霧の中に悪魔がいる

full moon
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(4)

公開日時: 2021年6月25日(金) 09:00
文字数:657

 「ねえねえ」


娘の声が聞こえる。


この暗闇の中のどこかに居るのだろうか。


声の距離から、比較的近くに居る事がわかる。


娘の声を聞いた私は、もう一度でいいから、娘と妻を見たいと願った。


瞼を少しずつ開けていく。


瞼が開いていくにつれて、瞳は視界を捉えていく。


レストランの天井がぼんやりと視界に広がる。


徐に上体を起こして周囲を見る。


娘と妻は郷珠の近くに居て、他の客も変わらずに居た。


夢だったのかと安堵するも、すぐに違和感に気が付いた。


ガラスが割れたような視界は奇妙に変化していた。


変わらずに左上から右下まで、ガラスが割れたような線。


視界の中央を左から右へ水平に通る線。


その線は白くて、本の帯のように太い。


線の中に、errorと表示されている。


視界の右上には、何やら、縦グラフのメーターがある。


メーターは激しく上下に動いている。


左下には、円グラフのメーターがある。


そのメーターも激しく増減を繰り返している。


何だか、まるで、私はロボットを操縦しているかのようだった。


視線の先に、妻と娘が見える。


娘は郷珠と何やら話している。


その隣で妻は娘を見守る。


どうしてだろうか。


その距離は何歩でもない。


しかし、無性に寂しくて、怖い。


津波に巻き込まれて、浜辺から遠ざかるような気持ちになる。


次の瞬間、更に視界が奇妙に変化した。


近いものが遠くに、遠いものが近くに、見える。


遠近感が反転した。


あんなに近かった妻と娘は、店内の端のほうに居る。


反対に、老婆は、今や目の前に居る。


手を伸ばせば、老婆に触れられる距離だ。


しかし、老婆に手を伸ばしても触れられない。

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