小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

11話――世間って狭いですね。

公開日時: 2020年11月28日(土) 16:07
文字数:3,578



 『暴れ熊アング』を討伐するためにれんかレンと少し買い物をしてから、街の東にある英雄像の前にやってきた夏雪ミルク


「もしかしてレンのフレンドってあれ?」


 人影が見えたので、ミルクがその方向を指差した。


「あっ、あの二人です。おーいっ」


 レンがブンブン手を振ると、向こうの二人も振り返してくる。どうやら二人とも(少なくとも見た目は)女性のようであった。

 

「ん?」


 近づくにつれて、次第に違和感を覚えるミルク。


「ん?」


 どうやら向こうも気付いた様子だ。

 やがて違和感はある種の確信に変わり、ミルクはレンと視線を合わせる。


「アイスさんですよね?」


「もしやレンの新しいフレンドというのはミルクのことなのか」


 そこにいた二人のうちの片方は、なんと先日ミルクと交流した女騎士のアイスであった。


「え、お二人って知り合いなんですか?」


 レンが驚いたように目を丸くする。

 

「あぁ、少し縁があってな。既にフレンドも登録済みだ」


 アイスは腕を組みながらそう言って、ミルクとレンを交互に見やった。


「なるほど、世界で一番かわいいと言っていたからどんなプレイヤーなのかと思っていたが、少し納得だな」


 ――納得しないでくれ……。


 真顔でウンウンと頷いているアイスに、ミルクはげんなりとした気持ちになる。


「どういうことです? 先輩」


 少し体をかがめて、レンがミルクの耳 (獣耳)に囁く。


「巨大グマに追われてれんかちゃ……、レンとはぐれた時に会ったんだよ」


「ふむふむ、なるほど」


 納得するレン。


「しかし意外でしたっ、まさかアイスと先輩が既に知り合いだったとは。色々心配してましたけど、杞憂だったみたいですね」


「……?」


 意味不明とでも言いたげに首を傾げるアイス。

 れんかの懸念とは、アイスの男嫌いのことであろう。

 そのことに気づいたミルクは、愛想笑いを浮かべることしかできない。


「ちょっと、ちょっとー、ボクを無視しないでくれないかい?」


 アイスの隣に立つ、トンガリ帽子を被ったショートカットの少女が、手に持った杖をフリフリと揺らしながら声を上げた。

 黒色のローブを纏うボーイッシュな少女だ。よく見ると、耳が長く尖っていた。


「はーい、じゃあ紹介しますね。先輩、この子は『チャイム』、私のフレンドで魔術師ソーサレスです。あと種族はエルフです」


 チャイムと呼ばれた少女が、ミルクに笑いかける。


「よろしくー、ミルクでいいよね。魔法に関してはボクに任せてね。攻撃、バフ、デバフはある程度こなすよ。その代わり、あんま火力は出せないけど」


「よろしくお願いします、み、ミルクです」


 ぺこりと頭を下げるミルク。もふもふの耳が揺れ、レンとアイスの視線が吸い寄せられる。


「のーのー、敬語は禁止。気軽にいこうよ」


 チッチッチと指を振るチャイム。


「あー、でも、レンは敬語みたいだけど?」


 チラリとミルクがレンを見上げた。


「レンの敬語は軽いからね。あんまり気にならない」


「わかった、じゃあよろしく」

 

