霧の中に悪魔がいる

full moon
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(11)

公開日時: 2021年6月18日(金) 11:30
文字数:846

 老婦は、渋々、三百円を受け取り、マスクを渡した。


「お告げだ。皆よ、よく聞くが良い」


老婆は言うと、客の皆は注目する。


「午後六時、午後九時、午前零時のいずれかに一人死ぬ」


老婆はそう告げた。


ふと、時計を見る。


間もなく、午後六時を迎えようとしていた。


これから何日、この者達とここに居れば良いのだろう。


私は不安に駆られる。


「そうかい、誰が死ぬかは預言出来るのかい?」


老父は老婆なや訊ねる。


「それは出来ない。しかし、悪魔にならない為に出来る事はある」


老婆は答える。


「なんだい、それは」


「食事を用意せよ。太古より、人は食べる事で活力を見出してきた。悪魔は活力のある者をそう簡単に喰ろうとはしない」


「悪魔は弱っている者から食べるのか?」


「そうに決まっているだろう。弱っていれば、抵抗されないからな」


老婆は静かに答える。


「それじゃあ、私が作ってくるかね」


老婦はそう言うと立ち上がる。


「私も手伝います」


妻も腰を上げる。


「いいや、大丈夫ですよ」


老婆は妻の言葉を制止させるように重ねて言う。


妻は戸惑いながら、腰を下ろす。


「わかりました、お願いします」


妻は答えた。


老婦は厨房へ向かった。


「皆、大した料理は作れないから、あまり期待しないでくれよ」


老父は我が物顔で客の皆に言う。


老婦の背が陰る。


娘はカーテンをちらりと捲り、外を見る。


暗闇に深い濃霧が漂っている。


その中に、ぼんやりと赤い光が漂っていた。


その赤い光は複数存在し往来していた。


「何をしている!」


老婆は慌てて立ち上がると怒鳴った。


娘は、ぱっとカーテンを閉じて、老婆を見た。


「もし悪魔に見つかったらどうするんだ!」


老婆は早口で怒鳴る。


娘は、しゅんと俯く。


その老婆の剣幕に、娘の目はうるうると涙を滲ませる。


老婆は席に座る。


「でも、これでわかっただろう。あれは、悪魔の目だ。もう間近に、悪魔が居る」


老婆は穏やかに言った。


「わしらは助かるのか?」


老父は聞く。


「必ず助かる。アーが自衛隊と共に駆けつけてくれる」


「アーは神なのか?」


「アーは誰よりも近しい存在だ」


老婆は答えた。

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