、郷珠と認識出来ない程に、真っ黒な炭になっていた。


その時、ぱきっと折れるように郷珠の体勢が崩れた。

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