「けどよ、こいつが上林なら、VRMMORPGなんてやって何がしたいんだ」
「そうね、私達がいくら囲んだって、ログアウトされたらそれで終わりよ」
「ただの成りすましでしょ」
「そうだよな。上林月恵の名を騙るやつなんて、いくらでもいるよな」
少しずつ、群衆の落ち着きとともに、私が本当に上林月恵とやらいう人物かどうかに疑問の声が出てくる。
それでも、包囲網は解除されないまま、突破もできず、議論も終わらなかった。
すると、私を囲む群衆より、もっと大きな騒ぎが聴こえてきた。
「なんだ」
「凄い勢いだよ」
私を囲む群衆が、自分達より大きな騒ぎに反応する。
「水守が水守の卿が上林月恵を殺したんだ」
え?私、水守卿に殺されたんですか?
どーでしたっけ。
水守といえば、流石にそれぐらいは記憶に残ってるんですが。
水守に殺された記憶はない。
そんな気はまったくしない。
「なんだと」
「本当なの」
「本当だよ」
「上林月恵の死体が世界中に公開されたんだよ」
私の死体、世界中に公開されるんですか。
私、前世でそんな大それた行為しましたかね。
「もう大騒ぎだよ」
「当分学校もお休みだよ」
それは良いわね。
私は、このエタファンの世界に転生してしまってるので、
学校がお休みになろうと関係ありませんが。
「世界中が水守を称えてるよ」
けれど、違和感がある。
世界中が、水守を称えている?
水守なんて、本拠地の天水島の結界の向こう側に閉じこもってる人攫い集団でしょう。
私の世代では動画配信やったりバーチャルアイドルだおのバ美肉おじさんしたり、愉快なオタク集団みたいなノリを気取っていたものの。
その実は、純全たるただの人攫い集団で、ゴミクズ外道カス共よ。
決して、称えられる存在ではない。
あいつらは、人類の祖先を名乗っているし。
世界中で土着の神のように祭られていたり、伝承が残ってたりはしていても。
人類が水守を必要とし、水守が人類を護っていたなんてのは、何千年も前の話しよ。
「水守はやっぱり私達の味方なのよ」
「水守最高」
この場に後からやってきた集団が、水守を称える。
当然、気分が良いものではなかった。
不愉快だった。
人攫い集団を、称えるな。
何もしてこなかった、人攫いしかしてこなかったド腐れ外道共に縋るな。
「じゃあ、この女は」
「どうせ偽物でしょう」
「なんの証拠もなくて、誰かが上林月恵かもしれないだか言い出して」
「騒ぎになっただけよ」
「もう、放っておきましょうよ」
「そうだよな。俺も家族連れて実家に帰って祭りの準備しなきゃ」
「俺も俺も」
「皆そうよ。お祭り料理たくさんしないとだし」
「エタファンやってる場合でもないわよ」
私を囲んでいた集団は、もう私に興味をなくしてきていた。
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