「さて、ファンサービスはこの辺にしておくか」
「君達が囲んでいるその少女はなんなんだ」
義徒が、私に関心を持つ。
「この少女が上林月恵なんじゃないかって話しになってたんだけれどね」
「そんな証拠もないし」
「もう、上林は水守卿が殺したからな」
「やっぱりただの誤解か愉快犯でこの少女が名乗ってるだけかもな」
このまま誤解という事にしてしまえそうだ。
「ああ、そうとも」
「上林は、水守卿が殺した」
「私の言葉を信じるかどうかは、君達に委ねよう」
前世では、誰もこんなやつの言葉を信じたりはしなかった。
けれど、この世界では、きっと皆信じるのだろう。
「そうよね。義徒が嘘をつくはずないもの」
そいつ、大嘘付きですよ。
「私達は義徒を、水守を信じるわ」
「上林月恵は死んだ」
「悪は死んだんだ」
私を囲む群衆が、義徒を信じる言葉を掲げ、私が死んだと口々に言う。
「だ、そうだ」
義徒が、こちらに近づいてくる。
え、あの、ほんと無理なんで近づかないで下さい。
「誤解で囲まれて、怖かっただろう」
「もう大丈夫だ」
私、今が1番怖いんですけど。
義徒はまだ近づいてくるし。
え、そんなに近づいてくる必要あります?
あ、体臭凄い。凄く無理。
私、この匂い無理。
「上林月恵は死んだ」
「この世界で遊んでいるといい」
「君はもう死んだのだから、上林月恵」
!臭い!
義徒は、私にそう告げてから、通り過ぎていった。
義徒の言葉が、周囲に聴こえているとは思わない。
私がもう死んだのは分かってるわ。
けれど、私が水守卿に殺されたとは思えない。
前世の私が、水守一族から出てくる程の大それた事をしてはいない。
これは、記憶がなくても、絶対にそう言い切れる事よ。
そして、義徒は私が上林月恵だと言っている。
義徒は私が上林月恵だと分かっている。
私は、上林月恵なのでしょう。
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