霧の中に悪魔がいる

full moon
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(7)

公開日時: 2021年7月25日(日) 01:03
文字数:523

郷珠は、出入り口へ歩きながら、小さく息を吸う。


「悪魔に少しでも人の心が残っている事を願いたい」


郷珠は、歩きながら、言った。


その郷珠の背中は迷いが無く、声は道念を悟すように穏やかだった。


郷珠は、出入り口に着くと、扉を開けた。


たちまち、白い霧が店内に入り込む。


郷珠は、白杖とランタンを同じ手に持ち、もう片方の手で、灯油タンクを持ち上げた。


白杖を突きながら、外に出た。


霧の中で、郷珠の姿が朧げに見える。


扉は、開いたままになっている。


郷珠は、出入り口先で、静かにしゃがみ、座禅を組んだ。


今まで手放さなかった白杖を地面に置いた。


「悪魔よ。悪魔とは何か。無常なものに善悪をいだき、無我なものに我をいだくものを悪魔という」


その時だった。


郷珠は、灯油を自らの頭から、かけ始めた。


私は驚倒して、思わず、言葉を失う。


郷珠の体はぎとぎとした灯油まみれになる。


二つの灯油タンクをかけ終えた。


郷珠の着衣も灯油を染み込ませて、濡れた色になる。


座禅を組んだ足の重なった部分には、灯油が溜まる。


郷珠の周囲も、水溜りのように灯油が広がっている。


次の瞬間。


郷珠は、ランタンを頭上に持ち上げた。


そして、ランタンを頭に打ち付けた。


ランタンのケースが割れて、ランタンの灯火が郷珠に触れる。

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