霧の中に悪魔がいる

full moon
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(24)

公開日時: 2021年7月15日(木) 00:14
更新日時: 2021年7月17日(土) 01:37
文字数:508

首を押さえる篠生の両手の指と指の間から、血が溢れ出る。


篠生の両目の黒目が、ゆっくりと下に動く。


下まぶたに黒目が半分くらい入ると、すっと、真ん中に戻る。


再び力が抜けていくように、黒目が下がっていく。


黒目は動き続けている。


遂には、篠生の体に力が抜ける。


両腕をだらんと下ろし、首もすわらない。


黒目の動きも止まった。


そして、だんだんと息をする力も弱まり、息を引き取った。


妻は、篠生が亡くなったのをしっかりと見送る。


妻は、にやりと口角を上げて、立ち上がる。


妻の表情は悪魔を宿したかのような面持ちだった。


妻は、横たわる娘に近づくと、両膝を地面について、しゃがんだ。


娘の頭を撫でる妻。


私は、妻に近づいた。


妻は近づいた私を見上げる。


妻の両目には、大きなクマができている。


「ごめんなさい。この子が」


妻は私に言う。


私はしゃがみ、妻を抱き寄せる。


妻は、抜け殻のように力が抜けている。


「ねえ、私を殺して」


妻は、突然、私に言った。


その言葉の意味を理解する間も無く、妻は話を続ける。


「この子が、ちゃんと、三途の川を渡れるか心配だから」


「何を言ってる」


私は答える。


「お願い。一人で死ぬのは怖いから、あなたの手の中で死にたい」


「できるはずないだろ」

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