「私にも敬語はいらないぞ」


 アイスが手を上げて主張した。


「うん、よろしくね」


 微笑みをたたえて、ミルクがアイスを見る。

 「はうっ」と声を上げてアイスが胸を押さえた。


「さてさて、それではさっそく行きましょうか」


 レンがパンと手を叩いて注意を寄せ、フェアリスの森がある方角を指差した。





 レンを先頭に、森の中を探索していく四人。

 レンの後ろにチャイムとミルクが並び、その後ろにアイスが付く。

 ひし形のような陣形で進んでいた。


「その暴れ熊アングとやらは何処で見かけたんだ?」


「えっとですね、鬼畜のサービスエリアのすぐ側です」


「まさか花玉を取ろうとしたのか? レンに取れるはずがないだろうに」


「む、それは私をバカにしてますか? 私だって無理なのはわかってますよ。でも先輩にとって貰えたから大丈夫です」


「なにっ? ミルクはアレを取れたのか?」


 驚きの目でアイスがミルクを見る。


「うん、取れたよ」


「へー、それは本当にすごいね。ミルクってまだ始めたばっかりなんだよね。あ、でも、種族は銀狼なんだっけ?」


 あ、知ってたんだ、とミルクは思った。レンが予めミルクのことについて話していたのだろう。


「銀狼なんて種族、レンから聞いて初めて知ったよ。種族補正の内容も聞いたけど、すごい極端だよね」


「うーん、そうなのかな」


 曖昧な返事をするミルク。彼は意味に自分のステータスがどの程度なのか、よく理解していなかった。


「たしかにかなり珍しい種族だと思うけど、もしボクがそれを当てても見送るかな。相当使いにくそう」


 レンに事前に聞いていたように、やはり銀狼とは扱い難い種族という認識らしい。

 でも夏雪は、ミルクとしてプレイをしていて不自由だと感じたことはない。

 まだ始めて間もないからだろうか。


「あ、みなさん。敵ですよ」


 レンが前方を指差す。ガサガサと茂みが揺れて、シカのようなモンスターが現れた。

 頭上には『グリーンディア』という文字が浮かんでいる。


 グリーンディアはミルクたちを視界に捉えると、大きなツノを振り回しながら突進してくる。


「とりあえずボクがやるよ。――『ウィンド』」


 チャイムが一歩前に出て杖を正面に向けると、小さな風の刃がグリーンディアを切り裂いた。

 一撃で敵のHPは無くなり、グリーンディアはポリゴンのカケラとなって散る。


 するとミルクの視界に経験値獲得のメッセージが、EXPバーのメモリが増えた。


「あれ、経験値がもらえたんだけど」


 ミルクの疑問にレンが答える。


「森に入る前に私たちでパーティーつくりましたよね。パーティーメンバーが敵を倒すと、経験値の何割かが分配されるんです。アイテムは倒したプレイヤーのとこに行きますけどね」


「へー、そうなんだ」


「あと、パーティーを組んでいるとマップにパーティーメンバーの位置が表示されるから、連携がしやすくなるぞ」


「パーティー専用チャットとかも使えるしね」


 レンに言われるままに操作してパーティーに加入したのだが、ちゃんとした意味があったようだ。


 そのまま、モンスターが現れた時は倒しながら、森の中、目的の暴れ熊アングを求めて探索を続ける。

 分配された経験値は、ダメージを与えた量によって分配量が変わるらしいので、サポートを受けながらミルクが中心にモンスターを倒した。

 ミルクを除く三人にとって、この辺りのモンスターの経験値はあってないようなものだからだ。

 お陰でミルクのレベルが18にまで上がった。


「うーむ、いませんねー。もう誰かに倒されちゃったんでしょうか」


 レンが呟いた。


「まぁ、ネームドだしね。人目のつくところに出てきたら割とすぐやられるから。レンがそれを見たのって二日前でしょ?」


 チャイムがレンに訊く。


「そうですね。やっぱり私の認識が甘かったですかねー」


 少し残念そうにレンが言った。その時、後方のアイスが何かに気付いたような声を上げた。


「おい、あそこを見てみろ」


 アイスがある方向を指差した。皆がそちらへ視線を向ける。

 よく見ないとわからないが、茂みの向こうに大きな穴がぽっかりと空いていた。どうやら洞窟があるようだ。


「怪しくないか?」


「ほー、あんなところに洞窟なんてあったんですね。初めて気付きました。怪しいです。行ってみましょう」


 茂みを掻き分けるようにして、四人は洞窟の方へ近づいていく。


 その途中で、ミルクはある音を聞いた。自然、ピクピクと獣耳が動く。


「ちょっとみんな待って」


 ミルクが抑えた声で呼びかけた。

 皆の視線が集まる。


「なんか洞窟の方から音が聞こえる。寝息みたいな音」


「ほんとですか?」


「うん、聞こえる」


「獣人種の補正で聴力も高まってるんだと思います。ということはあの中に何かがいることは確かですね。皆さん警戒して行きましょう」


「了解だ」

「おっけー」


 洞窟の近くまで寄ると、まずはレンが覗き込むように穴の奥を見る。

 そこは巨大な洞穴になっていて、一番奥に巨大な毛玉があった。大きな熊が丸まって眠っているのだ。


「あ、いました。暴れ熊アングです。寝てますよ」


「おー、まだ取られてなかったんだ。運いいね。よしやろう。寝てるんなら初手はボクに任せてよ」


 忍び足で、音を立てないように移動して、全員が暴れ熊アングを視界に捉えた。


「あ、その前にみんなのステあげとくね。――『アタバイド』『ガーディン』『スティード』」


 チャイムが杖をふると、


 ――STRUP

 ――VITUP

 ――AGIUP


 という文字が、ミルクの視界の端に現れる。


 次にチャイムは暴れ熊アングのほうに杖をむけて、呪文を唱える。


「――『マジックブースト』」


 チャイムの身体からだを青白いオーラが包み、彼女の正面に同じ色の巨大魔法陣が展開される。


「――『ヴァン・ヴィエーチル・ハウ・ウィンド』」


 彼女が早口にそう言った瞬間、魔法陣にパッと光が灯って、魔法陣から爆音と共に風の砲弾が射出された。まるで風の大砲である。

 風で出来た巨大な砲弾は暴れ熊アングの顔にクリーンヒットし、爆風が広がった。

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