霧の中に悪魔がいる

full moon
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(12)

公開日時: 2021年7月2日(金) 22:54
文字数:755

「全然構いませんよ。子供が元気なのは、平和の象徴ですから」


郷珠の言葉を聞いて、妻の目が細くなる。


「平和ですか」


妻の口から溜め息に混ざった言葉が漏れ出る。


「全然平和じゃないよ、目無しのおじさん」


娘は郷珠の服を摘み、引っ張りながら言う。


「どうしてだい?」


「怖いの。喧嘩したり、変な目で見てくる人も居るし、外は悪魔が沢山居るから外でちゃだめなんだって。私も目が見えなければ良かった。そうすれば怖くないもん」


「いいえ、君はしっかりと見ておくんだよ。その経験がいずれ、誰かを助ける事になるから」


「助けられる? お母さんもお父さんも」


「君はもう助けているよ。お母さんもお父さんも僕も。君と一緒に居るから安心できる。目が見えない僕を嫌う事無く話しかけてくれる」


その郷珠の発言に、私は胸を打たれた。


確かに気が付けば、私は妻と娘が側に居るだけで安心していた。


助けていたはずが、助けられていた。


妻と娘が居てくれるから、まともな精神を保っていた。


「そうなのかな」


「大声を上げて、こうすれば助かると皆を信じさせるのが、助ける事ではないよ。こうして、隣同士いるだけで、安心できる。これが助けるということだよ。だから、いつまでも、お母さんの隣にいてあげなさい」


「うん! 目無しのおじさんの隣にもずっといるよ」


「ありがとう」


郷珠は娘の頭を優しく撫でた。


妻も同じ事を感じているのだろう。


近くに人が居る事が何よりも安心出来る。


妻はそっと私の手を握った。


私もその手を握り返した。


私と妻は顔を合わせる。


お互いの表情は、凛としていた。


言葉を交わさずとも、その表情で、お互いの意思が伝わる。


一緒に助かろう。


それに気がついた娘も、握り合っている手に、小さな手を乗せた。


娘はもう片方の手で郷珠の手を握る。


郷珠は少し驚いた表情を見せるも、直ぐにそっと握り返した。

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