小悪魔系変態ロリコン後輩とVRMMOやることになった

VRゲームでラブコメとかありですか?
ルーシ
ルーシ

6話――ネームドモンスターっていうのがいるんですよ。

公開日時: 2020年11月17日(火) 13:39
文字数:2,952



 この『Fantastic World』というVRゲームにおける基本ステータスには、大きく分けて四つの要素が関わる。


 一つ目は『基礎能力』。まとめてステータスと呼ばれることもあるそれは、


STR(筋力)

VIT(体力)

INT(知力)

MND (精神力)

AGI(機動力)

DEX(器用さ)


 以上の六種類に分けられる。


 これらの基礎能力を上げる方法はただ一つ。

 主にレベルアップの際に5ずつ手に入るBPボーナスポイントを消費することだ。

 また、基礎能力の初期値は、オール25である。


 二つ目が装備や装飾品、加護等による付与効果。


 三つ目は『職業』。

 選択する職業によって、以上二つで定められたステータスに補正がかかるのだ。

 もちろんプラスの補正だけでなく、マイナス補正がかかることもある。

 職業のランクを上げたり、上位職につくことで、より効果の高いプラス補正が得られるのだ。

 なお一度ついたことのかる職業であれば、教会に行けば自由に変更が可能だ。


 そして四つ目が『種族』。

 ゲームスタート時に自由に選択できるこれによっても、ステータスに様々な補正がかかる。

 職業と違い、種族は変更不可なので、選択は慎重にすべきである。


 



