霧の中に悪魔がいる

full moon
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(5)

公開日時: 2021年8月7日(土) 22:24
文字数:525

「悪魔さん、早く、私を殺してください」


私は言った。


力一杯に言い放ったはずが、よろよろと、か細い。


「警察です」


その男性は言う。


「悪魔さん、もう正直に言ってください。早く妻と娘のもとへ行かなくちゃいけないんです」


「警察ですよ、もう安心してください」


「警察?」


「そうです、警察です。気を確かに」


警察官がここに居る?


助けに来た?


私は助かる?


「一名、生存者確認。衰弱している。今すぐ救護を」


警察官は、無線で話す。


間もなくして、複数人の警察官が店内に入ってきた。


その後に続いて、救急隊員が来た。


救急隊員は、私を半ば強制にタンカーへ乗せた。


私は、すかさず暴れて、タンカーから、落ちた。


床に尻餅をついたまま、集まった救急隊員や警察官を見上げる。


「私、助かる?」


私は言った。


「はい、もう大丈夫ですよ」


この先も生きてしまう絶望感が押し寄せる。


「だめだよ! 殺してくれ。妻と娘が待ってるんだ」


私は、救急隊員に願う。


しかし、救急隊員は、私を救う為に、なだめようとする。


私は、乱暴に救急隊員の手を振り払う。


「あー!」


その絶望感が、体の中でぐつぐつと煮えたぎり、口から溢れ出るように、叫ぶ。


生きたいなんて頼んでいない。


死にたいんだ。


しかし、私を助けようとしてくれる。


ここが地獄か。

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