左腕を折られ、どうにもならない才賀君の喉を晴生君が掴む。
「やめて、晴生君」
私がそんな事を言っても、なんの意味もなかった。
そう。この場でまず晴生君が潰そうとしてるのは、才賀君だ。
才賀君の喉が、握りつぶされる。
もう、才賀君がだめなのはわかった。
晴生君が、私の方を向く。
「メインデーッシュ」
怪物は、メインデッシュに意識を向ける。
この時を、メインデッシュを最後に残して。
これから、楽しみにしていたメインデッシュを食べるように。
教室は、机と椅子が倒れ散らかってるだけではない。
机の中身も、何もかもが散乱しており、ここで逃げては、理々花ちゃんと同様の敗北になる。
まるで、理々花ちゃんが、身を持って、教えてくれているように思えた。
ありがとう、理々花ちゃん。
貴女の身を持って教えてくれた事、無駄にしないわ。
晴生君の大振りパンチを足を使って大きく回避する事はしない。
晴生君の大振りパンチが、こめかみに当たる。
こめかみは骨が薄く、こんな場所に晴生君の大振りパンチが当たればどうなるかなんて。
そんな事は分かっていた。
それでも、私は、そのまま、才賀君に教えて貰った背負い投げで、晴生君を地面に付ける。
『投げ技は覚えておくといい』
『覚えておかなければいけない』
この時のために、才賀君は教えてくれたんだと思う。
『まず、何より、背負い投げさ』
『この技こそ、柔道の基本にして真髄』
『柔よく業を制すという言葉を体現した技なんだ』
柔よく剛を制す。
『月恵ちゃんは女子だからってのもあるけど』
『君に力は不足してる』
『けれども、君は巨漢とも、獣とも、怪物ともモンスターとも戦わなければいけない』
『その時が来る』
女の子の私には、力が不足してる私には、それが必要なんだって。
才賀君が言っていた。
その時は事実、来た。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!