 夏雪ミルクの種族は『銀狼』である。

 これは隠れ種族と呼ばれるものの一つであり、最初の職業選択において、ランダムを選ばない限りなることができない。もちろん運任せである。


 銀狼種族による基礎能力ステータス補正は、良くも悪くも極端だ。


 具体的に説明するのなら、それは次のようになる。


【マイナス補正】

STR(筋力)80%

VIT(体力)30%

INT(知力)30%

MND (精神力)20%


【プラス補正】


AGI(機動力)――280%


DEX(器用さ)――180%



 ちなみに夏雪はれんかに進められるまま、レベルアップで得たBPボーナスポイントを全てAGIとDEXに7:3の割合で振っている。





「はい、とれたよ」


「えぇ……まさかそんな簡単に……」


 『鬼畜のサービスエリア』に挑戦し、いとも容易く花玉を手に入れてきた夏雪。


 遠慮など一切なく、無数に襲いかかってくる枝々の弾幕の中を、まるで人混みでも避けるように進んで行った夏雪。

 間近でその様子を見ていたれんかは、この『鬼畜のサービスエリア』が、自分でも簡単に突破できそうな錯覚に陥った。

 それほど、夏雪は涼しい顔で帰ってきたのだ。


 実際は、簡単であるはずないのだが。

 でなければ、『鬼畜』などと言う名前が付けられることはない。


 これには流石のれんかも動揺を隠しきれなかった。


 夏雪は何気なく花玉を差し出す。


「ほら、これが欲しかったんでしょ」


 しかし、楽観的にもすぐに調子を戻した彼女は、突如として夏雪ミルクのことを抱きしめる。


「っ!?」


 突然すぎるその動きには、夏雪も反応しきれなかった。

 そもそもとして、彼女と彼の間には、大きなステータス差がある。


 自分より十倍以上高いSTR(筋力)に抱きしめられて、夏雪は身動きができなくなる。


「うーっ、やっぱりミルクちゃんは可愛いし先輩はすごいですっ」


「……どっちも僕なんだけど」


「ふふっ、そうですねっ」


 抱きしめられて苦しそうな声を出す夏雪と、嬉しそうに笑うれんか。


 そんな時、ガサガサと、茂みが大きく揺らぐ音がした。


 位置的には、ちょうどれんかの真後ろ、夏雪の正面である。


「…………ちょ、ちょっと、れんかちゃん」


「あっ、こら先輩。だからこの世界では私はレン――あれ?」


 巨大なクマ。


 言葉で言ってしまえばそれだけだが、実際に全長四メートルを越すクマを目の前で見る迫力は、想像を遥かに越す。


 突如として現れた巨大グマの頭上には、赤色で『暴れ熊アング』という文字が浮かんでいた。


 『ネームド』――名前付モンスターである。


 『ネームド』は、別名ユニークモンスターとも呼ばれる。

 その名の通り、通常のモンスターと違い、固有の名前を持っており、この世界における唯一の存在だ。


 倒せば必ずユニークドロップをすることで、多くのFWのプレイヤーが血眼になって探すモンスターである。

 とある所では、『友情破壊モンスター』と呼ばれることもあるらしい。


 そう、いくつかの例外を除いて、『ネームド』は多人数PTパーティで倒すべき相手なのだ。


 どうあっても、初心者を含める二人で倒せる相手ではない。


 それを確認したれんかは、無言で夏雪の背後に回ると、「よいしょ」と夏雪の背中にしがみついた。

 かなり無理がある体勢である。


「お、おい、ちょっと……? れんか……じゃなくてレンさん?」


「これはドジっ子の私には無理ですね。先輩、お願いします」


「待って、かなり重たいんだけど。ていうかこれ無理があるって」


「乙女にそんなこと言うなんて失礼ですねっ」


「今の君は乙女じゃないでしょ」


 むしろ今の夏雪が乙女――というか少女だ。


 長身の男が少女の背中にしがみつくこの光景。

 何も知らない人がこれを見たら、ギョッとすることであろう。

 

「グルゥゥゥゥ……っ」


 低いうなり声を上げ、夏雪たちを威嚇する暴れ熊アング。


 ――あ、これもうヤバイな。


 夏雪は思った。


「はーっ、途中で落としても知らないからなっ」


「はーい」


 そう言うと夏雪は、れんかレンを背負い直すと、地面を蹴飛ばした。


 同時、暴れ熊アングもスタートを切って、決死のレースが始まった。




 その後、暴れ熊アングから逃げ続けた夏雪はれんかと共に崖から落ちた。


 なんとか持ち前の身体能力を生かして、落下ダメージで死ぬことは免れたが、れんかと離れ離れになってしまったのである。





 れんかと離れたことでひとりになった初心者夏雪は、比較的気楽な気持ちで森の中をさまよっていた。


 これがリアルならそうもいかないだろうが、ここは仮想世界セカンドリアル

 命の危険がない分、楽観的にもなれるものだ。

 だというのに眼に映る景色全ては現実リアルそのもの。

 臨場感などという言葉には収まらない。なるほど、セカンドリアルとはこういうことか。


 VRゲームというものが世間で大流行りしている理由がよく理解できた。


「なんか気持ちいなこれ」


 壮大な自然に囲まれて、夏雪は思い切り伸びをする。


「ギギィッ!」


 その時、夏雪の前に二匹のモンスターが飛び出してきた。


 名前は『キラービー』。一見して蜂のようなモンスター。大きさは、八十センチ程だ。


 いきなり現れた巨大バチに、夏雪は一瞬ビビるが、すぐに腰から短剣を抜く。

 そろそろこの動作にも慣れてきた。


「よっ、と」


 夏雪は軽く地面を蹴って、二匹のキラービーの間に突っ込む。

 

「「ギギィィイイッッ!」」


 格好の的と化した夏雪に、キラービーは嬉々として襲いかかった。


 が、その刹那。


 一切の前触れなく静止し、バックステップで距離を取る夏雪。

 完全にペースを崩されたキラービーたちが惑ったその間隙を付いて、短剣を振るった。


 その刃は、交互に二度ずつ敵の顔面を捉える。


 ―――critical!! 


 の文字が連続で浮かび上がって、キラービーたちは爆散した。


 ―――EXP:87

 ―――Drop Item:『緑の蟲魔石』、『キラービーの片羽』


 ―――LvUp!! Lv8→Lv9

 ―――Congratulations!!


「お、よっしレベルアップ」


 短剣を腰に収めながら、夏雪は呟いた。


「ひゃぁぁぁぁぁっっ!!」


 茂みから一人の女性が飛び出してきたのは、ちょうどそんなタイミングだった。


「ん?」


 そしてその女性の背後には、大量の蟲系モンスターがうじゃうじゃと引き連れられていた。


「……げ」

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