霧の中に悪魔がいる

full moon
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公開日時: 2021年7月16日(金) 00:59
更新日時: 2021年7月17日(土) 01:50
文字数:510

「お願い。この子が遠くに行っちゃう前に早く!」


妻は、私の両手を引き寄せて、妻自身の首元へ付ける。


私の両手の指を一本一本を妻自身の首に当てがる。


「ふざけるな! できない!」


私は、首を大きく横に振った。


「じゃあ、この子が、迷子になってもいいの?」


「そうじゃない! 私の側に居て欲しいんだ」


「ありがとう。でも、私は、この子が居ない人生、生きている意味が無い」


「そんな事無い、頼むから考え直してくれ」


妻の目に、一つも迷いが無かった。


あたかも、それが一番の最善な正攻法だと言っているかのようだった。


「お願い、この子が迷子になっちゃう」


妻の揺るぎない眼差しは、私を混乱させる。


私は、妻を止める理由が見当たらなかった。


妻に生きていて欲しい。


そう願うのは、私だけであって、妻ではない。


ただ、私は自己満足を得ようとしているだけではないか?


私の頭に様々な思考が飛び交う。


私が独りぼっちになるのが怖いから、妻に生きていて欲しいだけなのではないか。


妻が居なくなったら、私がここに居るという存在はどのようにして認識すれば良いのか。


しかし、これらは、全て、私を守ろうとしているに過ぎなかった。


悪魔が放たれた、あの時、私は、決意したはずだ。


家族を守ると。

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